第25話【S級ドラゴンの脅威】
目視できるところまでドラゴンの大軍は迫って来ていた。
一時間以内どころではない。
とても速い進軍である。
A級ドラゴンの大軍は、誘導を担当している騎馬隊を追いながらまっすぐこちらの迎撃拠点に向かって来ている。
ドラゴンたちの赤い鱗が群を成し、血の海のように見える。
なんて恐ろしい光景だろう。
そして何よりその最後尾にいるドラゴンの存在が異色を放っていた。
青い鱗と背中に氷山を乗せたような四つん這いの化け物だ。
「あれが……S級ドラゴン」
初めて見るS級ドラゴンに俺は思わずそう呟いていた。
デカい。望遠鏡越しでも分かる巨体だ。
周りのA級ドラゴンたちがベビードラゴンのように見える。
「全員! 配置につけ!」
総司令の呼び掛けに俺を含めた騎士たち全員がハッとなった。
すると胸壁に設置されたバリスタや大砲などに各騎士たちが就く。
さらに魔法騎士たちも胸壁に並び立ち、魔法の発射態勢に入った。
「誘導中の騎馬隊に当てるなよ! 全員用意!」
ドラゴン達が射程圏内に入るまで、みなが総司令の合図を待ちながら待機。
ドラゴンの大軍と距離が近づくにつれ地鳴りが大きくなっていく。
まるで死が近づいているような恐怖を覚えさせる地鳴りで、さすがの俺も生唾を飲んだ。
そしてついにドラゴンの大軍が射程圏内に侵入し、総司令が片手を上げた。
一時の沈黙の後、総司令は上げていた片手を前に突き出した。
「撃てぇ──っ!」
号令が弾け、バリスタや大砲らが一斉に爆音を響かせ発射される。
魔法騎士隊も真紅の奔流である熱線【プロミネンス】と、巨大な氷結晶を空から降らせる【アイスレイン】を発動。
どちらも【炎】【氷】の最高レベルの魔法である。
【第一城壁】からの一斉射撃。
それらの弾雨に撃たれたドラゴン達は何匹と吹き飛んで、それでも構わず前進してくる。
バラけているせいでまだ効果が薄いのだろう。
でも少なからず効いているはずだ。
何匹かのドラゴンが火球で反撃してくるも、その程度のものが城壁に通ずるはずもなく、城壁を黒く焦がすだけだった。
バリスタや大砲は撃ち続け、魔法騎士隊は別の魔法騎士隊と交代し、またも【プロミネンス】と【アイスレイン】を放つ。
最高レベルの魔法は強力だが体力を大きく消耗するという欠点がある。
俺たちのような前線で暴れる騎士たちがあまり上位魔法を使わないのはこのためだ。
魔法で体力を消耗し、動けなくなったら死あるのみ。
だから【魔法騎士】という魔法専門の騎士もこうして存在しているのだ。
「【第一城壁】のゲートを開放! 奴らがここを通って密集したところに【第二城壁】からの攻撃を開始する!」
作戦の本命である指示を出した総司令。
ゲートが重い音を響かせながら開かれていく。
誘導中の騎馬隊もそこへ向かって駆け抜けていき、彼らを追ってドラゴンたちもゲートへ向かう。
「よし。私は【第二城壁】へ移動する。ここは任せたぞ」
総司令の言葉に各部隊の隊長たちが揃って「了解!」と声を上げた。
総司令が城壁を降りようとしたその時。
「総司令! S級ドラゴンに動きがあります!」
「なんだと!」
味方の一人が叫び、俺は総司令と共に大軍の奥に潜むS級ドラゴンを見た。
なんだ?
あいつの背中にある氷山みたいなトゲトゲした針群が光っている?
何をする気だ?
200メートル以上も離れたこの距離で。
S級ドラゴンは身体を痙攣させたかと思うと、背中の氷山を発光させてきた。
そして次の瞬間。
その氷山が天空へと発射されたのだ。
それも一発や二発ではない。
立て続けに何十発もだ!
「な!」
俺は次に起こる惨劇をイメージし、全身から汗が吹き出す。
それはたぶん、この場にいるローエさん達や総司令たちも同じはず。
空へと打ち出された何十発もの氷山は天を折り返し、ここ【エルガンディ王国】に降り注ぐ!
「みんな逃げろおおおおおおおお!」
我知らず俺は叫んでいた。
しかし時はすでに遅く、天から舞い降りた氷山は【第一城壁】の胸壁に直撃し、何人かの騎士を踏み潰してこの場を激震させた。
悲鳴を上げる味方たち。
激しい城壁の揺れに足を取られる俺やローエさんたち。
そんな状況にも拘らず無情にも降り注ぐ残りの氷山群。
それらは【第一城壁】だけでとどまらず【第二城壁】にまで被害をもたらし、さらにはその奥の街中にまで降り注いだ。
とんでもない遠距離攻撃だった。
俺は揺れる胸壁から何とか顔を出してS級ドラゴンを見ると、奴はすでに大口を開けていた。
奴の喉の奥が銀色に光っている。
まさか、未だ氷山が降り注ぐこの状況でのブレス攻撃か!?
俺の予想は的中し、S級ドラゴンはブレスを発射。
それは白銀に輝く細い光線だった。
弾速はA級ドラゴンの火球を遥かに超え、一瞬のうちに【第一城壁】のゲートを潜り【第二城壁】のゲートに直撃する。
それはドラゴンの攻撃にも耐えうる厚いゲートを一撃で粉砕し、街への侵入口と化してしまう!
「嘘だろ……一撃でゲートが」
「これがS級か……化け物め! うわっ!」
氷山が城壁にぶつかりまたも激震。
俺もカティアさんも足を取られる。
「っ! いけない! A級ドラゴンが街に近づいてるわ!」
フランベール先生の叫びで俺は下の状況に気づいた。
降り注ぐ氷山やブレスの支援を受けて一気に攻めてきていたA級ドラゴンたち。
奴らは破壊されたゲート目掛け、最高の餌場である街に向かって突き進んでくる。
その光景を見た俺は一瞬だけグリータやクラスメイトたちの姿が脳裏に浮かんだ。
やばい!
あいつらを止めないと街のみんなが!
俺は焦った。
だが、それに拍車を掛けるように氷山がまた降り注ぐ。
良く見ればS級ドラゴンはあそこから一歩も動かず、ひたすら氷山を乱射している。
しかもそれを護衛するかのように数匹のA級ドラゴンが取り巻きにいた。
くそ!
あそこから延々と氷山とブレスを撃ってくるなんて!
このままじゃマズイ!
「ローエ! カティア! フランベール! 俺たちは突撃する! 城壁を降りるぞ!」
「了解!」と即座に返ってきた彼女たちの返事を耳にし、すぐに胸壁から垂らされている緊急離脱用のロープを手にし、城壁を蹴って下へ。
「動ける者は第二城壁の死守! 半数は『ドラゴンキラー隊』の援護に回れ!」
総司令の号令に生き残りの騎士たちが「了解!」と力の限り叫んだ。




