第28話【激昂のS級ドラゴン】
どこを撃っても【アイスアロー】が弾かれる。
S級ドラゴンのあまりに硬い肉質にフランベールは手こずっていた。
「いったいどこが弱点なの……わっ!」
尻尾の薙ぎ払いをかわし、間髪入れず爪による引き裂き攻撃がきた!
それすらも回避し、フランベールは大弓を納めて【アイスソード】を召喚する。
そのままS級ドラゴンの懐に飛び込み、ありったけの力で腹部を斬りつけた。
「はあっ!」
パキィンと二刀の【アイスソード】が折れる。
「くっ!」
それでもまだ大弓を取り出し、ゼロ距離による【アイスアロー・ショット】をぶっ放す!
炸裂した氷の散弾は、A級ドラゴンの頭部・腹部ならば軽く吹き飛ばすほどの威力を誇る。
フランベールの持つ最高火力の攻撃なのだが。
「そんな……!」
S級ドラゴンの腹部には一切の傷を付けられていなかった。
これでもダメなら、いったいどうすれば!?
考える間もなくS級ドラゴンが素早く一歩後ろへ下がった。
前方にフランベールをやりS級ドラゴンは噛みつき攻撃を繰り出す。
シュッと既のところでそれをかわし、フランベールは飛んだ。
「このっ!」
大弓を引き絞り、氷に覆われたS級ドラゴンの頭部へ【アイスアロー・ショット】を叩き込む!
拡散し切る前に全弾頭部に命中する!
ピシッ!
僅かだが氷に亀裂が入った。
するとS級ドラゴンは驚いたのか大きく後退してみせる。
っ!?
氷にヒビが入っただけであんなに下がった?
あの頭部を覆った氷には何かあるの?
まさか……
「フランベール先生!」
声と共に駆け付けてきたのはローエとカティアだった。
「二人とも! 良かった無事だったのね!」
「ご心配を御掛けしましたわ」
「もうヘマはしません。回避重視に立ち回ります!」
「うん。回避重視で、カティアさんとローエさんにも狙ってほしい部位があるの──っと!」
白銀の奔流が三人を狙って飛来した。
反応したフランベールとローエたちは散開する。
地面を抉って大爆発を起こす白銀のブレス。
爆音が鳴り止むのを見計らってフランベールは声を張り上げた。
「ローエさん! カティアさん! あいつの頭部を覆っている氷を狙って! 破壊するわ!」
「了解!」
「了解ですわ!」
降り注ぐ氷塊を避けながらカティアとローエは迷わず返答してくれた。
なぜその部位を狙うのか?
という理由は聞いてこない。
そんな暇も隙もないほどS級ドラゴンが猛攻に転じて来たからだ。
最初に狙ってきたのはカティアだった。
彼女に飛び掛かってきたS級ドラゴンは爪を振りかざす。
カティアはバスターランサーの起爆を利用して横へスライドし、爪の回避を決めた。
ドン! ドドン! とリズミックに起爆トリガーを引き横スライドからの急旋回。
S級ドラゴンの爪をすり抜けて肉薄し、氷に覆われた頭部をバスターランサーで突く!
フランベールが付けた亀裂を狙ってカティアは突いた。
追撃の如く起爆を起こしてさらなる衝撃を重ねる。
ビシッ! ビキキッ!
カティアの攻撃を食らった氷は亀裂を大きく広げた。
それがきっかけでまたS級ドラゴンは大きく後退する。
間違いない。
やつは氷の破壊を恐れている。
あの氷の内側は肉質が柔らかいのかもしれない。
だからわざわざ氷で防御しているのかも。
反撃できる可能性が見えてきた。
「逃がしませんわよ!」
後退したS級ドラゴンに追撃へ出たのはローエだった。
S級ドラゴンはそれを待ってたかのように背中の氷山を発射!
直径4~5メートルほどもある巨大な氷塊がローエに迫る。
しかしローエは笑った。
それこそ待っていたと言わんばかりに。
「本気で行きますわよ!」
ドシッと地に足をつけ、マグナムハンマーを握る手に力を込める。
迫りくる氷塊にタイミングを合わせ、ローエはマグナムハンマーを全力でフルスイングする!
バキィインと派手な轟音を響かせ、ローエは自分の倍以上もある氷塊をS級ドラゴンに打ち返した。
打ち返した先はもちろんS級ドラゴンの頭部。
氷塊が頭部に直撃し、そこを覆っていた氷を破壊する。
果たして瞳と顔が露出した。
さらにダメージはそれだけではなかった。
氷塊による頭部への衝撃はかなり重かったようで、S級ドラゴンは目眩を起こしてフラつき始めた。
「今ね! そこっ!」
この好機を逃すまいとフランベールは限界まで引き絞った最大パワーの【アイスアロー】を撃ち込む。
鋭い大矢の如く、それはS級ドラゴンの左目に直撃して竜血を撒き散らした。
S級ドラゴンは激痛のあまり吠える。
「効いてますわ!」っとローエ。
「よし!」っとカティア。
ようやくダメージらしいダメージを与えられた。
フランベールは続けて攻撃し、敵の頭部に【アイスアロー】を数発叩き込む。
案の定、頭部には【アイスアロー】が突き刺さった。
やはり肉質が柔らかい。
ここを狙い続けて攻撃すれば!
刹那、S級ドラゴンが怒りの大咆哮を発した。
至近距離にいたカティアとローエは衝撃波によって吹き飛ばされる。
「うわああああああああああああっ!」
「きゃああああああああああああっ!」
悲鳴を上げて吹き飛んでいく二人。
フランベールは少し距離があったから衝撃波にはギリギリ耐えられた。
しかしあまりの大音量に鼓膜が破れそうだ。
なんとか耳を塞ぎながらS級ドラゴンを見やると。
そこには──
「うそ……」
絶望的な光景があった。
S級ドラゴンは氷を再生させていたのだ。
それだけならいい。
今度の氷は顔だけでなく『全身』に纏わせていたのだ。
弱点である頭部の氷も先程より分厚くなっている。
やられた左目を閉じながら、右を真っ赤に光らせ怒りを滾らせている。
その眼光はまっすぐにフランベールへと向けられていた。
怒りが頂点に達したS級ドラゴンの殺気は、S級女騎士であるフランベールを容易く戦慄させる。
こ、怖い……
なんて殺気なの……
「今までは本気じゃなかったって言うの……?」
全身を氷の鎧で固めたそれはまさに本気の戦闘態勢にしか見えない。
そしてそれは正しかった。
氷の鎧を纏ったことで動きが重くなったのかと思えば逆で、その動作に鋭い俊敏さが激増していた。
四肢を唸らせ突進してくる。
さっきより断然速い!
「うっ!」と僅かに反応し切れなかったフランベールはS級ドラゴンの突進をカスってしまう。
カスっただけでミスリル製の肩当てが吹き飛び、肩が外れそうになるほどの衝撃を受けた。
さらによろけたフランベールに襲い掛かったのは突風だった。
あのS級ドラゴンの巨体があれほどのスピードで横切れば突風が起こるのも当然。
ただでさえよろけていたフランベールはその突風に踊らされ、ついに転倒してしまう。
「うぐっ!」
倒れたフランベールを過ったS級ドラゴンは、強靭な四肢を活かして天へ跳躍した。
空中で回転したかと思うと、S級ドラゴンは氷の爪を巨大化させて強襲する!
空から迫るくるS級ドラゴンの攻撃。
それを目にしたフランベールは避けられないと直感した。
まだ身体は、倒れたまま……
「フランベール先生ええええええ!」
「先生ええええええ!」
ローエやカティアの叫びが聴こえた。
その叫びが逆に、自分はこれから死ぬんだと、本気で悟らせ──
──やだ……
まだ死にたくない……
まだわたし、ゼクードくんになにも……
助けて──
「──ゼクードくん!」
死の恐怖に駆られ、フランベールはついに生徒の名前を叫んだ。
先生なのに情けないと場違いな感傷に浸る。
諦めたくないのに諦めて眼を閉じた。
助からないと、涙が溢れる。
死を覚悟した次の瞬間。
ドスッ!
S級ドラゴンの爪がフランベールを貫く音が聞こえた。
不思議と痛みはなかった。
もう死んだのかと眼を開ける。
「──え?」
そこには片腕を無くしたS級ドラゴンと、漆黒の鎧を纏った一人の少年が長剣を構えて対峙していた!




