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ヘタレの努力家  作者: りばーしゃ
第2章 王都〜ミーション〜
112/213

むにんって、むにむにって




「来ましたー」




「来たかい。座りな」




 ぽわぽわと口から煙を吐くリンガーナさんの通りにテーブルを挟んだ目の前の座布団へ座る。


 おっ、一服中ですかい。ミントの良い香りがしますです。


 ルギくん達は部屋で待機してもらった。暇つぶしはシラタマが居れば大丈夫だろうとお相手にぶん投げておいた。




「それでどうしました?あまり良い事じゃ無さそうですけど」




「まぁ要件を手短に言うとね。近くの街道で護衛を受けていたギルド員が惨殺された。依頼人共々ね」




……予想以上に良くない情報だった。そら食事中に話せる話題じゃない訳だ。俺だけ呼ばれた理由はそういう事か。


 コトリ、と右手に持っていたVAPEを褐色のテーブルの上へと置いて再び口を開く。



「なかなか優秀なギルド員だったらしくてね。弟も目をかけてた程で知り合いにも声を掛けて全力で捜索をしているよ。まぁ…あいつの能力には不向きだろうがね、近いうちにAクラスのギルド員も何人かここへ来る筈さ。……ああ、Aクラスってのはギルドで規定された大雑把(おおざっぱ)な強さだよ。Sを一番上としたA.B.C.D.Eの六クラス」




 途中でほへん?となっていた俺の表情に気付いたらしくそうリンガーナさんが付け加えてくれた。




「その犠牲になったギルド員の方はどのクラスだったんですか?」




「それが今ギルドに行かない方が良い最大の理由でね。やられたのはCクラスの二人さ。強さを例えるならヘビーベアーって言う結構な強さの魔物が居るんだがそいつ一匹を倒すのにEクラスなら五人、Dクラスなら三人、Cクラスは一人……ここまで言えばどのくらいやばいのかはあんたでも分かるだろう?まぁそう言う事さ、ギルドに行くなら昼過ぎが良い」




「……分かりました」




 事のやばさが分かって来た。バルロさんが帰って来なかったのも頷ける。


 そのヘビーベアーが〝俺にとって〟どのくらい強いかは分からないが……一般に言うベテラン領域に達そうとしてた人が犠牲になったのは分かった。


 いかんせんその強さがはっきりしないのは俺と戦った相手のせいだろう。ヴィレットにヴァサーゴさん、そして……あの組織……通りで普通が分からない訳だ。


 VAPEを再び口にしながらリンガーナさんがため息混じりに煙を吐く。




「……ふー……全く、一週間後に大会が始まるってのに幸先悪いねぇ……まぁ〝大会自体は問題無い〟だろうけど困ったね。カナタも出るんだろ?一応気を付けな」




 おお、一週間後にあるのか。それなのに出店も出るこの賑わい様とは……ん、〝大会自体は問題無い〟とな?


 そんなやばいのが居るなら問題があるのでは?




「大会荒らされたりはしないんですか?」




「んー?何言ってんだい。〝大会に出る奴らはCクラス以上の強さがあるのが出場資格〟だからね。心配するだけ無駄だろう?」




 おっふ。俺とんでもない大会出るのね。そりゃあ問題は無い、辞退しようかしら。




「……ヴィレットや前回優勝者のヴォルグとヴァネッサさんはどのクラスなのでしょうか」




「全員Aクラスだよ」




「──よーし、今日の筋トレは何にしようかなー」




「こらこら、逃避しないの」




 窓に向かって伸びをする俺に向かってリンガーナさんが現実に戻そうも声をかけた。


 いや待ってよ。本気のヴィレットがAクラスって俺死ぬやん。手合わせはしたけどアイツ魔眼すら使ってないやん。そんなのごろごろ居るんじゃろあー朝日が気持ちーなー。




「──大会に良い所まで行けばモテるよ」




「──ッふぉう!」




 左耳にかかる生暖かい吐息混じりの囁き声に思わず飛びのいた。


 左耳から背筋へぞわぞわしては身体全員にぞわぞわが広がる。


……変な声が出てしまったぞ。




「くっくっく…耳は慣れなかったかい?」




「…やめて下さいなー。そんなん久しぶりにやられましたよ」




 くつくつと目を細め、楽しそうに笑うリンガーナさんを見ながら未だに感触が残る左耳を(さす)る。


 ああ、まだぞわぞわする。慣れんでしょこんなん誰でも。




「バルロには効かなかったんだけどねぇ。カナタは良い反応するから面白いねぇ。良く弄られるだろう?」




「ええまぁ、それで良くイジメにも合いましたけど」




「ああそれはごめんねぇ。──ま、あんたが全力でぶん殴っても死にゃあしない奴らばかりさ。過去の恨みをぶつけるつもりで気楽にやりな」




「──あ……っ」




 その言葉に先程の行為の理由を理解してしまった。ああ、なるほど。ごちゃごちゃ考えている俺の思考を止める為なのだと。




「……うっす。ありがとうございます」




 自然と頭を下げた。そのさりげない気遣いに。


 やっぱ変わらないな、俺。いらん事を考え過ぎる。


 と、不意に身体がぐいと前に引っ張られた。


 突然の事に身体はそのまま前へ、そしてむにん、と頭に柔らかくミントの良いにおい──はっ?




「全く素直だねぇ。あの弟もこんぐらい素直ならもっと可愛げがあっただろうに」




 柔らかく温かい、そしてぽんぽんとした反動と共に頭の真後ろで聞こえるリンガーナさんの声。


 ええ、これはあれだ。胸元で頭をぽんぽんされている。




「………ッ……」




 その事実が分かると顔が紅潮していくのが分かった。


 ええ、あの、その、とても恥ずかしいんですが。


 思考?そんなものは頭にむにむにする感触で止まったわ馬鹿野郎。




「まーったくこのでかい身体しといて。あいつの奔放さを少しあげたいくらいだよ」




「あの……そろそろ勘弁して貰えると……」




「ん?……へぇ〜?そーかそーか。ならこの辺にしといてあげよう」




 停止からぐるぐるしてきた思考の中でその言葉を絞り出すとむにむに空間からようやく解放された。


 ああ、あっつ。身体あっつ。




「…まさか童貞じゃあ無いだろうね?その顔と身体ならほいほい寄ってくるだろう?」




「…童貞じゃないですけど!モテたのはご老人と子供ぐらいです……!」




 リンガーナさんその質問は辛いんだが!!もうやめて俺のライフへゼロよ!!!


 小さい頃から社会人になってもお年寄りと子供に好かれてましたけど何か!!!


 童貞っぽくってすいませんねぇ!!




「そもそもこの体格になれたのはこの世界で成長したからで元はチビでしたしー……」




「あーごめんごめん。ぶすっとしないの。おーよしよし。……なるほど…惜しい……」




 腕を組んで目を外の景色にやる俺の後頭部にわしゃわしゃとリンガーナさんの手であろう感触がした。


 ん、今「惜しい…」って言ったような。




「今惜しいって言いませんでした?」




「はてー?なんのことだろかー。さー、そろそろ行かないとすぐ日が暮れるよー」




「あー」




 そしらぬ顔をしてぐいぐいとリンガーナさんは俺を追いやった。


 何となく理由分かったけどスルーする事にしよう。







「おら!行くぞお前た──何してんの?」




 部屋に戻ると突き出したルギくんの両手の近くで空中でふわふわと浮きながら動く毛玉ことシラタマが居た。




「シラタマに糸付けて遊んでる」




「ふにゅー♪」




「……そか」




 ルギくんや。それは操り人形と言うんだ……二人とも楽しそうだから生暖かい目でスルーしよう。




シラタマ


「にゅっ、にゅっ、にゅ〜♪」




ルギ


「そい、そい、そーい」




カナタ


「和む…じゃねえ、行くよ二人とも」

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