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【完結】追放された鍛冶師はチートスキルで伝説を作りまくる 〜婚約者に店を追い出されたけど、気ままにモノ作っていられる今の方が幸せです〜  作者: 茨木野
二章

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56.獣人剣士、姫を助ける



 ヴィルのもとを離れた、獣人ポロは、村周辺の雑魚モンスターを討伐していた。

「はぁ……! はぁ……! 消えろ! 消えろぉ!」


 小型の死喰い花(デス・プラント)たちを、ポロは自分の爪だけで引き裂く。

 ポロの鋭い爪と、獣人の人間離れした腕力による一撃は、非常に強力だ。

 一撃のもとに、小型の死喰い花(デス・プラント)たちを蹴散らしていく……。


「駄目……こんなんじゃ……全然だめ……」


 ポロは強くなりたい。

 自分を助けてくれなかった、人間に対する……怒りがあるから。


 あの男に、ドエム・オシオキスキに復讐してやる。

 ……しかし、ヴィルから夜空を取り上げられてしまった。


「夜空様……どうしてでしょうか」


 ポロの腰には二本の剣がつけられている。

 光、そして闇の聖剣だ。


 闇の聖剣は、極東の刀に似たフォルムをしてる。

 しかし今は、鞘からつばにかけて、黒い鎖でぐるぐる巻きにされていた。


『どう……と言われても。創造主の言うとおりじゃ。ぜんぜんなっとらん』

「そう……ですか……」


 聖剣から認めてもらえないのでは、本当にまだまだなのだろう。

 だから、聞いてみることにした。


「何が……足りないんでしょうか? それとも……何か間違ってるんでしょうか……?」


 夜空は、間を置いた。

 何か考えてるようだ。


 しかし、夜空から出た言葉は、厳しいものである。


『両方じゃ』

「……それを教えてもらえることは?」

『残念ながら、教えられぬ』


 がっかりするポロに、夜空が慌ててフォローを入れる。


『意地悪で言ってるのではないぞ。ぬしは筋が良い。それは間違いではない。いずれ聖剣の使い手……勇者となろう』

「今のままでは無理なんですよね?」

『うむ……ぬしは足りてない。そして、間違ってる。これはぬし自身が自分と向き合い、気づかねばいけないのだ』


 意地悪で、答えを伏せているわけではないのが、わかる。

 夜空の声音は実に優しげだった。


 でも……答えがわからない。


「どうすれば……」


 どうすれば、強くなれる?

 ヴィルのように。


 そのときだった。


「きゃああ!」


 近くから悲鳴が聞こえてきた。

 死喰い花(デス・プラント)におそわれかけていたのは、獣人の姫、ラグドールだった。


「…………」


 とっさに、体が動いた。

 動いてから内心で驚いていた。


 なぜ、自分が助けにむかっているのか。

 わけもわからぬまま彼女は爪を振るった。


 死喰い花(デス・プラント)の触手を切り飛ばす。

 触手にぐるぐる巻きにされていたラグドールが、宙に投げ出される。


 ポロはラグドールを空中でキャッチして、地面に柔らかく着地した。


「ありがとうございますわ、ポロさん」

「……いえ」


 別に助けるつもりはなかった。

 だが……彼女には、さっきちょっと慰めてもらったことがあった。


 知り合いの女が、モンスターに食われたとなれば、寝覚めが悪い。

 だから助けただけに過ぎない。


「ありがとう」


 礼を言われる筋合いはなかった。

 別に自分で助けたいと思って助けたわけじゃないのだ。


「……お姫様は、どうしてここに?」

「ポロ様が心配で。お一人で向かわれたので……」


 ……心配、か。

 ポロはラグドールを見やる。


 眉根を寄せて、顔を近づけてくる。

 ポロは耳が良い。


 心音から、ある程度の感情を聴き取ることができる。

 嘘をついてるときには、嘘つきの音がするのだ。


 ……でも。

 このラグドールからは、それが聞こえない。


 本当に、純粋に、ラグドールはポロを心配してくれていたようだ。

 ……見ず知らずの、昨日今日会ったばかりの相手を。


「……なんで?」


 知らず、疑問が口をついた。


「どうして、私を心配したの?。ただの、他人なのに」


 ふるふる、とラグドールは首を横にふるって、真面目な顔で言う。


「他人ではございません。あなたは、獣人。わたくしたちと同じ、人ではありませぬか」

 

 ね……とラグドールが微笑む。

 人……。


『奴隷は物だ! 人間様の言うとおり動いてれば良いのだよ!』


 ……ドエム・オシオキスキの声が響く。 そうだ。


 自分は……奴隷だった。

 ごつい首輪をつけられて、命を握られていた……物。


「あなたと私は……同じじゃない」

「ポロさん……」


 別に、非難したいわけじゃ無かった。

 傷つけたいわけじゃないかった。


 ただ、自分と、このお姫様とでは異なる存在なのだ。

 自分は、元奴隷で、そっちは人間……。

「あいたっ」


 そのとき、ラグドールが腕を押さえた。

 よく見ると、さっき死喰い花(デス・プラント)の触手で巻かれた部分が、焼けただれていた。


「毒……」

「これくらい平気ですわ♡」


 ……平気そうには見えない。

 どう見ても、痛そうだ。


「…………」


 いやだな、と思った。

 自分を心配してくれた人が、痛そうにしてるのは……嫌だなと。


 そのときだ。


『まーま』


 ぱぁ……! とポロの腰で眠っていた、小ぶりなナイフのような聖剣……。

 光の聖剣ルクスが、輝きだしたのだ。


 ルクスから放たれた光が、ラグドールの患部を優しく照らす。

 そして次の瞬間には、怪我が綺麗さっぱり直っていたのだ。


「すごいですわポロさん! 怪我を一瞬で治してしまわれるなんて!」

「あ、いや……私がやったわけじゃ……」


 ラグドールがポロの手を握って、笑いながら言う。


「ありがとう、ポロさん! 二度も助けてくれて、感謝の念に堪えません」


 一度目も、二度目も、別に助けたくてやったわけじゃなかった……。

 特に、二度目はルクスが勝手にやっただけ。


「…………」


 それでも、ありがとうと言ってもらえたのは、嬉しかった。

 人を助けたことで、ありがとうって言ってもらうのが、なんだか心地よいと思う。


『まーま。まーま!』


 次の瞬間、腰につけてあったルクスがさらに光ると……。

 ポロの尻尾に、なにかがくっついた。


「うひゃあ! な、なになになにっ!?」


 ポロが振り返ると、尻尾に、まるでコアラのようにくっついてる……。

 幼児が、いた。


「まーま。もふもふ。きもちーい!」

「ま、まさか……ルクス?」

「うぃ……!」


 闇の聖剣、夜空と同様に、ルクスもまた、人の姿をした剣精のようだった。

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