霊能ですか?
魔術の鍛錬を終えて、部屋に戻り、昼食となった。気付けば、毎回、全員の料理を誠が作っていた。日常とは、こうして生まれていくのだろう。
部屋にいる全員が揃って、食べ始めたところで、魔導士のお姉さんから誠に声がかかった。
「誠殿、少しお伺いしたいのですが?」
「はい」
「いろいろと不可解な点がありまして、順番に質問しても、いいでしょうか?」
「はい」
「鍛錬内容の過酷さについては、ここ何日かで見慣れているのですが、基本4属性をすべて使えるのですね。スキルが生えたのですか?」
「……いえ、ありません」
誠は、ステータスカードを取り出して確認してみたが、スキルに霊能以外はない。
「では、なぜ、使えるのでしょうか?」
「お借りした資料には、スキルがなくても使えると書いてありました」
「たしかに、そうなのですが、……そんな簡単には、使えないはずです。私もそうでした。他の方もそうです。勇者候補様も今のところ、スキルにない魔術を使った方は居られないはずです。何か心当たりはありませんか?」
「わかりません。私のスキル霊能のせいでしょうか」
「なるほど、霊能ですか。……では、次に、なぜ無詠唱なのですか?」
「簡単な魔術なら詠唱がなくてもできると書いてありました。試しにやってみるとできました」
「たしかに、簡単な魔術なら、慣れれば、詠唱がなくても使えます。誠殿は、初めて魔術を使ったのですよね?」
「はい。スキル霊能のせいではないでしょうか」
『プッ』と吹き出す声が周りから漏れた。
「あ、あの、私の質問を飛ばさないで頂けますか?」
魔導士のお姉さんも笑いを堪えつつ話し続けてきた。
「はい」
「霊能ですか……では、属性魔術を球体で維持することは、簡単な魔術ではないと思うのですが、霊能ですか?」
『プップッ』とまた吹き出す声が周りから漏れた。
「はい」
「あと、属性魔術をあらゆる指先で切り替えるなど、かなり高度な魔力操作が必要だと思うのですが、霊能ですか?」
『プップップッ』とまたまた吹き出す声が周りから漏れた。もう周りが限界である。もちろん、魔導士のお姉さんも限界なのだ……。
「はい」
しかし、誠は余裕である。
「ひ、卑怯です。いろいろ意味で卑怯です。……な、何か霊能以外で気付いたことはありませんか?」
「魔術の資料を読んでいるときに気になることがありました。『魔術は、イメージが大切である』とありました。そして、『イメージを補うために、詠唱がある』とありました。そこで、詠唱とは、一般的に固定されたイメージに引っ張られるのではないかと考えました。さらに言うと、詠唱は、自由に魔術を使うことを邪魔しているのではないかと考えました。これは仮説で、今、検証中です。詠唱を使うとイメージが固定されてしまう可能性があるので、自由に魔術を使えるようになってから、詠唱は使ってみようかと考えています。
これは、聞き流して頂いても良いぐらい話ですが、詠唱とは、この世界あるいは神との一種の契約ではないかと考えています。同じ詠唱なら、多少の誤差ありますが、同じような魔術が使える時点で少し可笑しいと思いませんか。魔力の使用量には個人差があるようですが」
『おおぉぉ』と、今度は、周りから感心する声が上がった。
「面白い仮説ですね。しかし、これが正しいのであれば、詠唱を行ってしまった私たちにとっては、面白くない仮説ですね。
霊能の話も面白い話でしたけど、これはもうどうでもいいです。
この仮説の検証を魔導士団でも行ってもよろしいでしょうか?」
「それは、構いませんが、私は、しばらく詠唱を行いませんので、ご協力はできませんがよろしいでしょうか」
「もちろんです。この仮説は、誠殿の仮説です。ご自由に検証をなさってください。
この仮説が正しかった場合、詠唱を行ってしまった者に対して、何かリセットする方法は、考えていないでしょうか」
「普通に考えれば、固定されたイメージの破壊ですね。初歩の魔術から無詠唱でやり直す。その時、意識して元のイメージと違う威力で魔術を使うのはどうでしょうか。あとは、例えば、ファイヤウォールの詠唱で、ウォーターアローの魔術を無詠唱で使うとかどうでしょうか。これで、ファイヤウォールの固定されたイメージが崩れるといいのですが」
「どちらも検証のしがいがありそうですね。というか、すぐにでも、行きたいですね」
「すみません。今から資料の確認がありますので、明日の午前中でお願いします」
「それは、そのとおりです。しかし、団長への報告だけは先にさせて頂きます」
「魔導士団長閣下にも、何かあれば報告するように言われていたので、代わりにお願いします」
「わかりました。責任を持って報告させて頂きます。私は、今日も気になって眠れないかもしれません。あっ!!」
魔導士のお姉さんは、最後まで言い切ったところで、何か気付いて、赤面して俯いてしまった。他にも何人か赤面して俯いているが、誠は気にせず食事を続けていた。




