第23話~監禁③
「標……間違ってるって……こんなこと……」
「間違いなんかじゃありません!!」
急に標は金切り声を上げた。
「し、標……?」
驚いて視線を向けると、眼に光が灯っていない標が――
「間違ってるのは、兄さんの方なんですよ。好きな者同士、結ばれないのはおかしいんです」
標はしなやかな指を俺の首に回した。
「兄さんが望むなら、私は何でもするんですよ……?」
俺の体にまたがりながら、言った。
「何でも? 何でもって、お前――」
標の真意を尋ねようとした時。
「兄さん――! んちゅ、ちゅっちゅっちゅぶううう」
標はキスをしてきた。
俺は声を上げることもできず、
「んっ!? ふっ、ふむうう……」
標のされるがままに唇を吸われ続けていた。
「ちゅっ、くちゅっ……ふじゅるう」
そのまましばらく、口の中に舌をねじ込まれた。
口内に唾液が流れ込む。そのたびに、ぴちゃぴちゃと水音が響いた。標の真っ赤な舌が俺の口の中をかき回すたびに、性欲がかき立てられていく。
(だ、駄目だ。ここで流されちゃ。俺は兄として、標を更生させたい。だから、ここは我慢しなきゃ駄目だ)
「に、兄さんも舌を伸ばして。わ、私の口を犯してください」
「標……。くっ、はあっはあっ……駄目だって!」
誘惑から逃れるように顔を背けようとするが、
「むう……。兄さんがその気なら、私にだって考えがあります」
標は俺の頭を掴むと、再び口付けをしてきた。
「んっちゅ、ちゅぶっ、ふっちゅ、んんんん」
次は軽く触れるだけのフレンチキス。
短くつつき合うだけの、小鳥のような接吻だ。
しかし、今度は俺の方が我慢できなくなっていた。さっきの情熱的なキスを味わってしまっては、もうこんな生殺しのようなキスでは物足りない。
「――ふふっ、どうしたんですか? 兄さんが駄目だって言ったんですよ?」
そう言いながら、標は舌を伸ばしてきた。
「んっ……」
――チュ。
唇にはわずかな感触があるだけだった。
「ふううう……」
そのまま標は唇を離す。
「し、標……?」
標は俺を見下ろしながら、煽るような笑みを浮かべていた。
「何でしょうか? 兄さん」
「い、いや……もっとしてこないのか?」
「……言いましたよね? 兄さんが望むのなら、私は何でもすると」
「何……でも……」
「そう……何でも、です」
そう言って標は俺の首に手を回し、今度は扇情的なキスをしてきた。
「んんんん!」
「んちゅう」
重なり合う唇――壊すほどに。
湧き上がる肉欲。誤魔化すことは不可能だった。
(――もう、どうでもいい!)
「し、標! 標!」
俺は標の名前を叫びながら、自分から舌を絡ませにいった。
「んっふ、はっ、あむっ、んじゅっ、むちゅう……。あむっ、むっふ、はっはっはふう。ちゅぷにちゅうう……」
ムードもへったくれもない。貪るだけの、獣のようなキス。標も負けじと、俺の舌を舐め回していた。
俺の陰茎は痛いほどに勃起していた。それだけにとどまらず、さらなる刺激を求めようと、ほぼ無意識のうちに腰を振っていた。
「じゅっぷ、はっ、むっふ……んっちゅ。んんんん。じゅずっ、じゅずるるるう」
唇の間から、唾液が滝のように流れた。その唾液すら嬉しそうに舐めすするその顔は、もはや俺の知ってる標の顔ではなかった。
「あっふ、んんん。はあああ……。いい。凄くいいです。兄さん……んっふ、はむう。す、好きです。大好きです! んっちゅ、れろっ、むちゅう」
そのまましばらく唇を重ね続け、室内にはキスの音だけが響き渡っていた。
(標……お前はもう、おかしくなってしまったのか? そうさせてしまったのは、俺のせいなのか? 教えてくれ。どうしたら……元のお前に戻ってくれるんだ?)
俺は残った僅かな理性で、何度も同じ自答を繰り返していた。




