70.あの日の自分
《ポロSide》
ヴィルが水の勇者と最後の戦いを繰り広げてる一方。
ポロは被災したひとたちを、安全な場所へと移動させていた。
「これで、周辺の村は全て回りましたわ」
王女ラグドールの助けもあって、救助は無事成功を収めた。
ほっ……とポロが安堵の息をつく。
ヴィルに与えられしミッションを無事に終わらせることができた……。
と思ったそのときだ。
――けて、助けて!!!
ポロの耳に、子供の悲鳴が聞こえたのだ。
彼女は知らず、走り出していた。
「ポロさん!?」
「え……?」
自分でも、どうして走ってるのかわからなかった。
でも……あの声を聞いたとき、いてもたってもいられなくなったのだ。
やがてポロは、大きな川もとへたどり着く。
大雨のせいで増水し、濁流が止めどなく流れている。
「あぶ……たす……たすけ……」
……川の中で助けを求める獣人。
その姿に、ポロは在りし日の自分と重ねてしまう。
奴隷商人につれていかれる自分。
母を助けてと、懇願しても、誰も助けてくれなかった。
……そんな弱い自分の姿が。
助けを求める少女とかぶる。
ポロは居ても立ってもいられなくなり、川のなかへと身を投げ出した。
「何やってるの……!?」
ポロはものすごい速さで子供を回収し、叱りつける。
「ご、ごめんなさい……でも、チャコが……」
「チャコ?」
「子猫……」
だが周りに子猫らしき姿はない。
「沈んじゃったんだよぉ……」
この、濁流の中に?
無理だ。
中に入っても視界は不明瞭。
とてもじゃないが、子猫を助けることはできない。
「チャコ……チャコぉ……」
……辞めてくれ。
ポロは叫びそうになる。
助けを求めないでくれ。
……それが、全部自分に見えてしまう。
「いったん出るわよ」
「! でもチャコが……」
「良いから!」
ポロは女の子を抱きかかえて、いったん川の外へ出る。
女の子を下ろした後……。ポロは、濁った川の中へと飛び込む。
「お姉ちゃん!」
まったく、自分は何をしてるのだ。
泣いてる子どもと自分は違うだろうに。
……でも、気づいたら助け出そうとしていたのだ。
荒れ狂う水の流れの中で、ポロの鋭敏な聴覚は、子猫の鳴き声をとらえていた。
ポロは急いで子猫のもとへ行く。
抱きかかえるも、しかし流れが激しすぎて、川の外に顔を出せない。
……終わった。
ポロは諦めようとする。
だが……胸の中に抱いてる、子猫。
この子を、外にいる女の子が待っている。
この子だけでも……助けたい。
何でこんな必死なんだろう。
……簡単だ。
昔誰も自分を助けてくれなかった。
そんな世界を憎んでいた。
だから……。
……。
…………。
……………………。
「げほっ! げほ……げほ……おええええ!」
気づけば、ポロは川の外に出ていた。
「お姉ちゃん!」
獣人の子供が駆け寄ってくる。
ポロは何が起きたのか理解できなかった。
でも、胸の中で子猫がえずいてる。
……生きてる。
子猫を助けることができたんだ。
ポロは子供に、子猫を預ける。
「もう……逃がしちゃ、だめ。わかった?」
「うん! ありがとう!」
ポロは肩で息をする。
その手に……いつの間にか光の聖剣が握られていた。
「どう……して……ルクスが……?」
濁流はいつの間にか、静かな川の流れへと変わっていた。
おそらく、ルクスが力を使ったのだろう。
でも解せない。
ルクスは使い手がいてはじめて、再生の力が使える……はず。
夜空が使ったのだろうか。
『まーま! いまのまーま、べりーぐー!』
手の中で、ルクスが意味わからないことを言う。
もう……わけわからん、と彼女は意識を手放す。
「お姉ちゃん!」『マーマ!』
……ほんと、最悪だった。
雨だし、いろいろ上手くいかなかったし。
……それでも、人を助けて、悪い気はしなかった。




