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第95話【一人にはしない】

 未だに東側の草原では人間対ドラゴンの激しい攻防が繰り広げられていた。


 元S級騎士のクロイツァーとセルディス。

 現S級女騎士のローエとフランベール。

 後方支援の魔法騎士隊。

 そして老兵たち。


 老兵たちは長時間に及ぶ戦闘で体力が尽き、次々とやられ始めた。

 前線が崩れ始めている。


 クロイツァーはA級ドラゴンの群れを薙ぎ払いながら、ある空気の変化に気づいた。


 ──静かだ。


 A級ドラゴンの蠢くこの草原はまだ喧しい。


 でも、なにか静かなのだ。


 なんだ? この気味の悪い静けさは……


「!」


 クロイツァーは振り返り、ようやく気づいた。

 

 S級ドラゴンの長距離攻撃が、いつの間にか止まっていたのだ。

 火球と氷塊をくらい続けた【エルガンディ王国】は、もはや炎の海と化している。

 あそこに生存者など、もういないだろう。


 結局カティアが城壁から出てくることはなかった。

 堪えきれない涙が頬をつたう。


 ……避難民の最後の列も守り切った。

 あとは、最後の仕上げだ。

 若い騎士たちを撤退させて、それで……おしまいである。


 みなに号令を掛けようと視線をやるが、近くにいたフランベールという弓使いが愕然と肩を落としていた。


「嫌だ……出てきてよゼクードくん、カティアさん……姉さん……」


 こんな戦場で何をやっているのか。

 見かねたクロイツァーは彼女を怒鳴った。


「何をしている貴様! 死にたいのか! 立て!」


「は……はぃ……」


 フランベールはフラフラと立ち上がった。

 ゼクードとカティア。

 そして姉を呟いていたところを見るに、それを失った悲しみでこうなっているのだろう。


 さっきまでローエという女騎士にあれこれ言っていたくせに……どうにも、悲しみの限界を越えたようだ。


 気の毒だが、悲しいのはお前だけじゃない。


「しっかりせんか! お前たちはもう鉱山へ撤退しろ!」


「……え?」


「若い騎士たちを連れて鉱山へ逃げろと言っている!」


「……あなた方は?」


「国王の命令で最後だ。お前たちがいては撤退できん! 急げ!」


 息をするようにクロイツァーは嘘をついた。

 フランベールは泣きながら頷いて、別の場所で戦っているローエや仲間に撤退の合図を送る。


 これでいい。

 あとは死ぬまで、ここで戦うまでだ。


 楽なものだと思いつつ、クロイツァーは迫りくる凄まじい殺気の気配を感じた。


 その殺気の正体は、さっきまで長距離攻撃に専念していたS級ドラゴンの群れ。


 どうやら街中へは侵入せず、そのまま東側へ直接攻撃に出てきたようだ。


 どこまでも徹底的なやつらである。

 皆殺しにせねば気が済まないのだろう。


 A級ドラゴンの群れを相手にしながらS級ドラゴンの群れも相手にせねばならないとは。

 生涯最後の戦いには相応しい……惨めな最後になりそうだ。

 

「やれやれ。これは骨が折れますなぁ」


 隣に立ったのはセルディスだった。

 さすがは自分と同じ元S級騎士。

 無傷である。

 息もまだ、そこまで上がっていない。


「……いいのかセルディス? あのローエという女騎士は、お前の主だろう?」


「良いのです。ローエ様とリーネ様が生きていてくだされば、それ以上は何も望みませぬ」


「そうか……」


 過去に、自分の家族を守れなかった男。

 失意の中で、マクシア家に拾われた。

 クロイツァーが知るセルディスの中身はそれだけである。

 

 守れなかった家族とは、妻のことか?

 それとも両親のことか?


 今さら聞く気にはなれず、また興味もなかった。


「クロイツァー様こそ、良いのですか? まだ生きている可能性はありますよ?」


 カティアの事を言っているのだろう。

 わかっている。

 今すぐにでもこの場を放棄して探しに行きたい。


 だけど、それ以上にカティアの死体を見るのが怖かった。

 自分が本当に壊れてしまいそうで。


 生きている可能性など、万が一のレベルだろう。


「わかっている」


 それだけ何とか返して、クロイツァーは双剣を握り直した。



「リリーベール!」


 ガイスは火の海と化した【エルガンディ王国】の街中を走っていた。

 部隊の指揮を放棄して、まだ街中にいたはずのリリーベールを探している。


 リリーベールが担当していた【フラム領】はまだ城壁を潜っていなかった。

 前が混雑していて進めず、火球と氷塊の雨をくらう形になってしまった。


 S級ドラゴンの攻撃が始まってから、ガイスはすでに城壁内へと駆けていて、火球や氷塊をなんとか凌ぎながら探索していた。


 だが、リリーベールは見つからない。

 もはや街中は原型をとどめておらず、火の手が上がるばかりだ。


 焼け死んだ死体や、氷塊に押し潰されてた死体がそこら中にある。

 リリーベールもこの死体の一人となっているかもしれない。

 そう思うと、ガイスは泣きそうになった。

 いや、すでに涙は流れていた。


 守ると誓った相手なのに、こんな、すぐに……。


 最後にリリーベールと話した場所まで来たが、そこも瓦礫の山と火の手が激しく、とても人が生きていられる状態ではなかった。


 やはり、リリーベールは……


 ──誰か……助けて……


「!?」


 気のせいか?

 炎の弾ける音の中に、声が聴こえたような。


「誰か……助けて……ガイス……」


 この……声は……!


 ガイスの意識が一気に覚醒した。

 声のする方へ駆けてみれば、そこには瓦礫の下敷きになりながらも、奇跡的に生きていたリリーベールの姿があった。


「リリーベールッ!」


 ガイスは歓喜に満ちた声を上げながらリリーベールの元へ。

 リリーベールは下半身が瓦礫の下敷きになっているが、外傷は少ない。


 服はボロボロで、髪の毛もコゲている。

 それでも彼女は生きていた。


「ガイ……ス」


「もう大丈夫だリリーベール! 足の感覚はあるか!?」


 彼女の下半身が瓦礫の中でどうなってしまっているのか知りたかったから咄嗟に聞いた。

 何かが突き刺さったりしてないだろうか。


「足……挟まって……抜けない……」


 挟まって抜けない、ということは足自体は無事なようだ。

 安堵したガイスはすぐに瓦礫の塊を持ち上げようとする。

 無事だったとは言えリリーベールはかなり弱っている。

 早く助けて出してやらねば!


「待っていろ! すぐ!」


 女のためにここまで必死になっている自分が不思議だったが、今のガイスには些細な事だった。


 ガイスはたった一人で、瓦礫の塊を持ち上げようと全力を上げる。

 その瓦礫の塊とは建築物の屋根だ。


 その倒れた屋根の下にリリーベールの足が挟まっている。

 僅かな隙間があったリリーベールは無事だったわけだが、今度はこの屋根が持ち上がらない。


「ぐ、ぬぅうう! ぬああああああ!」


 雄々しく叫ぶも巨大な建築物の屋根は超重量すぎて持ち上がらない。

 何度も何度も持ち上げようとしたが、ガイスだけの力ではまるで上がらなかった。


「……もぅぃぃよガイス……逃げて……」


 リリーベールがそんなことを口走ってきた。

 ガイスはすぐに返す。


「君らしくない! 諦めるな!」


 リリーベールは首を振る。


「ぃぃから……見捨てていいから……逃げて……お願い……」


 泣きながらリリーベールは懇願する。

 それを見たガイスは、それでも持ち上げるのをやめなかった。


「リリーベール……君がここで死を選ぶなら、俺もここで死ぬ」


「!?」


「一人にはしない」


「……ばか」


 うつむき、涙を隠すリリーベール。

 ガイスは諦めずに屋根を持ち上げようとふんばった。

 

 すると──別の誰かの片手が、ガイスの持ち上げを手伝った。


「っ!?」


 ガイスは驚いたが、同時に屋根が持ち上がり始めた。

 隣を見れば、そこには血だらけの黒騎士が立っていた。

 彼の背中には赤い鎧を纏った女性が担がれている。


「君は……ゼクード隊長!」


「はぁ……はぁ……手を貸します」


 ゼクードの片手の支援を得たガイスは、ついに屋根をリリーベールからどけることに成功した。


 リリーベールを引っ張り出し、ガイスは彼女をしっかりと抱きしめた。


「リリーベール! もう大丈夫だ! よく頑張ったな!」


「……ぁりがとぅ……」


 感謝をのべて、安心したリリーベールはガイスの腕の中で気を失った。

 ガイスはそんな彼女をお姫様抱っこすると、ゼクードを見る。


 火傷とケガが酷い。

 出血の量もかなり深刻だ。

 一刻も早く手当てせねば、彼とて命が危ない。


 ただゼクードが担いでいる背中の女騎士は、そこまで酷いケガはしていなかった。

 彼が身を呈して守ったのだろうか。


「大丈夫か……?」


「……大丈夫です。カティアさんにそこまでのケガはありません」


「いや、君の心配なんだが……」


「俺なら大丈夫です。それより、急ぎましょう……」


「ああ、わかった。付いて来てくれ。こっちだ」


 ガイスはリリーベールを。

 ゼクードはカティアを担ぎながら、東側の出口に向かって走り出した。


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