スピリット・ネットワーク
誠は騒動を起こした翌日、まだ日の出前だが、起床し動き始めた。いつもの時間である、待機していたエリザとは別の侍女が誠の着替えを手伝ってくれる。途中、朝の現象に侍女が手を沿わせてくるがいつもことだ。魔力操作の鍛錬の負荷にはちょうどいいので、いつもされるがままになっている。満足するまでの間、誠は、昨日に得たものについて考えていた。
誠が昨日の騒動によって得たものは、大きく分けて2つある。
1つ目は、生命の安全に対する保証だ。絶対ではないが、この国が誠を近いうちに処分しようとしていたことがなくなっただけでも大きなことだ。
2つ目は、誠が手に入れたものではあるが、作ったのは師匠であるフレデリック・ノーマンだ。師匠は、誠に自分のすべてを教えるだけでなく、誠の異世界の知識についても貪欲に吸収していた。その中でも気になったのがインターネットだ。霊の性質を使って同じようなものを構築できないかと考えたのだ。
霊には、同じ思いを持つ魂が同調し1つになるという性質がある。多くが集まり単一の自我や意識を持ち、現世に干渉できるようになったものが、この世界で言う悪霊や精霊である。2つの違いは、人にとって良いか悪いかだけである。そこからさらに同調を繰り返し成長すると属性を持ち始めるのだが、ここまで来てやっと下位精霊である。上位精霊になるためにはかなりの時間と運が必要になる。ちなみに悪霊は下位以下の状態で人に消滅させられるので成長することはほとんどない。
そして、師匠は、この霊が持つ同調を感覚だけ繋いでそれぞれが独立した状態で固定できないかと考えたのだ。誠が行う霊と繋いだという状態に近いかもしれない。それを離れた状態で複数繋げることができれば、ネットワークに近いものができるのではないかと考えたのだ。たしかに、考えたのだが、師匠と同調できるような霊はほとんどいなかった。
しかし、昨日の騒動で転機が訪れた。人の憎悪が渦巻く城内には多くの自縛霊がいる。誠はその自縛霊たちの協力によって情報収集をしていたのだが、誠がこの国の上層部に一泡吹かせた昨日の騒動は自縛霊たちにかなり評判が良かった。その時、奇跡が起きた。昨日の騒動で、多くの自縛霊が同じ思いに近い状態になったのだ。もちろん、その中には師匠もいた。師匠は、この状態を利用して一機にネットワークを構築することができた。これは、師匠をマスターとした一種の群集体の誕生の瞬間でもあった。そして、師匠は、この群集体を『スピリット・ネットワーク』と名付けた。
誠にとって喜ばしいことは、師匠に繋ぐだけで、このスピリット・ネットワークを利用できることだ。そして、このスピリット・ネットワークを使用すると、離れた場所にいる霊と感覚を共有し会話をすることができるのだ。簡単に言うとその空間に干渉はできないが、まったくバレずに、覗きができるのだ。今まで、霊に頼っての又聞きだったのが、直接、見聞きできるようになる。まさに革命だ。誠としては、『スピリット・ネットワーク・レボリューション』と名付けたいくらいなのだが、師匠には言っていないので、変更されることはないだろう。
そして、今朝、さらに喜ばしいことがあった。スピリット・ネットワークに参加する霊が順調に増えているのだ。もちろん、思いが薄れ天に召される霊もいるだろう。また、消滅させられる霊もいるだろう。しかし、この調子でいけば、近いうちに城内を網羅することができるかもしれない。時間をかければ、この王都全域も可能だろう。行く行くは、師匠には世界制覇を目指してもらいたいものだと、誠は考えていた。
誠は満足したところで、服を着せてもらい、いつもの柔軟から始めた。




