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第78話【レィナとリーネ】

 レィナは瓦礫だらけの街を歩いていた。

 月明かりだけが頼りの暗闇の中、小さく溜め息を吐く。


「こんな時までケンカしないでよ……」


 その呟きは父クロイツァーと姉カティアに対する愚痴だった。


 残っていた部屋で睡眠をとっていたが、庭の方で姉が父に何かを言っている声が聞こえた。

「幸せなはずない」とか「愛さなければならなかった」とか。


 会話内容で、たぶん死んだお母様や姉妹たちのことだろうと察した。

 カティアとクロイツァーは顔を合わせればケンカばかりしていたから、今回もそうなのだろう。


 自分も父クロイツァーは嫌いだが、いま揉めるのはやめてほしい本当に。


 ドラゴンの襲撃や、王国放棄や、家族の死など、様々な事件が立て続けに起きて疲れきっていたレィナには、

 この聞き慣れた父と姉の口論を無視して寝る余裕はなかった。


 だから静かな場所で一息吐きたいと思い、部屋を出て今に至る。


 しかし街の無惨な姿を再び見ると、結局は気が滅入っている自分がいた。


 雷に撃たれて丸焦げになったお母様や姉妹たち。

 竜巻に巻き込まれて壁に激突して死亡したお母様もいた。


 あの地獄のような光景を思い出しそうになる。

 軽くトラウマになっているのだろう。

 なんで自分だけ助かったのか、今でも不思議なくらいなのだから。


「あの……」


「!?」


 不意に誰かに話し掛けられたレィナは慌てて声の方へ振り向いた。

 そこには月光に照らされた金髪が美しい小柄な少女が立っていた。

 自分と同じくらいの女の子だ。


「あれ? あんた前に……」


 見たことがある少女だ。

 執事を連れていた少女で名前は確か……リーネだったか?


「こんばんはレィナさん」


「こ、こんばんは」


 自己紹介した覚えはないが名前は知られていたようだ。

 こんな時間に何をやっているんだろう?


「えっと……リーネだっけ?」


「ぁ、そうです! 覚えててくれたんですね!」


「え? うん、まぁ……」


 覚えてたっていうか、誰かがリーネと呼んでいたのを思い出したというか。まぁなんでもいいや正解だったし。


「あの、どうされたんですかこんな時間に」


 こっちのセリフを取られた。

 とはいえ、今はもう深夜。

 女の子が外を彷徨(うろつ)く時間ではない。


「べつに。ちょっと風に当たりに来ただけよ。あんたは?」


「あ、ワタシも一緒です! なんか怖くて、身体の震えがずっと止まらなくて、気を紛らわそうと風に当たりに来ました。あの良かったら、一緒に歩きませんか?」


「……え?」


 思わず耳を疑った。

 この少女は自分の装備を見て気づかないのだろうか?


 鉄製ではないにせよ革の鎧と腰に垂らした双剣でレィナが騎士であることを示しているのだが。

 騎士であるということは【攻撃魔法】が使えるということにもなる。

 女の身で。

 つまりは異端だ。


 見たところリーネは騎士ではなく普通の女の子だ。

 白い長袖と緑のスカートがそれを現している。

 普通の女の子であるリーネには、レィナが異端に見えるはずなのだが。


「夜一人で歩くのって思ったより怖くて……その、レィナさんが一緒ならいいなって思ったんです。レィナさん騎士みたいですし、何かあっても安心かなぁって……」


 は?


「あんた……アタシが騎士だって分かってて声掛けたの?」


「え?」


 聞かれたリーネは見事なほどキョトンとしていた。

 あ、もしかしてこの子、何も知らないアホの子なのかも。


「アタシは【攻撃魔法】が使えるのよ? わかってんの?」


「ぇ、え? ぇえ……わかってます。そりゃあ騎士ですし……」


 困惑しているのはリーネの方だった。

 なぜそんなことを聞いてくるのか。

 本気で分かってないようなのである。


 女が【攻撃魔法】を使うことに疑問を持たないなんて。

 いったいどんな育ち方をしたのやら。

 よく分かんないけど、知らないなら別に知らせなくてもいいか。

 今はギャーギャー言われたくない気分だし。


「……ま、いいわ。何とも思わないなら別に」


「あの、魔法が使えるのって、なにかマズイんですか? ワタシ【錬金術】が使えるんですが……」


 うん【錬金術】なんて女性しか覚醒しないから。

 この子ほんとうに無知なのね。


「いや魔法がマズイとかじゃなくって……女が【攻撃魔法】を持ってることが一般的に変なの」


 しまった。

 口を滑らせて言ってしまった。

 わざわざ自分で敵を増やす真似をするなんて。


「え、そうなんですか? ワタシのお姉さまは普通に【攻撃魔法】使ってますよ?」


 ──ん?


「え……なに?」


「ワタシのお姉さまはS級の女騎士なんです。風の【攻撃魔法】を使うんですよ」


 姉がS級の女騎士!?

 あ、だからこの子!


「あんたそれ先に言いなさいよ!」

「ええええっ!?」



「なぁグリータ。結局『1年Aクラス』は何人無事だったんだ?」


 深夜の見張り番。

 ペアになったグリータにゼクードは聞いた。

 隣を歩く友人は露骨に顔を曇らせる。


「3人は無事だった。オレとお前を含めたら5人になる」


「そっか……」


 俺が発見したクラスメイトたちはみんなダメだった。

 31人もいたクラスメイトたちが、たった一度の襲撃で5人にまで減った。


 犠牲が出過ぎである。

 今になって彼らと過ごした日々を思い出してしまう。

 胸が痛い。本当に。


「でも、あの3人は──」


 グリータは夜空を見上げた。

 今にも泣きそうな声音で、残酷な現実を告げる。


「──もう武器は持てないって、医者に言われてた……」


「……」


 奇跡的に生き残ったのに、騎士生命を断たれたということか。

 どれほど酷い怪我なのか、想像に(かた)くない。


「先生には……」


「俺から言っとくよ」


「悪い……」


『1年Aクラス』の担任フランベール先生はまだこの事実を知らない。

 姉が牢屋に捕まったせいで【フラム家】の領地を代わりにまとめなくてはならなくなったせいだ。


 そこで代わりに『1年Aクラス』を任されたのが俺とグリータで、今に至るわけなのだが。

 想像以上に酷いものだった。


 これを伝えたときフランベール先生がどんな顔をするか。

 考えただけでもう胸が苦しくなる。


 なんて言おうか考えていると、暗い街の奥から女性らしき声が聞こえてきた。


 そういえばフランベール先生は姉を迎えに行っていたはず。

 姉を牢屋から出して戻ってくるなら今頃か!


「グリータこっちだ!」

「は?」


 俺はグリータを引っ張って瓦礫の物影に隠れた。

 まだ先生とは会いたくない。

 どう報告するか決まってないからだ。


(おい! なに隠れてんだよいきなり!)

(うるせぇ今は黙ってろ! お願い!)


 無理矢理グリータを黙らせて、こちらに近づいてくる気配と声に集中した。


 ん?

 この気配は……二人分の気配だけど、フランベール先生じゃない?

 先生にしてはあまりにも小さすぎる【気】だ。


「赤ちゃんに母乳をあげるのはみんな同じなのにさ。なんでこう大きかったり小さかったり差をつけたのか。これが分かんないのよね」


「そうですよね本当に。みんな同じでいいのになんでこうなのかなってワタシも思います。せめてお姉さまの半分くらいにはなりたいですワタシ……」


「大丈夫。アタシたちはこれからよ。自分で毎日揉んでマッサージすれば大きくなるわよ」


「で、でもお姉さまは勝手に大きくなったって……」


「……うん。アタシの姉さまもそう言ってた……」


 二人は一緒に腹の底から大きな溜め息を吐いた。


 あれ?

 レィナさんにリーネさん?

 こんな時間に二人して散歩?


(あ! あの時の双剣使いだ。あいつらこんな時間になにしてんだ?)


(見た感じ散歩みたいだけど。友達だったんだあの二人)


 俺的にはこんな時間に散歩しているより、レィナさんとリーネさんに面識があったことに驚きだった。

 夕方のとき同じ場所にいたけど一言も会話がなかったから、友達でもなんでもないのだと思ってた。


(!)


 レィナさんとリーネさんの前方からもう一人の気配が近づいてくる。

 俺は身を乗り出して確認すると、黒フードを被った細身で長身の人間が歩いていた。

 そいつは男と分かるシルエットで、どうにも嫌な気を感じる。


 んん?

 ちょっと待てよ。

 あの黒フード……どこかで見たような。


「よぉ待ちな」


「ん?」

「え?」


 呼び止められたレィナさんとリーネさんがようやく男の存在に気づいた。

 黒フードの男は笑いながら二人に近づいてくる。


「こんな時間に女二人で何してるんだ?」


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