59.結界装置(国宝)をさらっと作ってた
俺、ヴィルは村、そして村人たちを治療した後、再び出発することにした。
「ありがとうございます、ヴィル様、そして、勇者様」
村の獣人たちが俺に頭を下げる。
勇者……ポロはどこか納得いってないのか、そう呼ばれても表情は暗い。
俺は立派に勇者してたって思うんだけどね。
「悪いな、たいしたことしてやれなくて。俺らも先を急ぐものだからな」
現在、獣人国ネログーマは、水の聖剣が暴走した結果、国中の植物が異常発達してる。
植物の力はすさまじく、ほっとけば国が滅びるレベルだ。
早めに水の聖剣アクア・テールを治さないと、取り返しがつかないことになる。
「いえいえ! 壊れた村の修復、村人の治療、そして何よりこんな立派な防壁まで立ててくださって、もう十分です」
「え? それだけじゃないぞ」
「そ、それだけじゃない……? どういうことでしょうか……」
と、そのときだった。
「た、大変だぁ……! 植物モンスターの群れが! こっちにきてます!!!!」
「なんじゃとぉ!」
防壁の上にいた見張り役が、声を張り上げる。
俺たちもはしごを使って壁の上にやってきた。
「おー、木のドラゴンじゃん」
俺たちがこの村へ来る前に見かけた、木のドラゴン……樹龍というらしい。
樹龍の群れがこちらにぞろぞろと押し寄せてくるのだ。
「おわりじゃあ……」
「あんな恐ろしいモンスターが、こんな大量にやってきたら……」
ん?
「え、なんでみんなおびえてるの? 大丈夫、来ないからあいつら」
「「「は……?」」」
そのときである。
光の壁が、樹龍と村の防壁の間に突如として出現したのである。
「ゴギャアア!」「ギシャアアア!」「ギャアアアス!」
先頭を走っていた樹龍たちは光の壁にぶつかった瞬間消滅する。
後ろの連中は前の奴らが死んだのを見て、おびえて立ち止まる。
その様子に……獣人姫ラグドールが驚愕の表情を浮かべる。
「し、信じられませんわ……結界です! こんな小さな村に、聖なる結界が張られてます!」
聖なる結界。
それは、国が所有する結界装置から発生させられるモノだ。魔を退ける特殊な結界。
しかし大抵の結界装置ってやつは、国宝で、そういくつも量産できない。
主要都市にいくつかあるくらい。
小さな村は、天導教会にたのんで、聖女にバリアを張ってもらってる……だっけか。
「この村には結界などなかったはず! どうして!?」
「え、どうしてって……俺が作ったからだけど、結界装置」
「「「え、ええええええええええええええええええええええ!?」」」
あ、そういや言ってなかったな。
驚かせてしまったようだ。すまんな。
「どういうことですがヴィル様!」
ポロに俺は答える。
「見た方が早いかな。おいで」
俺たちは防壁から降りて、村の外へ行く。
防壁の壁に、大きめの宝珠のようなものがはめ込まれている。
よく見りゃ、宝珠の表面に模様が刻まれてるのがわかるだろう。
「あれが結界発生装置」
「そんな……ありえませんわ。結界発生装置は、もっと巨大な見た目をしておりましたわ」
「うん。でもそれだと場所とるだろ? だから、コンパクトにしてみました」
宝珠型にすれば、穴を開けてそこにはめ込むだけで、結界が発生できる。
これなら場所も取らない。
それに結界装置って、一回設置すると動かせないのが不便だったんだよな。
宝珠型結界装置なら、簡単に取り外しできて便利。
「し、信じられませんわ……結界発生装置は国宝……国が大金と、長い年月、そして多くの才能ある魔道具師たちを集めてくるものなのに……いつ作ったのですの?」
「え、村を出る準備してる間に、ぱぱっと」
アイディア自体は頭の中にあったのだ。
俺は帝国で結界をなおし、また結界装置も直した。
そのときに、構造は頭の中に入っている。
あとは、スキル天目一箇神を使って、頭の中のイメージを形にした、ってわけだ。
「ヴィル様……すごいですわ。これはもう……歴史的大発明ですわ!!!」
「ふーん」
だからなにって感じ。
「さて出発しよーかいね」
「いやいやいや! ヴィル様! なんでそんなあっさり!? 歴史的大発明をしたのですよ?」
え、まじでだから?
なんだってんだろうか……。
「俺はただ、こういうのがあれば便利かなーって思って、ちょろっと作っただけだしな」
「…………」
愕然とするラグドールをよそに、ポロがキラキラした目を俺に向けて言う。
「こんな素晴らしい発明品を作ってしまうなんて、さすがです、ヴィル様!」
そして、村人たちが頭を下げる。
「ありがとうございます! まさか聖なる結界まで張ってくださるだなんて!!! もう感謝してもしきれないです!」
いやぁ……そんなに恐縮されてもな。
俺はただ、あったら便利だろうなってものを作っただけだしよ。
「そんな気にしないでくれよ。俺の好きでやってることだし。じゃ」
「「「ありがとうございました! ヴィル様!!!!!」」」
なんかむずがゆさを覚えながら、俺は村を去るのだった。
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