戦えるお姫様に私はなる※
◇玲人視点
僕の名前は如月玲人。
如月財閥の御曹司として物心ついたときから色んなお稽古をさせられて嫌になっちゃうこともあったけど、お父様もお母様も頑張れば頭を撫でたりぎゅって抱きしめてくれたりたくさん褒めてくれる。
だからもっと褒められたくて頑張った。
でも最近、両親は新しく家族になった妹に夢中だ。
両親が妹の話ばっかりする。なんだか胸がムカムカする。
パーティで知り合った友達にその話をしたら友達にも弟がいるらしく、赤ん坊なんてよだれは垂れ流すはちょっとしたことで泣き出すやっかいな存在なんだといっていた。
そんな弟の面倒をたまに押し付けられるのは苦痛以外の何物でもないらしい。
僕はまだ妹を直にみたことがない。
友達の話をきくと会うのが嫌になってきた。だが、妹に話題をとられ僕が拗ねてると思ってるお母様がついに妹を僕に預けてきた。
「れいちゃん、あなたの妹の玲那ちゃんよ。だっこしてみて。とっても可愛いから」
そういって僕のうでに妹をのせてきた。
「ばーぶー?」
腕にくるずっしりとしたぬくもり。
赤ちゃんてこんなにあったかいんだ。
その命の温かさに驚いていたら妹は僕の頬にもみじのような手をかざし、にぱっと音がするような顔で笑った。
それが言葉じゃ表現できないくらい可愛らしくて大きな衝撃を受けた。
妹はよだれなんてこぼさない。
離乳食も綺麗に食べる。
排泄を訴えるとき以外泣いたりしない。
面倒みていろと預けられてもまったく手がかからないんだ。
あまりに妹が可愛くてもっと手がかかればいいのに、もっとお世話させてほしいと思ってしまう。
もっと妹とずっと一緒にいたい。
だから家庭教師の先生に聞いてみたんだ。
「好きな子とずっと一緒にいるにはどうしたらいいの」
先生は持っていた教本を手から落とし、唖然とした表情でこっちを見た。
「え、玲人様、もう好きな子ができたんですか? ませてますね。異性とずっと一緒にいるには結婚して夫婦になるんですよ。そうすればお互い死ぬまで一緒、死んでからも同じ墓にはいれますよ。で、好きな子ってどこのご令嬢なんですか、こっそり教えてくださいよ」
口をぱっくり開けていたかと思うと今度はニヤニヤした顔で僕に近づいてきた。なんだかその顔がすごくムカついた。
「お前は口が軽いから嫌だ」
「えー」
でも、そうか、結婚すればいいのか。
早速お父様とお母様にお話しにいかなくちゃ。
忙しいお父様は捕まらなかったので家にいたお母様に話した。
「お母様、僕玲那と結婚する!」
「あらあら、玲ちゃんったら。結婚したいほど玲那ちゃんが好きなのね。でもね、玲ちゃん、兄妹は結婚できないのよ」
「なんで?」
「法律では近親者は結婚できないの」
「ふーん」
法律で妹と結婚しちゃダメってきまってるんだ。
じゃあその法律を変えればいいんだよね。
よし、将来偉くなって法律改正しよう。
ああ、まっていてね玲那。お兄ちゃんは玲那のために頑張るから。
妹は世界で一番可愛い僕のお姫様だ!
◇玲那視点
如月玲那5歳、家族の愛情をたくさん浴びながらすくすくと健康に育ちました。
ゆるふわな自然にカールを巻いている色素の薄い髪をお気に入りのヘアゴムでツインテールに結い上げ、どこぞの童話から飛び出してきたんじゃないかという可愛らしいふりふりのドレスをきた美幼女は誰かって?
あたしだよ!
はい、すいません調子のりました。許してください。
いや、しかしなんだ今回の親御様、前世の両親より親バカレベルがマジぱねぇ。
前の両親もかなり私に甘いと思っていたけれど、財力の差かな、それとも科学が発達してるからなのか今のほうがデロデロに甘やかされている。
3歳になった時、1度如月財閥のビルに行ったのだが……社内の至る所に私がいた。
え、意味が分からない?
巨大パネルになった私の写真がめっちゃ張り出されていたのである!
ただちょっとパパのお仕事してるとこ見てみたーいって気軽に言ったらすぐに会社見学に連れていかれまして、社内に入ったら重役勢揃いして「いらしゃいませ玲那お嬢様」ってずらーっとお出迎え。
一般職員までずらーっと。
仕事大丈夫なの?
めっちゃ電話のコール音してるのに誰一人職場に戻らないんですよ。
それで、副社長? あと秘書課のトップの人がね私に色紙わたしてサインしてくださいって言うんですよ。してやりましたよ。ひらがなで「きさらぎれな」って。気分はハリウッド女優でした。
写真も撮られまくってフラッシュの嵐でした。パパの仕事姿見に来たのに見たのは自分の写真にまみれた社内っていうなんともコメントしづらい結果。
でも始終笑顔で対応した私偉いと思います。
とにかく両親の溺愛うざいのです。お兄ちゃんも私にはすごく優しいけれど、適度に私にかまったら残りの時間を難しい本を読むことに費やしている。
この間入ったお兄ちゃんの部屋に六法全書があったのには自分の目を疑った。
あんたまだ7歳でしょ。
そんなもの読めないでしょ。
お兄ちゃんは何を目指しているのでしょうか。
両親もお兄ちゃんも私に甘い。甘すぎる。ゲロ甘だ。
もし普通の子がこの立場で甘やかされて育っていたならとんでもない我がままで世界は自分を中心に回っていると勘違いした子になっていただろう。
まさにワールドイズマインだ。
だが私は流されない! 受け身の体制でいるというころがいかに危険かを知っているからだ。どんな甘い誘い文句にも乗らない、乗るもんか。
勉強しなくていい、危ないから外にでるな、好きなものを好きなだけ食べて、欲しいものはなんでも買ってやるだと! ふざけるな!
勉強は詰め込めるだけ知識を詰め込んだ。以前は苦手だった英語も身に着けるため身近に英語を話せる人に英語で話しかけ通用するか確かめた。
外にも積極的に出ていろんな経験をした。いろんな土地にいき、いろんな人と話し話題には事欠かなくなった。
護身術を習うため過去何人もオリンピック選手などを育成している道場に通い詰めた。
お肉、デザート大好きだけれど心を鬼にして野菜と魚中心の食事を心がけた。
欲しいものなんてとくにないのに過分に与えられるお小遣いを施設団体に毎月寄付した。
誰かにそうしろと言われたわけじゃない。
自分が腑抜けた人間にならないように、流れに身を任せるんじゃない、自分が流れを操れるような人間になれるように。
ただ、前向きに。
自分の可能性を広げるために時間を費やした。
私はもうまわりの良いように振り回される姫様ではないんです!
助けを待つだけの無能なお姫様なんかにはならない。自分の窮地は自分の手で解決する、自ら戦えるお姫様に私はなる。
そうして外面は完璧な令嬢に仕上がった頃、私に婚約者の話が持ち上がった。
え、なにそれいらね。




