第53話【希少なリーネ】★
謁見を済ませた俺たちは、ローエさんの案内で妹リーネさんが待っているマクシア家へ来ていた。
やはり貴族ゆえか、人の家を便所扱いするだけあって大きな館だった。
蒼天の真下に建つ、雑さがない白く綺麗な邸宅だ。
屋根は緑色で、ローエさんの鎧の色とまったく同じである。
フランベール先生の館より小さいのは住んでる人間の数が少ないからだろう。
ここへ来るまでにローエさんから聞いたが、ローエさんの家族は父・母・ローエさん・妹さん・執事の五人暮らしとのこと。
それでも五人暮らしには十分過ぎるほどデカイけどな。
そしてやはり玄関前の庭も広いこと広いこと。
煉瓦敷きの道が中心に伸びており、左右にはしっかり手入れされた芝生が広がっている。
牛は……見当たらない。
当たり前か。
前にローエさんからミルクを貰ったことあるけど、牧場は別の場所にあるのだろう。
あとフランベール先生の邸宅もそうだったが、ローエさんの邸宅にもS級ドラゴンの被害はないようだ。
氷の結晶が激突した痕跡などはまるでない。
金持ちの家ほど被害が少ないとは。
なんか腑に落ちない。
口には出さんけど。
「お帰りなさいまし。お嬢様」
その言葉を発したのは執事服の男性だった。
正面の門までわざわざ俺たちを迎えに出てくれたようである。
「ええセルディス。ただいま」
俺たちの先頭に立つローエさんが笑顔で返した。
セルディスと呼ばれた執事は綺麗な角度で御辞儀すると、今度は俺たちの方に視線を向けてきた。
「皆様。よくぞおいで下さりました」
言われて俺も小さく御辞儀をする。
フランベール先生もカティアさんも。
「ゼクード様とフランベール様ですね。お話はお嬢様から聞いております。秘薬の件、本当にありがとうございました」
セルディスさんは表情が窺えないほど頭を深く垂れる。
「あ、いえ、そんな……」と言いながら俺は釣られて頭を下げた。
「リーネさんが回復して良かったです」とフランベール先生も御辞儀しながら答える。
「何もかもお二人の御助力のおかげです」
「セルディスの言うとおりですわ。さぁみなさん上がって。リーネが待っていますわ」
招かれるまま、俺たちはマクシア家の豪邸へ。
※
アーチ状の玄関をくぐった先は広いホールとなっていた。
城の出入りをしているから高級感のある柱や壁、天井に吊らされているシャンデリアなどに俺が気後れすることはなかった。
でも。
「さすが。綺麗にされてますね」と俺はセルディスさんへ素直な感想を口にした。
埃一つない気持ちのいい空間だから。
「恐縮です。ゼクード様」
廊下を抜けて奥へ進むと、突き当たりにある扉の前でセルディスさんが止まった。
「こちらがリーネ様の御部屋となっております」
「ありがとうセルディス。あとはわたくしが引き受けますわ」
「かしこまりました」
セルディスさんはソッとその場を去って行った。
動きに無駄がない。
熟練の執事ってなんかカッコいいな。
「リーネ? 起きてますの?」とローエさんが扉をノックした。
こんこんこんと優しい力加減で。
妹さんに対する優しさが感じられるノックである。
「お姉様ですか?」
お、今のが妹のリーネさんの声か?
透き通るような綺麗な声である。
これはもしかしたら姉のローエさんと違っておしとやかで可憐な女性かも。
「ええ。ゼクードさんとフランベールさんを連れてきましたわよ」
「本当ですか! どうぞ入ってください!」
やや興奮ぎみな声音だった。
ローエさんは「みなさんどうぞ」と迷わず扉を開いて中へ。
俺たちも彼女に続いて「お邪魔します」とリーネさんの部屋へ。
そこにいたのはローエさんとそっくりなエメラルドグリーンの瞳をした小柄な少女だった。
髪は姉ほど長くはなく短めだが、フワリとした曲線を描いているのは似ている。
リーネさんは服は袖のない緑のワンピースを着ている。
ボリューム満点な姉とは対照的に、リーネさんの驚くほど控えめな胸に俺はつい目が行ってしまった。
いきなりそんなところを見る俺は失礼なのだろうし、変態なのだろうが、まぁそれは置いといて。
俺の目がおかしいのだろうか?
慎ましい胸が凄く真新しく見えるのだ。
いや、まるで希少なものを見ているような気分になる。
うちの部下たちはみんな揃って【巨】のつく胸をしているので、俺の感覚がおかしくなっているようだ。
街中でもいろんな女性はいるが、ローエさん・カティアさん・フランベール先生レベルはあまりいないし、だいたいみんな普通サイズだ。
そんな三人の【山】に囲まれているからか【壁】(←失礼)の女性がとても希少な存在に映る。
しかし、これはこれで美しいと思う。
「ああみなさん。今日はわたしのために御足労頂きありがとうございます」
綺麗な声で、丁寧な口調でリーネさんは言った。
両手をお腹の元で絡ませ、静かな動作で御辞儀する。
やはり思ったとおりだ。
おしとやかで、そして華奢だ。
「わたしはリーネ・マクシアと申します」
「ゼクード・フォルスです。初めまして」
「初めまして。フランベール・フラムです」
「カティア・ルージです。よろしく」
「あ、お二人がそうなのですね!」
リーネさんがフランベール先生の手を握り、笑顔を向けた。
「お姉様からお話は聞いています。あなたは命の恩人です。本当にありがとうございました!」
「いいえリーネさん。わたしは何もできませんでした。【アンブロシア】を持ち帰ることができたのはそちらのゼクード隊長のおかげです」
いやいや先生だって頑張ってたじゃん。
あんなに酷い目にあってたのに。
「ゼクードさん」と今度は俺がリーネさんに手を握られた。
細くて柔らかい指が俺の手を包む。
「お姉様からたくさんお話は聞いています。命を助けて頂き、心から感謝致します!」
たくさん?
「いえ。ご無事で良かったです。リーネさん」
「うふふ。お姉様がここ最近ず~っとゼクードさんのお話ばかりしていたので、わたしも気になってました」
「ちょっ! リーネ!」
え?
ローエさんがず~っと俺の話を?
マジで?
どんな話か気になる。




