64.惑う獣人
《ポロSide》
ヴィルと分かれた獣人ポロは、獣人姫ラグドールとともに、怪我人の救助へと向かう。
ふたりとも獣人ということで、かなりの速度で走ってる。
だが……ポロは悩みを抱いていた。
『どうした、ポロよ?』
夜空が、持ち主の心の動きを察知して、勇者であるポロに問いかける。
「あ、いえ……」
『ヴィルとともに戦えなかったことを、まだ引きずっておるのか?』
……その通りだった。
ヴィルから仕事を任された。
とても、大切な仕事だ。
必ずやり遂げる。それは、当然のこと。
……けれど。
やっぱり思ってしまう。
どうして、ともに戦おうって言ってくれなかったのか。
やっぱり、背中を守るのには、まだ実力が足りないということか。
『ポロ。しゃきんとせぬか!』
ハッ……とポロが正気に戻る。
『ヴィルから任された仕事を、そんな気持ちで完遂できると思っておるのか?』
「…………すみません」
だめだ。
今は、余計なことを考えてはいけない。
自分が弱いことなんて、最初からわかっていたことじゃないか。
闇の聖剣を自在に操れないほどの、未熟な使い手なのである。
仮にヴィルとともに戦ったとて、彼を守れる保証はどこにも無かった。
(私が強かったら、きっとヴィル様は背中を預けてくれたはず。私が弱いから……【雑用】しか任せられないんだ……)
「ポロさん! あそこに村があります!」
ラグドールが指さす先には、村の残骸らしきものがあった。
どうやら先ほど、巨神兵が作り出した大量の水によって、村の建物などが流されてしまってるようだ。
「うう……」「いたいよぉ……」「たすけてぇ……!」
津波に巻き込まれたせいか、獣人達は大けがを負ってるようだ。
腕や足が逆向きになってるもの、頭から血が出ているもの。
たくさんの怪我人が、壊れた村のなかで倒れ伏してる。
(とにかく、今はヴィル様に任された仕事をするんだ)
ポロは光の聖剣、ルクスを抜く。
一見小ぶりなナイフに見えるが、れっきとした聖なる剣。
「怪我人を治療します!」
「あ、あんたは……?」
近くで倒れていた獣人が尋ねてくる。
「このお方は勇者様ですわ!」
「おお! ラグドール様! 王女様が勇者様をお連れになってくださった!」
村人達はポロへの警戒を解いた。
ポロはナイフを構えて、集中する。
「あのときみたいに……ルクス、力をかして」
『ぬぅー……』
しかし、ルクスから帰ってきたのは、そんな気のない返事だった。
「どうしたの?」
『やぁー……』
いや?
どういうことだ。
『今の、まーま。や……』
……どういうことだ?
今の自分が、嫌?
「言うことを聞いて、ルクス。ヴィル様から任された仕事をこなしたいの」
『や……! 今のまーま! や……!』
……意味がわからない。
どうして、こないだは治癒の力を使えたのに!
「ルクス!」
『びゃああああああああああ!』
ついには、ルクスが泣き出してしまった。
……訳がわからない。
どうして急に、使えなくなってしまったんだろう。
今……ヴィルは戦ってる。
あの人が戦ってる一方で、自分はこんなことで、モタモタしてしまってる。
さっさと終わらせて、ヴィルに加勢したいというのに……。
「ポロ」
急に、闇の聖剣が輝きだし、そこには人間の姿に変わった、夜空がいた。
「ルクスを渡すのじゃ」
「! い、嫌です! これは私の……」
しかし、ルクスが自分の手から消え……。
夜空の手に収まる。
「そんな……」
「すまんかったな。おぬしら。ルクス、おおよしよし、良い子じゃから、ちょっと頑張れるか?」
ぐずっていたルクスだったが……。
『うん。がんばりゅ』
「よい子じゃ」
夜空が光の聖剣を掲げる。
すると周囲に優しい光がともり、怪我人を照らす。
ほんの一瞬で、怪我が治った。
「おお!」「すごい!」「痛くないぞ!」「ありがとう! 勇者様たち!」
どうやら夜空を、勇者ポロの仲間だとおもってるようだ。
当の勇者はというと……。
「そんな……」
夜空が光の聖剣を使った。
その事実に、ショックを受ける……。
「ルクスは……光の聖剣は……私のなのに……」
夜空はその姿を見て、ため息をつく。
「まだ、おぬしには早かったようじゃな」
「夜空様……?」
「もうよい。怪我人はわしが治療する。おぬしはラグドールとともに避難誘導をするのじゃ」
……嫌だった。
怪我人の治療は、ヴィルから任された自分の仕事……。
でも……今の自分は、どういうわけか、光の聖剣を使えない。
「……わかり、ました」
ラグドールがポロの肩を優しく叩く。
そして、ふたりは村人の避難誘導をする。
残された夜空が、ため息をつく。
「まったく……わかっておらん。わが創造主が、わしではなく、おぬしにルクスと、神器を託した理由を」
ルクスと夜空は、ヴィルが作った聖剣だ。
彼は、誰でも使える、便利な聖剣というコンセプトのもと、夜空とルクスを作った。
だというのに、二本とも、ポロに預けた。
その理由を、その真意を……。
今のポロは、理解できていないのだった。




