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生産系勇者候補

 健二の事件があって数週間後、誠の部屋の応接室に、生産系勇者候補たちが訪れていた。職業の内訳は、鍛冶士。木工士、裁縫士、細工士、魔道具技士の5人である。

 テーブルにお茶とお菓子が並べられ、このメンバーのリーダーである鍛冶士の男子が話し始めた。


「先にいろいろお礼を言いたかったんだけど、ナニ、このハーレム。噂には聞いていたけど、酷いね。相変わらず、横田は、この世界でも勝ち組だったんだね。健二が勝手にこけたのもあるけど、勇者召喚物語の主人公は、やっぱり横田だったんだね。

 もちろん、言われなくてもわかっているよ。この世界は物語なんかじゃないってことはね。俺たち戦闘系じゃないから、横田から仕事貰わなかったら、存在価値がどこにあるのか、自分たちでは見つけられなかったんだ。こう言ったら悪いけど、落ちこぼれで軟禁されている横田を見て、自分たちは、まだマシだと慰めていたんだ。その辛かった状況を横田が打開してくれたんだ。本当にありがとう」


 鍛冶士の男子はそう言って、深く頭を下げた。それに合わせて、他の4人も感謝の声を上げながら、頭を深く下げていた。


「結果として助けることになったかもしれませんが、僕は自分の仕事のために、使える人を使って、自分にできないことをお願いしただけです。お礼を言われる筋合いにはありませんが、今回のお礼は頂きました。これでお礼の話は終わりにしましょう」


「ホント、この世界に来ても、話を上手く進めるよな。ホントに、言語スキルがないのかよ。一から言葉を憶えるって、どんだけ苦労してんだよ」


 鍛冶士の男子は、苦笑い浮かべながら、素直な感想を述べていた。


「言語に関しては、先生やそこで卓球してるメイドさんの協力もあって何とかなったのです。感謝しかありません」


「横田は、相変わらず、感情のない感謝の言葉だな。なんか安心するわ。でも、ナニ、あのメイドさん。相手の騎士服のお姉さんは、騎士だろうからわかるけど、あれは、メイドさんの動きじゃないよね」


 鍛冶士の男子は、少し離れたところで、卓球をしている、エリザとジュリアを見ながら、そう言葉を誠に返した。彼が、エリザのスカートの中身が見えないかドキドキしているのは、誰が見てもわかるのだが、異世界に召喚されたとは言え、年齢的には、まだ彼も男子高校生だ。仕方がないだろう。


「メイドの嗜みですとか、言い出しそうなので、それは言わないで上げてください」


「やっぱりそういうキャラなの?」


「いえ、あまり絡んだことがないので、知りません」


「いや、絡めよ!! お前、この状況で、なにしてんだよ!!」


「ツッコミを入れられても困るのですが、仕事と鍛錬を繰り返しています」


「まぁ、横田は変わらず横田で、安心できた。……いやいや、今日は安心しに来たんじゃなかった。相談があって来たんだ。

 横田は、今の俺たちの仕事の進行具合は、理解してくれているかな」


「はい。今日、初めて見た卓球を除いて、紙面のみですが、フットサル、テニス、バスケットボール、バレーボール、ボーリング、カラオケは完成の目途は立っていると聞いていますが、合っていますか?」


「それで、合ってる。これらに関しては、俺たちだけでなんとかなりそうなんだけど、ダーツやビリヤードも再現したいんだ。でも、この2つは見たことがあっても、俺たち、ほとんどやったことがないんだ。だから、ルールや道具について知らないんだ。横田ならなんとかしてくれるんじゃないかと思って、今までのお礼も兼ねて来たんだ。なんとか、ならないかな?」


「基本的なゲームのルールやダーツの数字の並びとかは覚えています。それでいいですか?」


「とりあえず、聞かせてくれ」


 そこからは、誠の説明が始まった。ダーツは、01、クリケット、カウントアップ。ビリヤードは、ナインボール、ローテーション。ゲームのルールはこれくらいだが、道具のサイズやダーツの立ち位置の距離などは、目測であるが、誠の目測である。かなり精度が高い。誠の説明が終わると、


「完璧だな。すぐにでもできそうだ。でも、ダーツのハードとソフトって、そんなに違ったものだったんだな」


「はい。元々は、酒場で空樽を置いて、ナイフを投げていたようです。この世界でもありそうですよね。そこから、競技性と娯楽性を高めるために、針のついた矢を投げるハードダーツが生まれて、そのあと電子ダーツと呼ばれるソフトダーツが生まれたようです」


「なんでそんなことまで知ってんだよ。俺的には、ソフトダーツがいいが、両方作ればいいか」


「ソフトの点数計算などは、魔道具で作れますか?」


 誠の質問に答えるのは、魔道具技士の男子だ。


「たぶん、イケる。聞く限り基本は場所の数字の指定と簡単な四則計算だけだから、技術的には問題ないし、値段もできるだけ抑える。売れなきゃ趣味だからな」


「やっぱり、魔道具でいろいろなことができるんですね」


「そうだな、こんなのは、エアコンでの室内空調管理に比べれば、断然楽だな。バドミントンもやろうかと思ってたんだけど、風の影響が出ないエアコンを考えてたら、頭、可笑しくなりそうになって止めた」


「そこまで、考えているのですね。……エアコンと言えば、エアーホッケーとかできないんですか?」


「おっ!!……いいな。すぐ作るわ。そして、即行、持ってくるわ」


 魔道具技士の男子が、エリザのスカートの中身が見えないか確認してから、熱く答えていた。


「ありがたい話ですが、性犯罪とか止めてくださいね」


「わかってる。お前のおかげで、発散はできてる。でも、アレ、俺たちもいいのか? お前のおかげで、そんなに金には困ってないんだが……」


 二人いる女子の勇者候補の視線を気にしながら、魔道具技士の男子が誠に尋ねてきた。


「あなたたちも勇者候補じゃないですか。それに、この国にとっても、十分な仕事しているんです。気にしないでください。ただし、余分に行く分は、ご自身でお持ちください」


「もちろんだ」


「私たちも、その分、買い物の機会とお小遣いもらっているから文句はないけど、頼むから、病気を元の世界に持ち込まないでね。……あと、高田!! アンタ、メイドさんの下半身、見過ぎ。さすがに引くわ」


 ここで、裁縫士の女子が話に入ってきた。ちなみに、高田とは、木工士の男子である。


「その辺りは、横田も気を付けてくれているんだ。高級店しか行ったことがないから、たぶん、大丈夫だ。それから、こんな綺麗なお姉さんが大勢いるとこで、高田に言ってやるなよ。高田は気が弱いんだ。しばらく立ち直れなくなったらどうするんだ。エアーホッケーの開発が、遅れるだろう」


「アンタは、アンタでブレないわね。まぁ、私には、害はないしいいわ。……でも、私たちも、横田くんにお願いがあって来たの。私が裁縫士で、由美が細工士なんだけど、今の仕事に関われないわけではないけど、何かこれではない感があるのよね。なんかいい案はないかな」


「それなら、次にお願いしようと考えていたことがあります。ドレスや装飾品のリメイクをしてみませんか?」


「ああ、リメイク。なんか面白そう。詳しく聞かせてくれる」


「はい。王族の方々の衣装や装飾品なんですが、ご本人が気に入ったもの以外は、一度、着たり、着けたりしたら、まだマシな方といった状態なんです。一応、影で払下げのようなことも行われているようですが、大量に倉庫に仕舞ってあるんです。それを、王族の方々の好み合わせた上で、リメイクできないかと考えています。僕の仕事としては経費削減です。しかし、王族の持ち物ですから、この国の最高級品です。リメイクだけでも、かなりレベルを上げることができるんじゃないでしょうか。それに、その衣装などを着けた王族の方々がパーティで、他の参加者から目を惹けば、勇者ブランドを立ち上げることができるんじゃないかと考えています。如何ですか?」


「いいわね、夢が広がるわ。絶対に成功させるから、私たちに仕事をまわして。いつからでもいいから」


 裁縫士の女子の言葉に、細工士の女子も頷いているところで、鍛冶士の男子から声がかかった。


「おい、横田。国宝の手入れの仕事とかないか、俺もレベル上げたい。なんか、トイレの便器とか配管作ってる方がレベル上がんだよ。剣打ってるよりもな。いったい、鍛冶士ってなんだよって、感じなんだ」


「さすがに、今のレベルではお任せできないでしょう。せめて3次職になってからの話になるんじゃないでしょうか。僕の管轄ではないので、今はわかりません。その辺りも含めて調べておきます」


「それはそうだな。まぁ、なんか美味しい仕事があったら、いつでも言ってくれ」


「はい、わかりました」


「でも、横田くんは、文官だからちゃんと経費削減とかも考えているのね」


 裁縫士の女子が話を戻してきた。


「僕は、文官の下っ端ですから、自分の仕事に関しては、予算を使い切ることと、できれば少しでも多く予算を取ることを普段は考えています。それが、次回、自分が担当するときや、誰かが担当する時の助けになります。

 今回の話は、王族の方々の経費の削減です。他所様の経費削減であれば、自分の身は痛くも痒くもありせん」


「相変わらず、黒いわぁ。いい感じで黒いわね。でもいいの、ここでこんな話をしても」


 彼女は、周りを見渡しながらそう尋ねてきた。


「たぶん、ここには、王族の方は居られません。ここのいる方々は、武官や文官です。この方々の予算を守ることも僕の仕事です。問題ありません」


「それなら、いいんだけど……あとは、……優子の事、ありがとう。私たちが何とかするべきことだったと思うんだけど、あの頃の私たちには余裕がなかったというのは、言い訳になってしまうわね。……本当にごめんなさい」


 責任を感じているのだろう、彼女は真摯に謝って来た。


「あなたが謝る必要はありません。あれは、彼女の問題です。それに、僕がしたことは、場所を提供しただけです。たまたま、ここの環境が彼女に合っていただけでしょう。もし気になるのなら、一度夕食にでも来てください。日中は、彼女は治癒院に通っています。夕食の時間ならいつでもいますので、顔を見せてあげてください。もう元気になっているので、心配はいりません」


「優子は黒髪の女神様だもんね。ありがとう、一度お邪魔させて頂くわ」


「おい、横田。俺も行っていいか?」


 ここで割り込んできたのは、魔道具技士の男子だ。


「もちろんです。皆さんで来てください。前もって言って頂けたら、ご用意も致しておきますので、お気軽にお越しください」


「お気軽にと言われても、かなりハードルが高いんだが、なんか面白いもんでも作って一緒に持ってくわ」


 こんな感じで、しばらく雑談を続けて、5人は帰っていった。

 学生の時のようなノリだったが、仕事の話も進んでいる。みんな成長しているのだろう。


 3日後、5人は、優子に会うために夕食に来たのだが、完璧に仕上がったエアーホッケーを運んできた。本気で頑張った魔道具技士と木工士の男子の思いはみんなに伝わったが、その思いは、どう考えてみても穢れていた。




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