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第58話【気を引き出すためには】

 目が覚めた時には、隣にローエさんはいなかった。

 先に起きて帰ったみたいだ。


 俺はベッドの上で、いつもの天井をしばらく呆然と眺めていた。

 全身の汚れが全て落ちたような、そんな解放感が心身ともに満たしている。


 それはきっとフランベール先生とローエさんのおかげなのだろう。


 立て続けに素敵な女性たちと関係を築くことができた。

 ローエさんはまだ考えさせてほしいと言っていたが、きっと来てくれると信じている。


 あとはカティアさんだ。

 俺は、カティアさんも欲しい。


 彼女もまたフランベール先生やローエさんと同じで、素敵だと感じて、幸せにしたいと思った女性だからだ。


 カティアさんは俺の嫁の一人になってくれるだろうか?

 いや、だろうか? ではない。

 なってもらうんだ。

 カティアさんに認めてもらって。


「うし。やるか!」


 パンッ! と気合いを入れるために両頬を叩く。

 痛い……力入れすぎた……。


 フランベール先生・ローエさん・カティアさん。

 みんなを嫁にできたら、いつか貰える土地にどんな家を建てるかみんなで考えよう。


 稼ぎは俺一人で十分だろう。

 みんなは子育てや家事に勤しんでほしいな。

 帰ってきたら美味しい料理を作って待っててほしい。


 美しい三人の妻と可愛い子供たちに囲まれて、楽しく食事をするんだ。

 

 あぁダメだ。

 妄想しただけでニヤニヤが止まらない。

 けど、やる気がみなぎってくる!


 妄想だけで終わらせてなるものか。

 絶対に手に入れてやる。

 

 目標も何もない毎日は終わりだ。

 S級ドラゴンを駆逐(くちく)して、俺の理想の未来を手に入れるんだ!


「よし! やる気出てきた! 練兵場にいくか!」


 ベッドから降りて、俺は装備を整えた。

 漆黒のミスリルアーマーを装備し、ロングブレードを背中に納刀する。


「さて、問題は……」


 ローエさん達には今日【竜剣技】を使うために必要な【気】を引き出す特訓をしてもらうのだが、これが難儀である。


 今だけは……教える相手が女性であることを不運に思う。

 なぜなら俺が【気】を引き出せた主な要因は【女性にモテまくる妄想】をしながら特訓していたからに他ならない。


 言ってしまえば【興奮】である。

 興奮って気がメチャクチャ高まってる状態らしく、武器に纏わせるほどの【気】を引き出すのにはもってこいの状態なのだ。


【女性にモテまくる妄想をする】

【気分が(たかぶ)って調子が良くなる】

【そのまま特訓する】

【なんかいつの間にか【(ドラゴン)斬り】ができるようになってた】


 この過程を女性であるローエさんたちにやってもらうことになるのだが、どう教えればいいんだコレ……。


 まさか男性にモテまくる妄想をしてください、なんて言えんし、言いたくもないし、許さんし。

 妄想の中の男性(やろう)とは言え、俺の女に触るなし、斬るし。


 ……言ってる場合じゃない。

 どうしようか。

 

「あ、そうだ!」


 難しく考えすぎた。

 安直に行こう!



「えー、みなさん【今までで一番興奮したこと】を思い出しながら特訓してください」


 練兵場にて、俺は目前に並ぶローエさん・カティアさん・フランベール先生に向かってそう言った。

 案の定「は?」とみんなの顔が怪訝(けげん)になる。


 だろうなぁ~。

 この反応は想定内だけど。


「もう隊長! こんな時にふざけないでくださる?」

「真面目にやってよゼクードくん!」

「隊長。殴るぞ」


 最後のカティアさん怖い!


「みんな待って! 落ちついて! これ本当に真面目なんですよ!」


「まだ言うかキサマ!」


 カティアさんやめて!

 こっち来ないで!

 殴らんといて!


「あの! これ本当に一番簡単に【気】を引き出せる方法なんですよ!」


「……理由は?」


「興奮状態って、物凄く【気】が(たかぶ)ってる状態なんですよ。武器に(まと)わせられるほどの【気】を引き出すにはまず興奮することが一番手っ取り早いんです」


 えぇ……と女性陣が顔を見合わせ困惑している。

 なかなか理解してもらえないのは承知の上だ。

 俺は説明を続ける。


(わか)りやすく言うと……ん~【気】ってのは底の深い穴の一番奥にあると思ってください。もちろん底には俺たちの手は届きません。このままじゃ【気】を引っ張り出せないですよね?」


「……まぁ、そうですわね」

「うん」

「そこで興奮状態になれば、手の届くところまで【気】が上がってくるということか?」


 お?

 話が早い。


「さっすがカティアさん! その通りです! 手の届くところまで【気】を上げて、そこから特訓で手を伸ばして【気】を引き出すんです。みなさんレベルの騎士なら、練り上げられた【気】はもう身体に存在してるはずなので、これを徹底すればすぐに【気】を武器に纏わせられるようになりますよ」


 説明を終えると、まだみんな「う~ん」と唸っていた。

 どうにも掴めない様子。

 

「今までで一番興奮したことって言われましても……」


「そうだね。なんだったかな? S級騎士になれた時とか?」


 あれ?

 おかしいな。

 ローエさんとフランベール先生なら最近の出来事だからすぐにクリアできると思ってたんだけど。


 仕方ない。

 どうにも真面目な興奮をイメージしてるみたいだし、ここはワンポイントアドバイスをするしか!


「ローエさんローエさん」

「はい?」

「ちょっと耳を貸してください」


 俺はローエさんの隣に立ち、他の二人に聴こえない声で(ささや)いた。


(昨日の夜の事を思い出せば、簡単なはずですよ。ローエさん)

(!)


 ボッと顔を一気に赤くしたローエさん。

 どうやら思い出しているらしい。


「た、隊長! 興奮ってそれなんですの!?」

「それなんですよ。頑張ってください」

「そ、そんな……」


 さて、次はフランベール先生だ。


「先生」

「うん?」


 俺はそっとフランベール先生の耳元で告げる。


(一緒にお風呂に入った時のことを思い出してください)

(え、それって……)

(あの時のことを思い出して気を高めれば、先生ならすぐに【気】を引き出せるはずです)

(興奮ってそっちのことなのね。わかったわ。ありがとう。やってみるよ)


 先生可愛い……。


 さて、最後はカティアさんだ。

 どうしようか。

 カティアさんとはまだ何もない。

 興奮するエピソードなんて一つもない。


 アドバイスを送るにしても、カティアさんが興奮するようなアドバイスってなんだろう?


 フランベール先生も言ってたが、やはりS級騎士になれた時とかかな?

 んなもん通過点だ、としか思ってなさそうだけど。


 いやしかし、スケベな方面で興奮するエピソードが無い以上、カティアさんの興奮した過去の記憶を探るしかない。


「あの~カティアさん」


「ま、待て。いま考えているんだ」


「へ?」


「興奮なんてそんな……私には、そんな興奮するような(みだ)らな経験はない……」


 淫らぁ!?

 まさかカティアさんにのみ俺の意図がしっかり伝わってたとは!

 スケベ方面での興奮だと分かってくれていた!


 ありがたいけど経験ないなら想像して興奮するのは無理かぁ。

 ……けど経験なくてちょっとホッ。

 ま、仮に経験あっても俺の色にカティアさんを染め変えるまでだけどね。


「じゃあカティアさん。普通に嬉しくて興奮したことはないですか? ほら、S級騎士になれた時とか」


「あんなものただの通過点だ」


 ですよね~。


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