朝の評論会
誠との会合を終えた、宰相と魔導士団長は、朝食の席を一緒にしていた。
「わかっていたことですが、実際に会ってみても、彼自身のことは見えてきませんでしたね。どこまで、先のことを考えているのか読めませんでした」
宰相が愚痴を溢しているが、これも仕方がないだろう。相手の策を読んで先に手を打つのも、宰相の仕事であるのだから。
「これが彼の手なのだろう。口に出していないことに本意があるのだろうが、口に出していることには納得できる。まず、絶対にしてはいけないことは、彼を敵に回すことだな。そのためにも、今、要求していることは、叶えるべきだろう。しかし、今、口にしていないものまで、渡す必要はない。求めるもので、何をしようとしているのかが見えるかもしれんからな」
「そうですね。そして、我々は、彼に頼らなくてもいい体制を早く作ることですね。そうすれば、彼の打てる手が減ることになります。というところでしょうか。
あと、魔導士団長は、彼に会って、気になったことはありませんか?」
「そうだな。一番に気になったのが、体内の魔力の循環が綺麗すぎる。ワシには、ムラが見つけられんかった。あれを意識的にやっているのであれば、魔力操作の能力は、ワシより上だな」
「それって、マズいですよね」
「意識的にやっているのであれば、だがな。そうでなければ、肉体や精神に強い刺激を与えれば、すぐに乱れるから問題はない。そんなことは、あの場では、試せんかったからな。訓練場で魔術を訓練するようになればわかるとは思うから、ちょっと待ってくれ」
「わかりました。お願いします。
あと、勇者候補を他国に対する抑止力に使う話ですが、私は実現したいと考えているのですが、如何ですか?」
「ワシも実現できるなら、諸手を挙げて賛成だ。しかし、彼の策は、ワシらを試しておるだろう?」
「そうですね、私もそう感じました。自国の村とその村人を犠牲にする覚悟があるのかというものですよね。そうであるのなら、成功の可能性は、50%未満どころかかなり高いと見ているのでしょう。でなければ、あの話は出てこないはずです」
「そうだな。あれは、自分が手を汚さす、すべての責任をワシらに押し付ける気だな。彼が口に出すことはわかり易くていい。こちらの責任ですべて用意すればいいだろう」
「ではまずは、場所の選定から始めます。実行するかしないかは、彼も言っていましたが、勇者候補の成長度合いにも大きな影響を受けます。今の時期から準備できることはありがたい話ですが」
「その通りだな。宰相が言ったように、早く彼を必要としない体制を作るべきだな。彼もそれを望んでいるようだし、宰相も子飼いの者を助手名目で付けるのはどうだ。彼なら教育も施してくれるだろう」
「たしかに、そうですね。それに、私もということは、魔導士団長も考えているのですか?」
「宰相の許可も必要だから聞いたのだが、魔術専門の監視も付けておく方が、宰相も安心できるだろう」
「そうですね、ありがとうございます。そうなると、結構大きな部屋が必要になります。伯爵クラスの執務室でも用意致しましょうか」
こうして、二人の会話は、朝食が済むまで続いていった。




