74.七福塵の作品《こども》
《七福塵Side》
時は少し戻り、ヴィルが異形化した水の勇者と戦ったあと……。
「いいねえいねえ八宝斎……! 最高さ……!」
戦いの一部始終を見つめる男がいた。
彼の名前は、七福塵。
呪いのアイテム……呪具を配っては、各地で混乱と不幸を振りまいてる男だ。
白い布をまとった、美青年の姿をしており、背中には木の箱を背負っている。
彼がいるのはヴィルが居る場所から馬車で半日ほど離れている場所。
大樹の先端に片足でたっている。
到底、ヴィルの戦いを見れる位置にはいないのだが……。
ぱたぱた……と、彼の近くに、翼の生えた目玉モンスターが飛んでくる。
七福塵は目玉モンスターを手に取って、自分の右目にずぶり……と嵌める。
「いやそれにしても素晴らしい! 特に、壊れた街を一瞬でなおしたところなんて! 私の思い描く八宝斎そのものじゃあないか!」
うんうん、と満足そううなずいて、拍手する。
「この調子で、ドンドン成長していっておくれよ、八宝斎!」
と、そのときである。
「だーれだっ♡」
七福塵の背後から、抱きついてきたのだ。
そして目を隠してきたのである。
「ヒントはぁ~? パパの娘っ♡ きゃっ、そこまで言えばわかるよねぇ~?」
「誰だ?」
「んも~。忘れちゃったの~?」
ぱっ、と手が外される。
七福塵が背後を見ると……。
「ボクだよ、ぼーく♡」
そこに居たのは、麗しの美少女だ。
白い肌に、真っ白な髪の毛。
目は血のように赤い。
ツインテールに、露出の激しいコスチューム。
「おまえは……」
「そうそう、ぼくだよパパッ♡」
七福塵を父と呼ぶ……この女の正体は……。
「ふむ? いや、誰だおまえは?」
……七福塵すら、わからないようだ。
本気で覚えていないらしく、首をかしげる。
「も、もー! パパったらぁ、冗談きっついよ! ぼくだよぼく!」
「ふむ……いや、わからんな。というかパパとか気安く呼ぶのは辞めろ。私は君を知らない」
「……………………それ、ガチで言っての?」
先ほどまでの、七福塵に向けるフレンドリーな笑みは消え……。
今彼女の表情は、憤怒の形相へと変化していた。
しかし激しい怒りを向けられても、七福塵はのんきに首をかしげる。
「ぼくは……パパが産みだした子供なんだよ?」
「子供? 子供なんて居たか? そもそも女と付き合ったことも寝たことも、一度もないのだが?」
「………………」
ごごごごお……と娘の体から黒いオーラが噴きあれる。
「ぼくを産んでおいて……ぼくを忘れる……? ふざけるな……ふざけるなよ! ぼくを愛してるって言ったくせにぃいいいいいい!」
少女は凄い勢いで七福塵へ接近する。
ここまで0.1秒。
彼女は当然のように空中で飛び上がり、足を振り上げて、まるで鎚のように、父の頭を蹴り飛ばす。
ずがぁん! という音とともに父が地面へと落下。
落ちた父の頭を、何度も何度も踏みつける!
「ぼくは! ぼくは! パパの一番なんだ! 一番だって言ってくれた! 一番だって! あれは嘘だったの!? ねえ!?」
何度も何度も父を踏み潰す……。
やがて、目の前にいた元父が、ぐしゃぐしゃの肉塊へと変貌した……。
「うう……ぱぱ……なんでぇ……なんで忘れちゃったのぉ……」
と、そのときだった。
「【ウィニー】」
振り返ると、五体満足な父が居た。
「そう、そうだ。ウィニーだ! 100年前に私が作り出した」
……確かに父は死んだはず。
たった今、父を殺したというのに、殺したいほど、憎かったというのに……。
「ぱ~~~~~~~~~~ぱっ!」
少女……ウィニーは笑顔になると、父親に飛びつく。
そして熱烈なキスを浴びせる。
「そうだよっ! ウィニーだよっ! ぱぱっ! ぱぱっ! 思い出してくれたんだねえ」
……先ほど父を殺したのと、同じ人物とは到底思えないほどの、変貌っぷりだった。
「うんうん、そうだったな。おまえはウィニー。八宝斎第187821878237564号だ」
謎のセリフを言う七福塵。
「ふふふっ♡ パパがぼくを思い出してくれた~♡ うれし~♡」
ちゅっちゅ、とウィニーが七福塵の頬にキスをする。
「ねーえ、パパ。さっき何見ていたの?」
「ん? 八宝斎。私の今のところ最高傑作だ」
父親の頭をつかんで、ウィニーが握りつぶす。
ぐしゃあ……という音とともに、父が死ぬ。
「おいおいウィニー。酷いじゃ無いか」
振り返るとまた、父親が無傷で立っている。
ウィニーは額に血管を浮かべていた。
「最高傑作は、ぼくでしょ!?」
「おいおいいつの話をしてるだ、ウィニー。おまえが最高傑作だったのは、100年前だよ。今は彼、ヴィルが最高傑作だ」
「ふざけんなっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっ!!!!!!!!」
ぎりぎり……と歯がみして、ウィニーが叫ぶ。
「ぼくが……ぼくこそが! パパの最高傑作! あんな冴えない男の、どこが!? いったいどこが最高だって言うの!?」
激しい怒りをぶつけられても、七福塵はどこと吹く風。
「やれやれ。しょせん、作品に、作者の気持ちはわからないか」
ぶちっと切れると、ウィニーはきびすを返してその場をあとにする。
「どこへ行くんだい、ウィニー」
「決まってるでしょ? パパの作品を、ぐっちゃぐちゃにしてやる」
作ったものを壊すというのに、七福塵は楽しそうに笑う。
「はは、そうかい。やってみるがいい。おまえもそうすればわかるだろう。私の人生をかけた傑作が、いかに素晴らしいかを」
「ふんっ! なにが傑作だよ! ぼくが、このウィニーこそが! 作者の最高傑作なんだからね!」
フッ……とウィニーが消える。
七福塵はクツクツと笑うと、自分の右目をえぐり取る。
目玉は翼を生やし、そしてパタパタと飛んでどこかへと行く。
「ふふ……作品が作者の手を離れて勝手に動き出す瞬間は、いついかなるときでも……心が躍るなぁ!」




