第73話【国王の決意】
「ゼクード……心して聞いて欲しい」
「え?」
「あの白いドラゴンは……お前の父フォレッドと相討ちになったはずのディザスタードラゴンだ」
────な、に?
「え……いま、なんて!?」
「フォレッドが倒したはずの【10年前の悪夢】……ディザスタードラゴンだ」
ディザスタードラゴン!?
嘘だろ……白いドラゴンの正体がまさか親父の仇とは。
「生きていたって……事ですか?」
「ああ、間違いない」
「べ、別のドラゴンという可能性は──」
「それはない」と国王さまは断じた。
「奴の左眼が……それを証明していた」
左眼?
「どういう事ですか?」
「フォレッドが奴を撃退したとき、剣で片眼を潰していた。私はそれを見ている。あの左眼の傷は間違いなく10年前のドラゴンの証だ」
「そんな……」
奴は生きていた。
親父は相討ちではなく……負けたということなのか?
──はっきり言って、ショックだった。
俺の中での親父は、どこか、無敵の存在だったから……。
子が父親に抱くイメージと言うものは、きっとこういうものなんだろうと思う。
だから、今さらながら怖くなってきた。
あの親父が勝てなかったドラゴンに、俺は、どうやって勝てば良いのだろう、と。
「……ゼクード」
国王さまに呼ばれ、俺はハッとなって顔を上げた。
そこには切なさを滲ませた国王さまの顔があった。
「……怖いな」
「!」
怖い、と国王さまは確かにそう言った。
今にも泣き出しそうなほどの声音で。
「……怖いですね」
俺の心の声を代弁してくれたような気がして、思わずそう頷き返していた。
【国のトップ】と【騎士のトップ】。
その二名が口を揃えて「怖い」なんて、本当は言ってはいけないことなんだろうけど。
ここには俺と国王さましかいない。
弱音を吐き合える、唯一の相手。
きっと国王さまもそう思っているから、こう言ってくれたんだろう。
「【アークルム王国】はどうなった?」
「──……残念ながら」
「そうか……」
追い討ちを掛ける悲報。
もう残っているのはここ【エルガンディ王国】だけという事実。
国王さまは両手で顔を覆い、大きく息を吐いた。
【アークルム王国】の壊滅。
【10年前の悪夢】ディザスタードラゴンの出現。
【英雄フォレッド】敗北の事実。
本当に泣きたくなる情報ばかりだ。
「こんな事態のために、国を強くしてきたつもりだった……。なのに、このザマとは……」
「国王さまは悪くありません! 悪いのは──」
ドラゴンたちか?
違う。そんなんじゃない。
やはり見通しが甘かった国王さまのせいか?
絶対に違う。
ならばディザスタードラゴンに勝てなかった親父のせいか?
違うに決まってる。
悪いのは間違いなく、この事態に対処できなかった俺たち騎士全員だ。
みんな強ければ、こんな事態にはならなかったんだ。
【オルブレイブ王国】
【アークルム王国】
【リングレイス王国】
騎士たちが強ければ、この三国も滅びを免れたはずなんだ。
『騎士が弱いというのはそれだけで罪』とはよく言ったものである。
では、ならば……どうすればいい?
みんな強くなればいい?
無理だ。
そんな時間、俺達には残されていない。
【エルガンディ王国】が次のドラゴンの襲撃に耐えられるとは思えない。
俺も、あの親父が勝てなかったディザスタードラゴンを相手に、みんなを守れる自信もない。
勝てる自信も……今はない。
どうすればいいんだ。
わからない。
でも、諦めるわけにはいかない。
グリータにも手を尽くすと言ったんだ。
ローエさん・カティアさん・フランベール先生とだって結婚したいんだ。
やっと見つけた生き甲斐なんだ。
やりたいことはまだたくさんある。
俺はまだ死にたくない。
ドラゴンどもに蹂躙されてたまるか。
だけど、くそったれ!
どうすりゃいいんだよこの状況!
この状況を打開できる策が思い付かない。
みんなで強くなれれば……きっと
でも、そのための時間がもう……ない
何もかもが遅すぎたのかもしれない……俺たちは……
気づけばこんなにも追い詰められているんだから──
「ゼクード」
「え……ぁ、はい!」
堂々巡りの思考で熱した頭。
そこに冷や水を掛けるかのように、国王さまは俺の名を呼んできた。
その国王さまの眼は、先ほどとは違い、光があった。
「すまんな」
「え?」
「情けないとは思ったが、弱音を吐きたかった。聞いてくれてありがとう」
「ぁ……いえ、そんな……」
「残りのS級ドラゴンは?」
この期に及んで、国王さまの声は強くなっている。
凛として、諦めることを許さない。
そんな声だった。
「あ……【アークルム王国】を襲撃した2体のうち1体は討伐しました。でも残りに【超大型ドラゴン】がいます」
「なるほど。【ディザスタードラゴン】とその【超大型ドラゴン】が残りの敵か」
「はい。ただ【超大型ドラゴン】はその巨大さ故に鈍足ですが、恐ろしいまでの肉厚さがあると思います。武器による攻撃ではダメージにすらならないかと」
「ふむ……」
「ですから俺は【魔法大砲】の強化を推奨します」
「【魔法大砲】の強化か」
「はい。それが一番の【超大型ドラゴン】討伐の早道だと思っています」
「……たしかに、そうかもしれんな。わかった。いいだろう。果たして間に合うかは分からんが、生き残りの開発担当に早急に依頼しよう」
「ありがとうございます!」
よかった。
国王さまはまだ、諦めていないんだ。
なんだろう、俺はいま、凄くホッとしている。
国王さまがまだ諦めていない事実が、今は無闇に嬉しい。
心のより所というか、とても頼りがいがある。
おかげで絶望していた俺の心が、熱を呼び覚ましてきた。
「それからゼクード。もう一度、心して聞いてほしい」
国王さまの顔がよりいっそう険しくなり、硬い決意を覗かせる。
あまりの気迫に生唾を飲んだ俺は「はっ!」と力みながらも脆く。
「今の我々の力ではおそらく……いや、間違いなくドラゴンに負ける」
「はっ」
否定はしない。
俺もそう思っている。
「なぜあれほどの力を持ったディザスタードラゴンが、あんな中途半端なところで此処を去ったのかは分からん──」
そう。
それは俺も気になっていた。
雷や竜巻を操れるのなら、1つの国を滅ぼすことくらい簡単だったはず。
なぜ途中でやめて、去って行ったのだろうか?
人間を根絶やしに出来たと勘違いしたのか?
そんな都合の良い話があるとは思えないが。
「──だが、次また奴がここを襲撃すれば【エルガンディ王国】は滅びるだろう。それは【超大型ドラゴン】も例外ではない」
「はい」
これも否定しない。
その通りだと思う。
もうみんなボロボロなのだから。
「では、どうするか?」と国王さまは玉座から立ち上がってきた。
俺の前まで来ると、国王さまは立ち止まる。
「我々全員が強くなる他ない」
……え、と……それは、分かるんですけど。
「そ、それはそうですが国王さま。我々にはもうそんな時間は……」
「その通りだゼクード。我々にはもうそんな猶予はない。ドラゴンも待ってはくれんだろう。【超大型ドラゴン】か【ディザスタードラゴン】がここに再度攻撃を仕掛けてくるのも時間の問題だ」
「でしたら……」
国王さまは、結局なにが言いたいんだろう?
「聞け。我々は一度ここ【エルガンディ王国】を放棄する」




