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商会の連結子会社化

 誠たちがこの世界に召喚されて9ヵ月に差し掛かろうとしている、この日、魔王討伐のために名称を変更された、魔王討伐特務隊の出陣式が行われていた。今の時間なら、王都の町の間を盛大な人々に囲まれながら、魔王討伐特務隊のお披露目も兼ねたパレードが行われている頃であろう。


 そんな中、誠は自室の執務室で、1人の女性と面会していた。


「私は、ミザリー商店のアンリと申します。この度の拠点変更のため、店主であるミザリーは王都を離れましたので、私が王都を担当することになりました。以後、よろしくお願い致します」


「はい、横田誠です。本日はご挨拶だけですか?」

 

「いえ、これから支店が増えていくこともあり、各店に現金をあまり多く保管しない形を取りたいと考えております。余剰資金に関しては、誠様にお預けするよう店主のミザリーから言付かっております。こちらをお納め頂けますでしょうか」


 アンリはそう言って、誠に、書類と一緒にお金の入った袋を手渡した。


「はい。……これが、白金貨ですか」


 誠は、その袋を覗きこみながら、そう呟いた。その呟きに、室内で待機している全員が目を見開き、誠が手に持つ袋を凝視している。それも仕方がないだろう。袋の中身はどう見ても1枚や2枚ではない。

 

「はい、そうです。誠様は、初めて御覧になったのですか? 誠様の資産から考えるとここにある白金貨など氷山の一角ではないですか」


誠の呟きにアンリが答えた。


「それ大袈裟です。しかし、見たのは初めてです。……ソフィアさん、47枚あると思うので、確認して保管しておいてください」


 誠はそう言って、事務官のソフィアに袋を手渡した。ちなみに、白金貨が1枚で、日本円にして約1千万円で、47枚で、4億7千万円である。


「誠殿、このお金はなんですか? さすがに、贈り物で済ませる金額ではないですよ」


 ソフィアは、袋の中を見てから、誠に問い質した。


「それは、頂き物ではありません。私が資産を運用していた運用益です」


「運用益って、なんですか?」


「私物です」


「そんなことは、わかっています。私が聞きたいのは、いつの間にそんなことをしていたのかということです」


「いつの間にと聞かれれば、この部屋に来てからです。お金に困っている方に、お貸しして利息を頂いております。利息と言っても、法定通りですし、手数料は、一般的な料金よりも安くしているくらいです。どこからつつかれても問題ないお金です」


「何とも言えませんが、誠殿の資産です。私が口を出すようなことではありませんが、誰に貸しているか、聞いても構いませんか?」


「問題ありません。ここに書類もあります」


 誠はそう言って、書類をソフィアに渡した。

 その書類を確認したソフィアは、


「これって、変更後の物資購入先である商会ですよね」


「はい。堅実で信用のある商会は、余剰の運転資金を持っていないことが多いです。国からの大量の注文に応えるための仕入れ金が不足しがちです。そこで、私が貸し付けています」


「ということは現在も行われているということですよね。それに、これはマッチポンプと呼ばれるものではないですか?」


「形的にはそうなっていますが、私には、悪意も偽善もないです。みんな喜んでいるので、いいのではないでしょうか」


「たしかに、そうですが……それに、変更後の商会は、かなりの数に分けていましたよね。すべての商会に貸し付けているのですか?」


「すべてでは、ありません。運転資金の足りないところだけです。数が多くて、手間は掛かっていますが、今は、私が取引のある商会に横の繋がりを作って、守りあって貰っています。こうでもしない限り、新しく取引を始めた商会を、貴族や大手商会の恨みから守ることができません。もう少しすれば、大手商会にも、対抗できるようになる予定です」


「あなたは、何をしているのですか?」


 ソフィアは、誠の答えに呆れながら、問いかけた。


「私がしているのは、懸案と資金の提供です。実務は、代表の商会です。こちらのミザリー商店です。もう商店と呼べるような規模ではありませんが、店主に何か拘りがあるようです」


「先ほど、こちらのアンリさんが、店主が王都を離れたと申されていましたが、もしかして、勇者候補の拠点も押さえるつもりですか」


「はい、すでに押さえています。これは新規の力のない商会を守るためです。こうでもしない限り、そのうち、貴族や大手商会の報復が怖くて、誰も新規で引き受けてくれなくなります。そのためのグループ形成です」


「相変わらず、言っていること素晴らしいのですが、いったいどれ程稼ぐつもりなのですか」


「勇者の町までの試算は出しているのですが、その後の展開先が未定なので、まだ見えていません」


「そういうことを聞いている訳ではないのでうすが、……聞かなければ良かったです」


 ソフィアは、あまりにも自分の想像を超える誠に、言葉を無くしてしまった。


「しかし、私が、既得権益を持つ貴族や大手商会に対抗しようとしているのに、宰相閣下が下手を打たれました」


 ここから誠の攻撃が始まる。今から話す内容をこの部屋にいる全員に聞かせ、ばら撒く気なのだ。


「えっ!! 何かありましたか?」


「ソフィアさんも気付いていなかったのですか? 私も決定時は閣下に何かお考えがあって、拠点を領都にしたと思っていたのですが、もう出発なのに、まだ策が見えてこないのです」


 誠は、宰相に策がないのは、当然、知っている。


「私が聞いた話では、勇者候補が初回から不便のある村で過ごすのは憚れると言うのと、領主が領都から魔の領域までの移動費を立て替えるためであると聞いていたのですが、これに何か問題でもあったのですか?」


「後者に関しては、実質、費用の増減がないです。これはいいでしょう。しかし、一度、領都でやると、次の領主の申し出を断りにくいでしょう。宰相にそこまで押し通す力があればいいのですが、初回が村であれば、ずっと村で通せますからね。

 でも、本来、今の話はどうでもいいです。しかし、元々の方針として、勇者候補と貴族の接触を極力避けるというのがあったにも拘わらず、なぜ領都するのかがわかりません。領主が勇者候補たちを歓待している場に、別の上位貴族が来た場合、追い返せないでしょう。政敵に策を打たれたい放題です」


「これって、マズいですよね……」


 ソフィアは、まさかの内容に焦って言葉が崩れている。


「かなり、マズいです」


「なにか、対策はないでしょうか」


 ソフィアが対策を求めてくるが、


「対策とは、このような状況にならないようにするためのものです。なってしまったものは、どうしようもないです。後は対処療法だけです。例えば、勇者候補への注意事項として、無礼を働くな。女には気をつけろ。次の約束はするな。など、教育ではなく、洗脳を行う。もしくは、勇者は1人でいい。残り33人は捨て駒である。と考える。所謂、邪魔で使えない者は消せということです。元の私と同じ状況なっただけです。勇者候補本人に頑張ってください。というしかありません。

 逆に言えば、私から見れば、勇者候補たちは、宰相閣下に裏切られたということです」


「宰相閣下は、そんなつもりはないと思います」


「そんなことはわかっています。しかし、現在の状況がこのような状態にあるという現実です。ソフィアさんも否定できないでしょう。勇者候補に対する説明責任は、宰相閣下にあります。

私からの対策は、1人を選んで、残り33人を殺せです。これで、大概の問題は解決します」


 今、出た数字に、さりげなく、自分と優子と生産系勇者候補を省いているのが、誠らしい。


「はい、たしかにその通りです。これは、宰相閣下に伝えてもよろしいでしょうか?」


「はい。早急にお伝えください」


 当然、誠は、ソフィアを含め、宰相をわざと煽っている。今のこの状況は、宰相がミスらなくても、必ず近いうちに、起こった状況である。それにも拘わらず、すべて宰相の責任にしてしまおうと考えたのだ。


 それに、1人を選んで、残り33人を殺せという言葉を誠が言ったことも大きいのだ。これで、見えない敵たちが下手に手を打てば、無駄になる可能性が出る。少しでも抑止力になればと思っているのだ。


後は、今の状況とその後の予測をアンリに聞かせたかっただけである。いろいろと問題が起こりそうだが、気を付けろと伝えたかったのである。


 ソフィアが少し慌てて部屋を出た後、アンリも誠に軽く挨拶をして帰っていった。



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