〝そこ〟には見慣れた〝あれ〟
…
──時は少し巻き戻ってカナタ達がギルドへ出てすぐの頃──
「相変わらず人が多いなぁ……いや、なんかあったのかな?」
袖口が少し薄汚れた、全身紺色の作業着を見に纏う男がギルドの扉を開いてそう口にした。
ぼさぼさ気味の少し長い茶色の癖っ毛は作業着と同じく紺色のキャップで抑えられ、より地味な印象が増している。
ここに来るのは久しぶりだが、相変わらずの人の多さだと思いながらも、統一性の無い集団が〝何か集まって話し合って〟いるのに気付いた。
やれ「シラタマ様」だの、やれ「癒しの化身」だの話し合っている事からペットの名前でも考えているのだろうか。
「まぁ、いいや。受付は──良かった、空いてる」
軽く流して作業着の男は受付の方へ向かう。
それに気付いたのか、受付である男性が声をかけてくれた。
「ああ、レオル様。どうしました?ご依頼の確認でしょうか?」
「お世話になってます。今日は個人的な依頼をしたくて」
受付とはお店の依頼を頼む為に顔馴染みであった。
おや、と少し目を丸くさせ、受付は再び口を開く。
「珍しいですね?…ふふ、もしかして〝例の依頼〟に再チャレンジですか?」
「そ、そうです。笑わないで下さいよ……小さいだろうけど僕の夢なんですから……」
受付の微笑んだ顔を小馬鹿にされたと思ったのか、作業着の男は顔を少し赤くした。
「いえいえ、そう言う意味で笑った訳ではないですよ。私もそう言う〝ロマン〟のある〝道具〟は好きですし応援してますから。まぁ、このような雑務を任されてる通り、生憎アイデアなどはからっきしですがね」
「ありがとうございます。僕にはそっちがまるで出来ないので十分凄いと思いますよ」
「そう言ってもらえるとこちらも救われます。…そういえばレオルさん〝も〟異世界人でしたね。もしかしたら……」
「〝も〟?どうかしたんですか?」
不意に耳に入った受付の言葉に作業着の男、レオルが聞き返す。
すると受付がこんな事を言い始めた。
「レオルさんは知らないとは思いますが…ついさっき異世界人の方がこのギルドに来たんですよ。奴隷商から少年を助け出した方でして。ああ、人格としてはとてもまともな方です。大柄な方ですが顔からはとても優しそうな雰囲気が滲み出ていました」
「ええ!?本当ですか!?」
そういえばオーナーが前に何か話していたような気がする、と会話を思い出す。
…
「ああ、レオル。もしかしたらアンタの作品に興味を持つ奴が来るかもしれない」
「え、どうしたんです?」
「知り合いから得た確かな情報だ。近々王都に〝面白い〟異世界人が来るらしい。…ま、チャンスがあったら近づいてみな。アンタの描く〝モノ〟が作れるかもしれない。頭の角にでも置いておくと良い。私は少しここを離れるが作業を引き続き頑張ってくれ。アンタの同僚のアイツにはカバーを頼んでおくから安心しろ」
「分かりました」
「…あのおっさんがしっかりしてればなぁ……ええい、珍しい便利な能力を持ってからに……!」
「あはははは」
…
「依頼、その人に頼めませんか!?」
きっとその人だ!と確信に近い何かを思ったレオルはその言葉を口にしていた。
この国にも自分以外の異世界人は居るにはいるらしいがこの仕事もあり、関わるチャンスは殆ど無い。
それが目の前にあるならば。
「頼むのは少し難しいかもしれません。彼はギルドメンバーでは無い、〝一般人〟ですからね」
「そんなぁ……」
なんと言う悲しい現実。そうか、そう言えばギルドに来た=ギルドメンバーになると言う訳では無いのは自分にも言える事であるとレオルは嘆いた。
自分のような戦闘には向かない人かもしれないのだと。
──が。
「一応ギルドマスターに連絡してみますよ。今は宿屋へ向かっていて今日中には返事は出来ないと思いますが」
「……!是非!お願いします!」
その受付の言葉に、レオルは嘆きに俯いた顔を勢いよく挙げた。
受付はにこりと一つ微笑み、口を開く。
「ええ、承りました。連絡付き次第そちらへご連絡します」
…
ロファさんのお陰で難なく通行出来た俺達はその〝宿屋〟の前へと着く事が出来ていた。
目の前にあるのはこじんまりとした和風の宿屋。
そして驚いたのは宿屋の看板……【火雷】と、俺には見慣れた〝漢字〟に【ジーナ語】のふりがな…ややこしいが読み方がそうふられていた。
艶のある木製の看板に、横に流れるかのような達筆、そしてこの浅草にあったようなこじんまりとした、それでいて立派な建物。
間違い無い、これを建てた人は俺と同じ〝異世界人〟だと、確信した。
「……漢…字…」
「ああ、そういやお前には馴染み深い文字だったな。ぼーずには分からんと思うけどよ」
「…はい、これは俺がいた世界の文字です。そしてこの外観はまさしく……」
「ファウストさんがお前達にココを進めたのはソレが理由だろうな。……ぼーず、そんな顔しても読めねーぞ?」
ロファさんのその言葉に右隣りに居るルギくんを見ると眉毛をもぎゅりと富士山のように互いに寄せながら栗のような口を開けてしかめていた。
「なにこの模様……」
「に゛ゅ……」
そらそうか。ルギくんの反応が普通は正しいのか。
漢字、ましてやこんな達筆で書かれてりゃあ模様にしか見えないのもしょうがない。
草書って言うんだっけこれ。
ちなみにシラタマもルギくんの頭の上で同じような表情で看板を見ている。なんだこれは、マスコットに出来そうだな。
「姉貴ー、連れて来たぞー」
ガラリとロファさん引き戸を右側へ滑らせて開けると……俺は思わず目を擦った。
「は…?何この広さ……」
カナタ
「もしかしたら俺の気の抜いた汚い文字は全て模様に見えるのでは?」
ルギ
「オレ【ナージ語】しか知らないし字が汚くても書けるだけ凄いと思うよ兄ちゃん」
シラタマ
「ふにゅう、にゅ〜」
カナタ
「ルギくんは褒めるがやれやれみたいなシラタマ許さん」




