第15話【フランベール先生との昼食】
何があった?
とクラスメイト達に聞かれたので、俺は事の顛末を答えた。
カティアさんに夜食に【ドラゴンバーガー】を作ってもらったこと。
ローエさんに朝食で白パンとバターを貰ったこと。
フランベール先生と昼食を共にすることになったこと。
その全てを告げた。
そしたらなんか……グリータから右ストレートが飛んできた!
「あぶなっ!」
「避けんな!」
「避けるわ! なんだよいきなり!」
「自慢にしか聞こえねぇんだよ!」
「そうだよ自慢だよ文句あっか!」
「き、きさま!」
「でも本当に運良すぎて怖いのは事実なんだよ!」
「その恐怖は正しいぞゼクード。何故ならきさまは今ここで俺たちの手によって死ぬんだからなぁあ!」
「な、なにぃ!?」
気がつけば怒りのオーラを全開にしたクラスメイトたちが俺を囲んでいた。
目がギラついている!
あれは思春期の男子特有のヤバい目だ!
「やっちまえお前らああああ!」
「うおおおおおおおおおおお!」
グリータを筆頭にクラスメイトたちが雄叫び上げて迫ってくる。
ヤバいヤバいヤバいヤバいって!
さすがに29対1はヤバいって!
イジメ通り越してただのリンチだよこれ!
「ま、待てお前ら!」
「なんだ降参か!」
「違う! いま俺をやったら誰が【S級ドラゴン】は倒すんだ! お前ら対処できんのか!」
「できん! フランベール先生たちに任せる!」
やっぱダサいなこいつら!
「フランベール先生たちでもダメだったらどうするんだ!」
「国を捨てて逃げるまでよ!」
「最っ低だなお前ら! お前らこそ騎士道を語る資格はねぇ!」
「やかましい!」
「問答無用!」
「やっちまえ!」
「おおおおっ!」
クラスメイトたちが一斉に飛び掛かってきた!
「ああくそ! こうなったらやってやるよ! 【S級】舐めんなこの【C級】どもおおおおっ!」
俺達は朝っぱらから29対1の大乱闘を起こした。
※
そして数分後。
「はぁ、はぁ……弱かった……」
山積みになったクラスメイトたちを目前に、俺は素直な感想を呟いた。
そしたらちょうどフランベール先生が教室に入ってきた。
フランベール先生はその光景を目の当たりにしてギョッとなる。
「ぇ、ええ!? 何があったのこれ!?」
「ちょっと青春を謳歌してました」
「ええええ!? こ、こんなのが男の子の青春なの!? と、とにかくみんな大丈夫!? あれならみんな保健室に!」
あたふたするフランベール先生の声に反応してか、山積みのクラスメイトたちが一人、また一人と立ち上がって山を崩していった。
「あー先生。大丈夫ですよオレたちなら」
「これくらいどうって事ないんで」
「授業始めちゃってください」
こ、こいつら!
フランベール先生に心配を掛けないようにしてる!
さっきまで最低だったのに、こんなとこだけみんな男前だ!
なんか顔もキリッとしてる!
※
そして騎士学校の4限目が終わり、昼食の時間となった。
フランベール先生が選んだ場所は人気の少ない学校の裏庭だった。
さすがに学校では俺とフランベール先生は教師と生徒の関係だから、こんな風に一緒に昼食を食べてるところを見られるのは恥ずかしいのだろう。
草原のような裏庭に座ると、フランベール先生も隣に座ってきた。それもかなり近くで。
優しい風が吹くと、フランベール先生の甘くて良い香りがした。
凄く落ち着く優しい女性の香りだ。
素晴らしい。
「ゼクードくん。なんでみんなあんなボロボロの山積みになってたの?」
持参してきたお弁当の風呂敷をほどきながらフランベール先生が聞いてきた。
やはり本当の理由を知りたがっている様子。
それもそうだろうな。
自分の担当しているクラスだし。
でも『昼食を共にする』原因だなんて言えんよなぁ。
「いえ、あれはあいつらなりの努力ですよ」
「努力?」
「はい。【S級ドラゴン】が現れたから危機感を持ってって、フランベール先生みんなに言いましたよね? あいつらそれをしっかり聞いて、俺に相手してくれって頼んで来たんです」
「ぁ、それでゼクードくんだけ無傷でみんな山積みのボロボロになってたんだ」
いやぁ無傷の勝利ではなく数発ほどパンチもらってますぜ。
全部このミスリルアーマーにヒットして逆に手を痛めてましたけど。
「そうなんですよ。あいつらも頑張ってるんです」
「良かった。みんな仲悪くなって大喧嘩したのかと思ったわ」
「それはさすがに大丈夫ですよ」
俺は笑いながら答えた。
フランベール先生も安心したらしく、お弁当の中身をフォークで刺して口に運んだ。
パクリと食べたのは何かの野菜だろう。
なぜならフランベール先生のお弁当の中身は野菜だらけなのだから。
野菜好きってのは知ってたけど、これは凄い。
肉が少ない。俺とは真逆だ。
これは俺の弁当を広げたら何かしら指摘される恐れがあるぞ。
今日なんて肉しか入れてないしな。
昨日カティアさんにもらった残りの【ドラゴンステーキ】だけど。
「ん~?」とやはりフランベール先生が俺の弁当箱の中を覗いてきた。
バレちゃった。
「お肉ばっかりじゃないゼクードくん」
「いやぁ~ははは、肉好きなんで」
「気持ちは分かるけどダメよ野菜もしっかり取らないと」
「そ、そうですね……」
案の定、怒られた。
野菜ってあんまり単品だと美味しくないんだよなぁ。
肉とセットなら、まぁまぁイケるけど。
あと保存が効きにくいってのもある。
そこいくと竜の肉ってなかなか長持ちするのだ。
干し肉にしなくても腐りにくい。
美味いし保存が利くしで良いことだらけなのだが。
「はいゼクードくん。ア~ンして」
「え?」
フランベール先生の方へ振り向くと、隙ありと言わんばかりに野菜をフォークで口に突っ込まれた。
いきなりで驚いたが、野菜は何かのスープで煮込まれたのか良い味がしっかり染み込んでいた。
これは美味い!
野菜で美味いと思ったのは初めてだ。
──いやいやちょっと待て!
俺いまフランベール先生にア~ンしてもらえた?
してもらっちゃった?
うそ、いきなり過ぎて現実味が湧かない。
「美味しい?」
ニッコリとフランベール先生が俺の顔を覗き込んでくる。
その笑顔にドキリとした。
「ぉ、美味しいです! 凄く……」
「ふふ、良かった。お肉の量が多いからもうちょっと食べようね? はいア~ン」
またもフランベール先生は躊躇いなく俺に野菜を分けてくれた。
なんだこれ、恋人みたいなやりとりじゃないかこれ?
いかん、幸せ過ぎて野菜の味がしなくなってきた。
「あの、こんなにもらって良かったんですか?」
フランベール先生のお弁当の半分は食べさせてもらってしまった。
さすがに貰いすぎな気がしてそう聞いたのだ。
「良いのよ。それよりお肉ばっかり食べてると血がドロドロになるって授業で教えたでしょう? これからはしっかり野菜も食べなさいね?」
「ぇ、ええ、まぁ、考えときます。はは……」
「んーゼクードくんのその反応は食べないパターンね」
バレてる!
さすが俺の担任。
「それじゃあわたしもカティアさんやローエさんを倣って昼食のお野菜弁当を担当しようかな」
「ほ、本気ですか?」
「本気。ゼクードくんこれからわたしたちの隊長になるのにそんな不健康な食生活してたら身体がダメになっちゃうでしょう?」
「いや、その……」
「大丈夫。ゼクードくんは今まで通りお肉のお弁当を用意してきていいよ。お野菜はわたしが毎日持ってきてあげるから」
嘘だろおい。
カティアさん、ローエさんに続いてフランベール先生まで。
朝・昼・晩と食事に困らなくなってしまった。
良いのだろうかこれ本当に。
これってつまり毎日いっしょに昼食を食べてくれるってことでもあるよね?
やっぱり俺【S級ドラゴン】と戦って死ぬのかな?
なんか本気で怖くなってきたんだが。
「ゼクードくん?」
「ひゃい!?」
ボケッとしていたせいで変な声を上げてしまった。
「あ、どうしても嫌だったら無理強いはしないよ?」
「と、とんでもないです! あんなに美味しい野菜なら毎日でも欲しいです! はい!」
「ふふ、なら良かった」
安心したようにフランベール先生は残りの野菜をフォークで刺して口に運んだ。
フォークがフランベール先生の唇に包まれる。
その光景に俺の心臓が今までにないくらい高鳴った!
あれ?
あのフォーク……俺がア~ンしてもらったやつだよな?
いや、そもそもフランベール先生が持ってるフォークはあれ一本しかない。
「ん、美味しぃ」とニコニコしながらフォークを口に含んでいくフランベール先生。
またその光景にドキリとした。
これは、アレではないだろうか?
フランベール先生はまるで気づいてないけど、これは、まさに!
か、間接キッスというヤツでは!?
気づいてから俺は心臓がバクバクし始めた。
なんか急に大人の階段を少しだけ上った気がしたから。
顔も熱い!
メチャクチャ血液が顔面に集中している!
顔が真っ赤になっているのが分かる!
すると当のフランベール先生も何度かフォークを口にしてからピタリと止まった。
どうやら彼女もようやく間接キッスに気づいたらしい。
みるみる間にフランベール先生の顔が真っ赤に染まっていく。
あのいつもとろんとしたフランベール先生が赤面してる。
なんか可愛い。
「あの、先生」
「ひゃい!?」
不意に話しかけたせいか先生まで変な声になってた。
これまた破壊力のある可愛さだ。
「ご、ご馳走さまでした。本当に」
「う、うん……」
「それじゃ、俺もう行きます」
「うん。また、ね……」
お互いに顔を真っ赤にして離れた。
間接キッスについては触れない。
お互いに気づいてないことにして、その場を去った。




