奴隷として
佐々木くん視点
僕にとって彼、佐山 翔琉は最悪な存在だった。
僕は人と向き合うのが苦手で、正直に言うなら一人でいるのが好きだった。みんなが思い思いに楽しく過ごす休憩時間も大好きなラノベを読んだり、イラストを描いて過ごす、そんは時間を邪魔してくるのが彼だった。
悪気は無いのかもしれない、やめてくれ、構わないでくれ、誘わなくていい、遠回しに伝えようとするけれど元々あまり他人と上手く話せない僕にはそれだけでも苦痛だ。結局はやめてよと端的に言うだけになってしまい、自己嫌悪になる。
笑いながらごめん、ごめんと繰り返す彼の影響で、いつの間にかクラスメート達まで僕に関わるようになった、静かで穏やかだった僕の平和が乱されていくのに、周りは「佐山くんはあんな暗い奴まで気にかけてさすが」とか「話してみると佐々木って、案外いい奴だな」とか勝手なことを話してる。僕はそんなこと頼んだ覚えはないし、別に良く見られなくていい。
給食を受け取りに並んでいると、ニヤニヤしてる彼が見える。もう嫌な予感しかしない、またイタズラをして、暗めなオタクと仲が良いアピールだろうか。
やめてくれと何回言えば伝わるんだろう。先生を通しても話した筈なのに。
「もうやめて、迷惑だよ。後ろだってつかえて、僕は君の引き立て役じゃないんだよ」
はっきりと伝えた、いや、僕の吃りがちな喋り方だと、結局伝わらないのかもしれない、笑いながらごめんと繰り返して、箸を渡してくる彼に憎悪を抱き初めていた。
応援演説を頼まれる。
クラスメートに推薦された。そう、人気者だもんね。
だから、お前に応援演説を頼みたい。そこまでして、僕を引き立て役にしたいんだね。
明るくてハキハキしてて、人気者。
暗くてウジウジしてる変わり者。
断れないって知ってて押し付けてくる。
「お前は良い奴で実はすごい奴だから」
そんな風に持ち上げてくる。善意の押し付けはいらないから、僕を巻き込まないで欲しいんだ。
応援演説は最悪だった。
元々、読むのは好きでも文章なんて書かない僕が、応援する気なんて無い彼の応援演説文なんて、まともに書ける訳が無いし、それっぽい内容を無理やり書いても、人前で喋るのは苦手なんだ、まして思っても無いことを読み上げる作業に、僕は脂汗がとまらず、倒れてしまいそうな程、気持ち悪くなった。
壇上で思わず吐きそうになる。
そのあとの彼の堂々とした演説ぶりに、やっぱり、ただの引き立て役じゃないかと鉛のように心が沈む。
もう無理だと、先生にクラスを離してくれと頼み込む。来年のクラス替えで僕は平穏を取り戻したかった。
彼とクラスが離れて、僕は平穏を取り戻した。
高校が別になれば、彼も僕に構う事などなくなるだろう。引き立て役として、彼の無自覚に付き合わされて奴隷となる生活とはオサラバだと思ってたのに、
放課後だった。僕は美術部の活動のために美術室で油絵の仕上げをしていて、いつも使っているパレットナイフが無いことに気付いた。昨日、家で別の絵を描いていて、忘れてしまったらしい。パレットやペインティングナイフは持って来たのにどうしようと思っていたら、先生から隣の準備室に予備のパレットナイフがあるから、良ければ使いなさいと言って貰える。
一度、廊下に出て美術準備室でパレットナイフを見つけ、再度、廊下に出ると彼に出会す。
廊下で会った彼に目指している進学先が同じだと告げられる。高校受験で落ちることはそうそう無いから、同じ学校になるだろう。
進学先を変えることも考えたけれど、学区内で同レベルの普通校は数えるほどしかない。もし、進学先を変更して、彼もそれに同調したら。
僕はパニックになっていた、手にしていたパレットナイフを突き立てていた。刃がついているとは言い難いパレットナイフだったけれど、それでもパレットに絵の具を伸ばし混ぜるため、ストレートに先を尖らせたナイフ形状の金属製品は、彼の腹部に深々と刺さっていた。
僕は… 僕は奴隷じゃない。
これで完結となります。
分かるとは思いますが、最近ニュースになった事件から考えた作品ですが、本作品はフィクションですから、当該事件の被害者、加害者の関係については一切関係ありません。
噛み合わない思考が悲劇に繋がる。
悲しいですね。
パレットナイフが本当に刺さるかは疑問ですが、まあ、ある程度の固さがあれば、形状的に刺さらないことは無いだろうと思っています。
仕事柄、刃物を良く扱ってますが、刃が無くて、先端が丸くて切れないものでも、ナイフ形状に尖らせてあれば刺す分には問題ないんですよね。
紙の束とかに使う千枚通しとか、先端丸くても意外と刺さるんで(;-ω-)ノ
感想お待ちしております。




