〝チャラい?〟男
さぁ問題です。知らない人によーやく会えたと声をかけられたら俺達はどーするでしょう。
ちっちっちっちっちっちっち。はい時間切れー、正解はっ──!
「「「……」」」
じりじりじり……
「おいおい、警戒すんな警戒すんな。ファウストさんから頼まれた護衛役だよ俺は。そんなじりじりと後退せんでも何もしねぇって」
右手をひらひらさせながら、軽薄そうな男が眉を下げた。
真っ黒なタンクトップに真っ黒でぴたりと肌に着く、タイトなパーカーの前は開きっぱなし。
ズボンは同じく真っ黒でダボついたカーゴパンツ。
全身真っ黒──ではない、その頑丈そうなブーツは黄土色、そして長い、肩までかかる程のさらりとした髪は金。
こちらを写す眼は猫科のように黄色く、しっかりと捉えていた。
「ああ、アンタがそーなのか。てっきりまた厄介な人が来たのかと……こんなにもその……」
ルギくんを後ろへ隠すようにしてた右手を下ろし、再度その男を見る。
身長は俺より少し低い大体百七十後半、男の俺から見ても2枚目の甘い顔つき、ダボついたズボンでも分かる長い脚、真っ黒なタンクトップに浮き出るシックスパック。
そして〝極め付け〟はアクセサリー。
右耳には宝石付きの三連ピアス、ズボンにも宝石付きのチェーンが左側からお尻に飾られており、真っ黒なタンクトップの胸筋を土台にしているのは赤、青、黄の宝石が付いたネックレスだった。
うーんとても……
「チャラい…か?」
「チャラいっすねー…格好も雰囲気も」
「雰囲気も!?」
俺の言葉にずがびん、とその人はショックを受けたように口を開けた。
アレ?もしかして怖い人では無い?
「…ちっきしょー、姉貴にも言われたけどそんなにチャラいか俺……俺は嫁一筋だってのに……」
声を小さくし、「一つ外すか?いやいやコレは任務で必要になるし…」とぶつぶつと男はじゃらりとアクセサリーを見つめて呟いた。
既婚者…だと……?俺より年齢同じぐらいに見えるのに……
と、こちらはこちらでショックを受けていると再び男が口を開く。
「──まぁいい。ほらさっさと行くぞ。おせぇと宿屋で待ってる姉貴にどやされちまうからよ、着いて来な」
がりがりと頭を掻いて顔を苦くしかめると、男はくいくいと親指で催促をした。
宿屋って言ってるしどうやら本当に迎えの人らしい。
「行こうルギくん、宿屋って言ってるから大丈夫っぽい」
「……なんかレト兄ちゃんとちょっと似てる」
「ああ、ヴァネッサの姉御に弄られてる時の顔にそっくりだったな……」
「にゅ……」
──レト、早くしな。人化してから動くのにどんだけ時間かかってんだい──
──うるせぇ…!姉貴ほどまだ慣れてねぇんだよ……!!──
頭に思いだすのは二人のやりとり、なんとも言えないヴィレットの苦い顔に姉御のジト目。
うむ……似てるわ。
おぅーい。早く行くぞー。日が沈んじまうぜー。
もう既に離れてしまっていた男がこちらに気付いて声を飛ばす。
いかん、逸れてしまっては迎えに来てもらった意味が無い。
似てるのは境遇と立場ぐらいらしく、ヴィレットよりは大分、いや、かなり雰囲気は柔らかいようだ。
「今行きまーす。行こかルギくん」
「うん。…兄ちゃん気付いてる?」
不意にルギくんが俺へと訪ねて来る。
恐らく俺が思っていた事と同じ、ある事に気付いたのだろう。
「気付いてるよ。あの男、チャラい雰囲気だけど──〝隙が無い〟。強いな、間違い無く」
ゼーベックのように軽い印象のようで、身体の至る所を見ても隙が〝見当たらない〟。
今もああして無造作に両手をポケットに突っ込んで立っているがまるで無い。
まるでヴァサーゴさんのようだ。何者なのだろうか?
と、疑問を浮かべていても仕方がない。着いて行きながら聞いてみよう。
「まぁ、俺の感が大丈夫って言っておる。なぁシラタマさんや」
「ふにゅ!」
「シラタマは分からないけど兄ちゃんが大丈夫って言ってるなら信じる」
「にゅっ!?」
がーん、と頭の上でびくりと固まったシラタマはほっとく事にする。
どんまいシラタマ。
…
「ねぇ、どう?ちょっと寄ってかない?」
「悪いな。ちょいとコイツらを奥の宿屋へ案内してんだ。他の奴らに頼むわお姉さん」
「お兄さん達、ちょっと気持ちいい事しない?ぼうやも面倒見てあげるわよ?」
「はっはっは、辞めとくよ。コイツらをホノイカヅチに連れていかにゃならんからさ。女将さんが待ってんだ」
なら、しょうがないわね、と、男の巧みな会話と嫌味の無い笑顔に露出の多い服を着た女性たちを後にする。
具体的に言うと水着と寝巻きが組み合わさったような服だ。
捻れた角を持った女性も、襟巻きのような耳をした女性も、その衣服を〝わざと〟崩し、誘惑をするような服装だ。
この人が居なかったら……と言う想像が思わず浮かぶが考え無い事にする。
ゼーベックみたいに女好きには堪らない服装なのだろうが俺みたいな人間は固まるであろう。それか素っ気ない言葉を数度使って足早に去る。
「慣れてますね。正直助かりますよ、ルギくんも居るし」
「友人の一人に女好きが居てな。前は一緒にナンパとかもしてたからあしらい方に慣れてんだ。ま、今は嫁も居るし俺はする気も起きねーけど」
今でもアイツはしてるんだろなー、はっはっは、とわらいながら男は俺の言葉を軽く流す。
ゼーベックみたいな人だろか……しかし嫁が居るからもうしてないし、しようとも思ってないのは好感が持てるな。
「そう言えばアンタの名前は?」
「あー…んーと……どーすっかな……」
先ほどの巧みな会話とは変わり、困ったようにぽりぽりと頬を男は掻いて言葉に詰まった。
「ロ…ファ…うん、ロファでいいや。ああっと、詮索はすんなよ。こっちもこっちで事情があるんだ、悪いな」
「ああはい、分かりました。ロファさんですね」
すまん、と右手を縦にして小さく礼をするロファさん。
ここでは言えないような名前なのだろうか、ルギくんの村の件もあるしなんらかの影響がある名前なのだろう。
そこは追求しない事にする。余計な詮索は良くない。
「硬いなぁお前…大体俺と同じくらいの歳か?」
「25ですね。すみません、初対面だと年齢関係無く自然と敬語になってしまう癖がありまして」
よっぽどの事が無いとこの癖は抜けない。
ヴァインくんやルギくんのような明らかに歳が幼いと分かるぐらいならともかく、同い年や多少下でもこの癖は自然と出てしまう。
これは視力が悪いが故に顔が分からなくてつい年上をタメ口で呼んでしまった時のトラウマでもある。
あの時のドスの入った「あ゛?」の一言は耳から消えない。
何をそんな…と思うだろうが俺みたいなヘタレにはそんな些細な事が深く心を抉るのだ。
この敬語は言わば──壁。言葉というのは不思議な物で、丁寧な口調は敬いの意味として捉えられる事が多いが、嫌厭……嫌いという意味でも使われる。
タメ口も同じだ。友好の時に使われる事も多いが、見下しという意味と捉えられる事もあるのだ。
本当に不思議な物だ。矛盾という言葉よりも矛盾している。
「なんだ俺と二個下か!で?そっちのぼーずは?」
「オレ十二」
「ふにゅにゅ!」
ルギくんに続いてシラタマがそれに続くようにほよんと頭の上で小さく跳ねた。
うむ、お前は分からん。
「はっはっは、そうかそうか!姉貴が喜びそうだな、久しぶりに俺より若い奴だーってな。その丸っこいのはなんていってるか分からんがな!」
「にょ!?」
またもやがびん、とショックを受けてシラタマがびくりと固まる。
大体三歳くらいなんかな?そんな風に聞こえた。
カナタ
「おお、よしよし」
シラタマ
「………にゅ〜」
ルギ
「シラタマが兄ちゃんの頭の上で潰れて帽子みたいになってる…!」




