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プロローグ

本日1話目です。2話目は12時投稿予定です。


「ようこそ、神に選ばれし勇者たちよ!! 私たちの呼びかけに応えて下さり、ありがとうございます!!」


 勇者召喚の間に、フリット王国第一王女メアリーの声が高々に響き渡った。


「……」


 今、この勇者召喚の間には、後ろに100人を超える騎士や魔導士、文官などを携えたメアリーと、それと向かい合う形で突然の召喚に戸惑う教師1人を含む約40人の平成日本の高校生たちがいるが、誰も声を上げることできないでいる。そんな中、続けてメアリーの美しい声が響く、


「私は、フリット王国第一王女メアリー・フォン・アマリリス・フリットと申します。どなたか代表者の方は、居られませんか?」


 その声に、戸惑いながらもしばらく顔を見合わせていた生徒たちの中からクラスカースト第一位長谷川健二が前へ出て声を上げた。


「僕は、長谷川健二。このクラスの代表でいいのかな……」


 少し照れながら後ろの生徒たちに目で確認しつつ、メアリーに顔を向け、誇らしげに胸を張った。多くの女子生徒は素直に頷き、半分ほどの男子生徒は、嫉妬の目を向け、残りの生徒は思い思いの表情を取っている中、会話は進んで行く。


「長谷川さんですね」


「はい。でも、長谷川は姓で、名が健二です。こちらの国では、健二・長谷川になるのでしょうか。健二とお呼びください」


「分かりました。では、健二さん、いろいろ確認したいことがあります。よろしいでしょうか?」


「あっ、その前に、勇者ですか? それにここはどこですか?」


 王女の進行を妨げた健二に対して、メアリーの後ろにいる騎士たちが威嚇しようとするのをメアリーが手で制するが健二は気付いていない。そのまま話を続けるようだ。


「正確には、あなた方は神によって選ばれた勇者候補です。そして、ここは、フリット王国。あなた方から見れば、異世界です」



「「「おおぉ~……」」」


 健二の後ろにいる生徒たちの間で、小さなどよめきが起こったが、健二はそれを無視して話を続ける



「異世界ですか……勇者として異世界に呼ばれたからには、何かをしなければならないのですよね?」


 勇者候補と訂正されたのに、健二の中では、自分が勇者であることは確定されているようだ。


「そうです。あなた方には、この世界に害をなす魔王を倒して頂きたいのです。どうかこの世界をお救いください」


 メアリーはそう言って頭を下げた。


「殿下!! あなた様がそのような者に頭を下げる必要は……」


「黙りなさい!! 私たちは、もうこの方たちに頼るしかないのです。そのためにも、こちらの誠意をみせる必要があるのです!!」


「しかし……」


 メアリーと騎士や文官たちとの会話。完全に茶番ではあるが、健二には有効だったようだ。


「メアリー様、頭を上げてください。僕たちにできることであれば、協力したと思っているのですが、僕たちには、世界を救うような戦う力はありません」


「いえ、そんなはずはありません。皆さんには、召喚されるときに、神から特別な力が与えられているはずなのです。今、こうして私たちが何の支障もなく会話できていることが証明になりませんか? 他にも戦う力がそれぞれに与えられているはずなのです。その確認のためにも、皆さんにステータスカードを発行致します。まずは、こちらの水晶球に触れて頂けますか?」


 メアリーはそう言って、横にある台座の上に置かれた水晶球を指差した。


「確かに、普通に会話できていますね。それに特別な力ですか……わかりました」


 健二が何かを考える振りをしながら、素直に従い、水晶球のほうへ向かおうとしたところで、


「ちょっと、待ってください!! 長谷川くん。何を素直に従おうとしているのですか!! 今の状況をちゃんと理解していますか? 異世界って何ですか? 勇者ってなんですか? もしその方の仰せられていることが正しいのなら、私たちは、この方たちに囚われたのですよ!! ちゃんと理解していますか?」


 このクラスの担任である、教師暦3年、まだ若いが生徒思いで可愛いと評判の二階堂恵美が声を上げた。当たり前である。普通の感覚であれば、こういう反応を示すであろう。それに対して健二は、


「しかし、恵美先生。メアリーさんたちは、困っているのですよ。そして、この世界を救うためには、僕たちの力が……」


 健二は、いつも自分には優しい恵美先生に怒鳴られ、萎縮し、最後には声が小さくなり聞きとれなくなってしまった。そこで、恵美は声をかけた。


「長谷川くん。いいですか? 戦うということは戦争ですよね。人と人が傷付け合い殺しあうわけですよね。私は教師として、あなたたちが戦うことを認めることはできません。そして、そんなことよりも、まずは確認することがあるでしょう」


 恵美の話が途切れたところで、他の生徒たちも思い思いにそれぞれに声をあげ始めた。


 そんな中、フリット王国第一王女メアリーが笑顔で軽く右手を上げると、生徒たちは見事に口を閉じてしまった。さすがは王族である。王女の体から発せられる威厳のようなものに萎縮してしまったのだ。


「えっと、あなたは?」


 場が静かになったところで、メアリーは恵美に声をかけた。


「私は、このクラスの担任である二階堂恵美と申します。まずは、お聞きしたいことがあります。よろしいでしょうか?」


「恵美さんですね。もちろんです、どうぞ」


 勇者召喚時に起こるであろう問題に対して、あらゆるパターンを想定しているメアリーは、まったく動じることなくそう応えた。


「私たちは元の場所に帰れるのでしょうか?」


「もちろんです。魔王を倒し、その魔王の魔石をこの勇者召喚の間にお持ち頂ければ、元の世界に戻って頂けます」


「ということは、今は無理ということですか。 何か他に方法はないのですか?」


「申し訳ございません。それ以外の方法となりますと、伝承には残っていなくて……」


 恵美の問いに対して、メアリーは目を伏せつつ申し訳なさそうにそう応えた。実際のところ、メアリーもそれ以外の方法を知らないので、演技であるとは言い切れないだが。


「そうですか……私たちは、囚われの身です。あまり強く出ることも出来ません。ですが、その水晶に触れるのは、私からにさせてください」


 恵美は、生徒たちに、そして自分に言い聞かせるように言葉を発した。さすがは評判通り生徒思いの良い教師である。今の状況を良く理解しているのだろう。それを受け、生徒たちは、心配そうな表情をして恵美を見ているだけなのも少し情けないような気がするが。


「そんな……私たちは、あなた方を捕らえたなどとは考えてはおりません。神によって選ばれたあなた方をお招きしたと考えております。ですので、こちらの世界での滞在中は、誠心誠意を持っておもてなしさせて頂く所存です」


 良い流れになったとでも思ったのか、メアリーは少し下手に出始めた。


「申し訳御座いません。言葉が過ぎたようです。何故か少し浮かれている生徒もおりましたので、引き締めるために強い言葉を使ってしまいました。こちらに悪意は御座いません。誠意ある対応よろしくお願い致します。まずは、そちらの水晶に触れればいいのでしょうか」


 さすがは、若くても大人であり教師である。恵美にもこの程度の駆け引きはできるようだ。


「もちろんです。勇者様に相応しいおもてなしをお約束致します。では、恵美さんから水晶球に触れて頂きます」



 メアリーの言葉を受け、恵美は水晶球の置かれた台座に向かって歩き始めたが、やはり怖いのだろう少し震えているようだ。そのまま台座の前に立ち、目を瞑って、水晶球に触れると、水晶球は光を放ち始めた。その状態を数秒維持し、光は静かに消えていった。


「おお!! さすがは勇者候補様。素晴らしい能力です」


 恵美と台座を挟んで向かいに立った初老の男性である魔導士団長が、声を上げた。


「もう手を離しても、よろしいですか?」


 不安そうに恵美が声をかけると


「はい、もう結構です。あまりに素晴らしい能力でしたので、つい。どうぞこちらを」


 そう言って魔道師団長は、恵美に1枚のカードを手渡した。


「これは……」


 恵美が受け取ったカードを見ながらそう呟いたが、


「文字は読めるとは思うのですが、口には出さないでください」


 魔導士団長が言葉を制した。そして、続けざま


「今からご説明致します。他の皆さんもお聞きください。一般的にステータスの内容は他人に知られないように致します。仕事の内容など場合によっては開示する必要がありますが、かなり重要な個人情報だとお考え頂けると幸いです。まずカードには、名前、年齢、職業、称号、スキル、能力値が表示されています。恵美殿、表示されていますね?」


「あっ、はい!!」


 突然の問いに、恵美は慌てて返事を返した。


「大丈夫ですね。こちらの文字もちゃんと読めているようです。説明を続けます。このステータスカードに表示されている内容は、本人の状態によって自動的に変化致します。例えば、誕生日を迎えれば年齢は一つ増えますし、職業レベルがあがればそれに合わせ能力値も上がります。新たにスキルを覚えることもあるでしょう。ですので、常にご自身の最新の状態を確認することができるのです。なくさないようご自身で管理をよろしくお願い致します。では、納得して頂けたところで、順番にカードを発行致しますのでお並びください」


 そう言って魔導士団長が生徒たちに声をかけると、みんないっせいに台座の前に並び始めた。中には水晶を触ることによって奴隷にされるのではと疑っていた生徒もいたが、恵美にとくに変わった様子がないので安心したのかもしれない。


「おお!! 俺は剣士だって」「俺は魔術師だ」「私は治癒術師だって」「俺は生産系か……まぁありか、ありだな」「えっ、私もだよ」「お前も能力値オール100か。俺もだ。みんなそうなのかな」「俺も100だ。神に平等に与えられたんじゃないか?」「そうだな自分だけ落ちこぼれとか嫌だもんな。能力値がみんな100なら、職業やスキルに差があっても納得できるな。これからの成長次第で差はできるかもしれないけどな」


 順番にカードの発行が進む中、魔導士団長に止められたにもかかわらず、生徒たちは互いにカードを見せ合っている。そんななか、長谷川健二は、王女メアリーに話しかけていた。


「メアリー様、この能力値100っていうのは、どの程度優れているのでしょうか?」


 他の生徒たちもそこは気になっていたのだろう。みんな注目している。


「えっと、生命力値、魔力値、筋力値、体力値、俊敏値、知力値、精神力値、器用値。すべてが100なのですか?」


 あまりの能力値の高さにメアリーは驚いて聞き返した。伝承では、さらに異世界人には成長補正があると記されていたからだ。


「ええ、そうです。みんなもそうなのか?」


 健二がメアリーに返事を返しながら、他の生徒にも問うとみんな頷いている。


「そうなのですね。やはりみなさん素晴らしいですわ。この世界の一般的な大人の平均は20だと考えてもらって間違いありません。職業によって、多少前後はありますが、平均値は20です。そこから、一通りの訓練を済ませた国軍の兵士で平均が50からになります。平均で100といいますとこの国の一般の騎士と同じくらいだと思います。まぁ、他の国も同じぐらいだと言われています。さらに、異世界人の方は、この世界の人と比べて成長能力も高いと伝承には記されているのです。こちらも出来る限りのことはご協力致しますので、皆さん頑張っていただけますか?」


 メアリーはそう言って、健二だけでなく他の生徒にも笑顔を振りまいているが、それに気付けない健二は、


「任せてください、メアリー様のために、僕が必ず魔王を倒します!!」


 拳を握り締め、豪語し、自分の世界に入っている。


「えっ、ええ……頼もしいですわ、健二さん」


 その様子に、メアリーは少し顔を引きつらせつつ応えていた。



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