78.指導
《ポロSide》
ポロは獣人国女王であり、水の勇者ペルシャと朝練をしている。
ペルシャの見事な槍裁きに、圧倒されるポロ。
攻撃がまるで通らない。
すべてを受け流されてしまう。
(どうして……当たらないの? なにか特別なスキル……?)
わからない……。
どうすれば……。
『ポロよ、落ち着くのじゃ』
そのとき、闇の聖剣・夜空の声が聞こえてきた。
気づくと、自分の腰に夜空がいつの間にかついてあった。
『わからないのであれば、よく、観察するのじゃ』
「観察……」
『ああ。狩りもそうじゃ。敵の動きをよく観察するところからはじまるじゃろう?』
……確かにそうかも知れない。
ポロは奴隷時代、父とよく川に魚を捕りに行ったことがある。
そのとき、自分は全然取れなくて、逆に父は凄いたくさん取れていた
……今にして思えば、父はちゃんと獲物の動きを見ていたと思う。
ただ、がむしゃらにつっこむのではなく。
「…………」
すぅ……はぁ……とポロは呼吸をする。
そして……よく見る。
『そうじゃポロ。おぬしの長所は、鋭敏な五感じゃ。獣人であるおぬしは人よりも多くのものが見え、多くの音を聞こえる』
五感に意識を集中させる……。
『ペルシャ、ポロちゃんが集中してきてるわ』
ペルシャの持つ聖剣アクア・テールの声が聞こえる。
「そう……じゃあ今まで通り守ってるだけでは駄目かもね」
『そうね。あたしが隙を見つけて指示するわ』
「おねがいね」
たんっ、とペルシャが地面を蹴って責めてくる。
ポロの隙を、的確についてきた。
だが……それでわかった。
ポロは音を全部拾って、ペルシャの攻撃を避けてみせる。
『よいぞポロ! その調子じゃ!』
『相手がギアを上げてきたわ! ペルシャがんば!』
徐々に、ポロはペルシャの刺突をよけ、裁けるようになる。
やがて……。
疲労がたまったのか、ペルシャの動きが鈍くなってきた。
『今じゃ……!』
夜空の後押しもあって、ポロは接近し、そして一本……入れる。
がくん、とペルシャがその場に膝をつく。
「はぁ……はぁ……か、勝った……?」
「ええ、見事だわ、ポロさん」
にこっ、とペルシャが微笑む。
するとアクア・テールが不満そうに言う。
『スキル使えば全然勝てたのにっ。てゆーか、あなたは待ちの戦法が得意なのに、どうしてツッコんだわけ?』
……どうやら手心を加えてもらってたようだ。
ポロはぺこりと頭を下げる。
「ご指導、ありがとうございました!」
そう……ペルシャは自分に道を示してくれていたのだ。
「なにかわかった?」
「はい……聖剣の使い手は、聖剣の声を聞き、一心同体となって戦ってるんだと」
前のポロにはなかったものだ。
自分のやりたいように、剣を振るい、前しか見ていなかった。
でもペルシャとアクア・テールは違った。
ふたりで相談しながら、戦っていた。
意思のある武器を持つものの、最大のアドバンテージがなにかを、戦いを通して教えてくれたのだ。
忙しいだろうに。
こんな小娘に。
だから……感謝の意を示すため、ポロは頭を下げたのである。
「ポロさん。なにか、迷ってることがあるのは、剣を通して伝わってきました。ですが……」
ペルシャは微笑みながら、彼女の手を握り言う。
「大丈夫、あなたはとっても大きな才能を秘めております。どうか、その才能におごることなく、正道を征くことを、期待します」
最後に、技術指導だけでなく、心意気までも教えてもらった。
ポロはまた、自然に頭を下げたのだった。




