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第8話【二人の女騎士】

「はぁ、いかんな……」


 カティアはひとり呟いた。

 自宅のベッドで横になり、夕陽(ゆうひ)城壁(じょうへき)に沈んでいくのをただ眺める。


 さすがにゼクードに何も返事をせず帰ってしまったのは大人気(おとなげ)なかった。

 大人と呼べる年齢でもないが、ゼクードは二つも年下の後輩だ。

 やはりあの対応は大人気ないと言わざるを得ない。


 強さに絶対的な価値観を置いている身としては、格上の相手を素直に認められないのはいくらなんでも幼稚(ようち)と言う他ない。


「明日……謝りに行くか」


 静かに決意して、彼の戦う姿をもう一度思い出した。

 漆黒の鎧を(まと)い、銀の斬撃を無数に操るゼクード。

 そんな彼に容易く蹂躙(じゅうりん)されるドラゴン。


 やはり思い出すだけで心臓が高鳴る。

 この高鳴りはなんだろう?


 ──それはきっと、彼に対して感じた圧倒的なまでの実力差ゆえの絶望だと思う。


 努力だけで埋まる差ではないし、埋めさせる気すら起こさせない。

 それほどまでに彼と自分の実力差を感じたのだ。

 これはきっと彼が年下というのも原因なのだと思う。


 同じ時間を鍛練してこの実力差なら、まだ希望は持てたのに。

 彼は二年も下だ。


 敗北したのがローエだったならば、悔しさを(かて)にしてまた鍛練(たんれん)(はげ)むまでだったはず。


 ゼクードの実力を間近で見なければ、討伐時間20秒という記録にも疑いを持てた。

 逃げ道はあったんだ。


 だが実際に私は見てしまった。

 自分のこの眼で、確かに。

 思い出すだけでまた胸が高鳴る。


『エルガンディ王国』にはもう自分より強い男なんていないと思っていた。

 それがまさか、あんな一年の少年が私より強いとは。

 思わぬ伏兵(ふくへい)だった。


 彼はどうやってあんなに強くなったんだろう?

 何か、信念のようなものでもあるのだろうか?

 普段なにをやっているのだろう?


 気になってしょうがない。

 

 彼の元で戦えば、私はもっと強くなれるだろうか?

 彼を超えられるだろうか?


 いや『なれるだろうか』ではない。

 ならねばならないのだ。

 このままでは『女は男より強くなれない。それは歴史が証明している』という父の言葉に屈することになる。


 それだけは絶対にあってはならない。

S級女騎士(ここまで)】来たのだ。

 諦めてなるものか。

 8人もいる妹たちに希望を持たせるためにも。


「ゼクード・フォルス……私は絶対にお前を超えてやる!」


 (たぎ)らせた闘志(とうし)の中でまたゼクードの姿を思い出す。

 そしたらまた、胸が高鳴った。



『エルガンディ王国』には自慢の大浴場がある。

 ローエもいまそこに来ていた。


 ここは良質な温泉として有名で、市民共有の大浴場として街に配置されている。

 他の国では温泉は王族が独占しているらしい。

 そう考えると『エルガンディ王国』の王族はみな気前が良いと言えるだろう。


 夜の大浴場は人が少ない。

 だから物思いにふけるときは、ローエは決まってここに来ていた。


 それは水浴びが好きというのもあったが、何より熱した頭を冷やし、リラックスしたいという気持ちの方が今は強かった。


 ローエは装備や衣服を脱衣所で脱ぎ、女性の大浴場へ足を運んだ。

 扉を開けると湯けむりにまみれた石造りの浴槽が見える。


 やはり夜のせいか人は少ない。

 これならゆっくりできると湯船に足を浸けた。

 肩まで入り、一息つく。


「はぁー……」


 温かく気持ちいい温泉に溜め息が出た。

 これは無意識に出るから困ったものだ。


「わたくしとしたことが……」


 小声で呟く。

 ゼクードに何も言わず、ショックのあまりにそのまま帰ってしまったことを深く反省していた。


 二つも年上なのに、なんて無礼なことをしてしまったんだろう。

 いくらショックだったとは言え、無礼を犯す理由にはならない。


 ちゃんとあの場で隊長だと認めるべきだったのだ。

 彼はちゃんと自分に実力を見せてくれた。

 ガッカリさせないと言ったあの言葉もちゃんと守ったのに。


 自分のプライドの高さが嫌になる。

 行き過ぎたプライドは幼稚(ようち)だと知っているのに結局これだ。


 でも、彼が年下ではなく同い年か、あるいは年上の男性だったならば、こうまでショックは受けなかったのかもしれない。


 年齢差が気にならなくなるのは50代からと祖母が言っていたのを覚えている。

 逆に10代の年齢による上下関係ほどシビアなものもないと言っていた。


 本当にそうだと思う。

 たった二年の差でも、騎士学校の学年に別ければ一年生と三年生だ。

 これだけで二年の歳の差もやたら大きく感じる。


 やたら大きく感じるから、これほどショックなのだろう。

 彼と自分の実力差が。


「彼はきっと天才なのですわ」


 自分を納得させるためにそう呟いた。

 この歳で【S級女騎士】までなれた自分もなかなかの天才だと自負していたのだが、やはり男の天才には(かな)わないのか。


 だが、それでもいい。

 ゼクードさえ居れば【S級ドラゴン】を倒すことができる気がするのだ。


 10年前に現れた【S級ドラゴン】。

 そいつの欠けた爪を手に入れた調合師が【秘薬】を作ったという話がある。


 それはなんでも治せる万能薬らしい。

【秘薬】自体はもうないらしいが【S級ドラゴン】の爪さえ手に入れればまた【秘薬】を作れる可能性がある。


 その【秘薬】さえ手に入れれば、不治の病に倒れた妹を助けてやれる。

 元々ローエはそれを理由に女の身で騎士になったのだ。

 幸いなことに……いや、女の身では不幸なのだが【攻撃魔法】を覚醒させることも出来た。


 たった一人の肉親だ。

 ベッドの上だけで過ごす生活から救ってあげたい。


 そんな目的があるから【S級ドラゴン】を討伐するための【ドラゴンキラー隊】の話はローエにとって好都合なことこの上ないものだった。


 だから、そんな妹の人生が掛かっているとも言える部隊の隊長があんな女にダラしなさそうな年下の少年だと文句も言いたくなったのだ。

 

 けれど今はもう逆転している。

 彼なら、ゼクード・フォルスなら隊長でいい。


 名前の割には頼りない顔をしていたが、戦いが始まればそれは一転。

 凄まじい剣の冴えを持ってドラゴンを駆逐(くちく)した。


 比類なき最強の剣技を振るう彼の姿は、思い返すと胸の高鳴りが起こるほどカッコ良かった。


 強い男性に心を惹かれるなんて、我ながら単純な乙女心だと呆れるが、そう感じた心に嘘はない。


 年下に興味などなかったが、どうせいつか(とつ)ぐなら彼のような強い男性の方が良い。

 

「──っ! と、何を考えてますのわたくしは! まずはリーネの病を治すことが先決ですわ!」


 目的を見失っている自分に気づいて、ローエは慌てて頬を叩いた。

 とにかく明日ゼクードに謝ろう。

 彼が隊長であることも認めよう。


 妹リーネの命が()かっているのだから。

 


 ドンドンドンドン!


 またか!

 またこんな朝から俺の家に訪ねてくるなんて。

 ローエさんか?


「ゼクード隊長。起きているか?」


 あ、カティアさんの声だ。

 

「ゼクード隊長! 出て来てください! お話がありますの!」


 え!?

 ローエさんの声まで!?


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