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冒険者ギルドと教会

 生産系勇者候補が優子に会うために夕食に訪れてから数日後、誠は自室の執務室でエルフの女性と会っていた。


「私は、冒険者ギルドフリット王国王都支部ギルドマスターのエレアノール・ウィンスレットと申します。気軽にエレアとお呼びください。誠様には、普段からギルドの活動にご協力頂き大変感謝致しております。……しかし、こんなことをして許されると思っているのですか!!」


 エレアが丁寧な態度であったのは始めだけで、最後には怒りを爆発させた。


このエレアはエルフ族である。エルフ族は、人間族に比べ、男女ともに見目麗しい容姿をしていることが多い。このエレアもその例に漏れず、美しい容姿をしているのだが、かなりお怒りのようだ。誠が調べた限り、彼女は、聡明で、基本的に善人なのだが、今回のような状況の変化の速さに対応できず、いろいろと見えなくなっているようだ。そんな状態の彼女がここへ来てしまっては、自ら誠の策に嵌りに来たようなものである。


 そんなエレナが、ここまで怒っているのにも訳がある。

 冒険者ギルドは、建前上、国境を越え、各支部が繋がり、各国から独立した組織であるとされているが、実情は、それぞれの地域との結びつきは避けられないのだ。それと言うのも、各地域が、風習も違えば、風土も違う。特別な慣習もあれば、宗教観も変わってくることがある。それらを無視して、同一の運営方法で成り立つはずがない。

 そのため、エレアは、今回の勇者の町の冒険者ギルドは、フリット王国王都支部が担当するものである思い込んでいたのだが、誠は、それを逆手に取ったのだ。

簡単に言えば、周辺国の各冒険者ギルドに情報を流し、出資の可能性を匂わせたのである。そのため、エレアが見込んでいた出資額よりも抑えられることになりそうだが、それ以上に、利益がどれほど削られるのか見えない状況になっているのだ。


「私は、誰に対して、何の許しを請えばいいのでしょうか?」


 エレアが言っていることは、当然、わかっているが、誠が気にすることではない。


「あなた、冒険者ギルドを潰す気なの?」


 エレアは、今のまま話が進めば、勇者の町の冒険者ギルドで、各国のギルドによる利益の争奪戦になると言っているのだ。


「どうなるかは、最終的にはこの国が決めることですが、私の考えとしては、1つの町に、なぜ1つの冒険者ギルドしかないのかが不思議です。複数あれば、互いに競争し合い、利用者、所謂、冒険者と依頼主に、より良いサービスを提供できるようになるのではないでしょうか。

 特に、勇者の町は、冒険者によって成り立つ町です。そして、素材や資源も十分にあることは考えるまでもないでしょう。きっと、多くの人に喜んで頂けると考えております」


「あなたの多くの人の中には、冒険者ギルドが入っていないじゃない」


「エレアさんが言っているのは、フリット王国王都支部だけですよね。なぜ、私が特定の支部だけを優遇しなければならないのですか。他国の支部は、喜んで参加してくれるでしょう。私は、冒険者ギルド全体のことを考えて話しております。

 私も、すべての人に喜んで頂けるとは思っておりません。ここへ来たエレアさんなら、詳しく話すまでもないでしょう。私は、かなり多くの方に恨まれております。その方がどういった方かも話すまでもないでしょう」


 誠を恨んでいる者たちは、当然、欲に塗れた既得権益者たちだ。誠は、憎くてこの者たちから利権を奪っているわけではない。経済が発展していないこの世界では、この者たちしか金を持っていないからだ。言い換えれば、奪えるところがここしかないだけである。


「そういうことね。……私も、そいつらと同じだったのね」


 エレナは、もちろん、かなり前から誠のことは調べている。何をして、誰に喜ばれ、誰に恨まれているのかを。報告を聞いている時は爽快な気分も味わったこともあった。それだけ、エレナも、欲に塗れた既得権益者に対して、苦い思いをさせられることも、思うところもあったのだ。

 しかし、誠に言われて、初めて自分もそうであったと気付かされたのだ。


「そうであるとは言っていません。これから冒険者ギルドは新しい形を模索してくことになるでしょう。それをしていくのは、ギルドの中の人であるエレアさんたちですよね。これからの行動次第では、そうなってしまう可能性があると言っているだけです」


 誠の説明を聞いて、エレアが自分のことを理解してくれたのであれば、後は早い。誠にとって、聡明である人は、説明が少なくて済むので、楽な部類の人である。


「あなたは、まだ私にも機会を残してくれているのね。お礼を言わせてもらうわ。ありがとう。

 たしかに、あなたが言う、勇者の町で、複数の冒険者ギルドを立ち上げることは、冒険者ギルド全体の事を考えれば、プラスにすることもできるでしょう。そうできれば、結果として、私たちの支部も儲かることになるのね」


「はい。話が早くて助かります。今回の案が通った場合、どうしてもギルドのまとめ役は必要になるでしょう。それをお願いできるのは、エレアさんになるのではないでしょうか。

 勇者の町の冒険者ギルドにおける新しい運営方法や改善案はこちらの資料に纏めてあります。これを利用するのも、しないのも冒険者ギルドです。参考程度のためにお渡ししておきます」


「噂通り、用意がいいわね。もし、私が使えなかったら、どうしたの?」


「エレアさんの支部には、まだ多くの職員が居られます。他国の支部にも多くの方が居られます。それでも無理なら淘汰され、1つのギルドが残るでしょう」


「なるほどね。余計なことを聞いたわ。さらに追い込まれるとは思わなかった」


「そう思って頂けるのなら、お話して良かったです。しかし、エレアさんには、ここでの地位を捨ててもらうことになるのですが、よろしいのですか?」


「失敗すれば、僻地に飛ばされた馬鹿な女だと思われるかもしれけど、上手くいえば、各国の冒険者ギルドを統括できる立場になれるのだから、栄転でしょ。それに、私はエルフ族だから、こんな街中よりも、自然が多い方がいいわ」


「エルフ族の方と共感できるとは言えませんが、エレアさんが納得して頂けるのなら良かったです」


「言葉だけで共感できると言われるよりも、そう言って貰える方が信用できるわね」


 このあと、勇者の町の冒険者ギルドについて、もう少し詳しく話した後、エレアは機嫌よく帰っていった。

 今回の話し合いで、冒険者ギルドからの融資の目途はたった。さらに、誠は、自分が破壊した冒険者ギルドの秩序の再構築を、エレアに丸投げしたのである。いつも通りの誠であった。



 この冒険者ギルドの話が表に出始めると、すぐに優子の師匠である教会のシスターのカミラがやって来た。


 この教会という宗教組織は、歴史が長い。少なくとも、師匠が生きていた時代にも、同じような組織はあったようだ。冒険者ギルドとは反対に、基本的に各教会が、そこの国や地域に結びついているのだが、共通理念として、魔王と魔族は人類の敵であると人々に教えていることもあり、国境を関係なく横の繋がりも強いのである。その中には、派閥もあり、かなり複雑なことになっているようだ。聖職者と呼ばれてはいるが、長い歴史があるため、腐敗が目に付くところもある。そんな組織である。


「誠殿、もしかして、教会も複数を望んでいるのですか?」


 カミラが少し慌てて話し始めた。


「意味がわかりません。町に教会を複数作って何か良いことがあるのですか?」


「いえ、たしかにそうですが、教会内で騒ぎになりまして、確認してくるように言われました」 


「教会と冒険者ギルドは、まったく違った組織です。対応を同じにすることはありません。ただ、戦闘員のための町ですから、怪我人は多く出ます。そのため治癒院に関しては、それなりの規模とそれなり人員を求めると思いますが、その程度ではないでしょうか。経済的な規模は大きくなるかもしれませんが、人口は、王都のように多くなることはないでしょう。危険な地域です。好き好んで住む人はいないでしょう」


「そうなのですね。しかし、治癒院の話がでましたが、やはり、優子は、勇者の町に行くことになるのでしょうか」


「本人が望めば止めることはできませんが、望まないでしょう。それに、教会としても、こういった大都市で一般市民を相手に奉仕活動のようなことをしてくれる方が、ありがたいのではないでしょうか」


「恥ずかしながら、そのとおりです」


「そうであれば、国から圧力掛かった場合、できる範囲で守ってあげて欲しいと思います」


「はい、わかりました。上の者には、そのようにお伝えしておきます。本日は、お騒がせして、申し訳ありませんでした」


 カミラがそう言って、慌ただしく帰っていった。

 

 誠が教会に手を付けないのには、理由がある。教会には、地縛霊や浮遊霊がほとんどいない。居てもすぐに浄化されてしまうため、スピリット・ネットワークが通じないのだ。ゆえに。教会は、誠にとって鬼門なのである。




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