54.ドラゴンを一撃で倒す(定期)
俺たちは獣人国ネログーマへとやってきている。
暴走する水の聖剣を治すため、王都エヴァシマを目指す。
「やぁあああああああ!」
ざん! と獣人ポロがその手に持っている闇の聖剣を振る。
死喰い花(歩く食虫植物的なモンスター)を、片端から倒していく。
「消えろ! 闇に飲まれろ!」
ポロが剣を振るうと、闇の力が解放される。
周囲に居た、小さめの死喰い花たちが吸い込まれていく……。
ポロはモンスターを倒したあと、にまりと笑う。
「どうでしょうかヴィル様!」
「ん? んー……」
さてどういうべきだろうか。
別に俺は剣の師匠でも何でも無いんだが……。
『……創造主よ』
「ん?」
剣状態の夜空が、ハッキリ言う。
『駄目なところは言ってやっておくれ』
自分で言えばいいんじゃねえ?
とは思ったが、まあそういうのなら言ってみるか。
「全然、駄目駄目だな」
「な!? ど、どうして……?」
「どうしてって……だってそれ、夜空の力を全然引き出せてないんだもんよ」
ポロが愕然としている。
夜空は『さすがじゃ』と小さくつぶやいていた。
「ポロ。それはただ木の棒を振り回しているのと変わらないよ。夜空はもっとできる子だ」
「し、しかし……」
「まあ剣の師範でもなんでもないから、剣術については口出しできんが……」
俺はポロに近づいて、夜空を取り上げる。
「粗末な使い方をするんだったら、夜空は没収な」
「そ、そんな……!」
ポロのやつ、気づいていない様子。
俺はハンカチを取り出して、夜空の刃に着いた、死喰い花の樹液を拭う。
「臭かったろー。ごめんな」
『いや、問題ない』
刃こぼれを少し起こしていたので、ハンマーでこつんと叩いて、治す。
「ポロ。確かに夜空は道具だよ。でも道具にも心があるんだ」
「…………」
まあ、不満そうだ。
そりゃいきなり道具に心って言われても、受け入れにくいかもしれんが。
「ちゃんと尊重してやりなさい。でないと、夜空は二度と使わせないよ?」
厳しい言い方になっちまったろうか。
でも夜空は道具でもあるけど、ポロにとって相棒でもあるんだ。
そこをね、ちゃんとわかってほしかったんだよ。
「……ごめん、なさい。ヴィル様、夜空様」
「ん。いーよ。ただし……しばらく封印ね」
俺は夜空の表面をこつん、と叩く。
じゃらじゃら、と鎖が生成されて、夜空を縛り付ける。
「夜空様は……いつになったら使っても良いでしょうか?」
「それは夜空に聞いてくれ」
夜空をポロに返す。
ポロは、やっぱりどこか納得行ってない様子。
ま、これは道具と持ち主の問題だから。俺がどうにもできんしな。
「わるい、ラグドール様! ちょっともたついちゃって」
獣人国王女のラグドール様にそういう。
彼女はふるふる、と首を振るった。
「いえ、構いません」
彼女は俺の横を通り過ぎると、ポロの肩にソッ……と手を置く。
「何やら深い事情がおありのようですが、根を詰めすぎるのもよくありませんわ。あなた様は、さっきからずっと戦い詰めですし……」
確かに出てくるモンスターかたっぱしから夜空でたたき切っていたもんな。
「ヴィル様、ポロさん、休憩を取りましょう。近くに村があったはずですわ」
「いいのかい?」
「はい。皆さんお疲れのようですし」
ポロもそうだが、ラグドール様の護衛達も結構参ってるようだ。
どうにも環境が変わったせいか、空気もムシムシしているしな。
熱いなか歩いたんじゃ、体力の消耗も激しくなって当然だろう。
急がなきゃいけないが、倒れられても困る。休息は取るべきか。
「案内してくれないか?」
「はい、こちらですわ」
ポロが後ろから着いてくる。
犬耳と尻尾がぺちょんとたれている。ふぅむ……。
ちょっと怒りすぎたろうか?
「ポロよ。悪かったな。別におまえを叱りつけたかったんじゃ無くてな。ちゃんと使って欲しかったんだ、夜空をさ」
「ちゃんと……」
「おうよ。夜空は、やろうと思えばすげえことできるんだぜ? たとえば……」
そのときだった。
「きゃああ! う゛ぃ、ヴィル様! あれを!」
ラグドール様が悲鳴を上げる。
彼女が見やる先には、巨大な、木でできたドラゴンがいた。
「でけえ。なんだありゃ……」
「ヴィル様、どうしましょう? 夜空様は封印されてるし……」
近くに、獣人が居る。
多分村ってやつはそこにあるんだろう。
このままじゃ木の竜が暴れて、彼らがヤバいことになる。
「たすけねーとな」
俺は神鎚ミョルニルを手に取って、こつんと自分の肩を叩く。
「肉体改造」
超錬成の応用、肉体改造。
体の構造を作り替えることで、超パワーを手に入れる技だ。
俺はドンッ、と地面を蹴って、木の竜の顔を、ハンマーでぶん殴る。
「そい」
ばごぉおおおおおおおおおおおん!
「す、すごいですわ……あんな大きな古竜種を、一撃で倒してしまわれるなんて……」
古竜種?
ま、どうでもいい。
「それより今の木のドラゴン……かっけえ……」
家とかのオブジェに使えるかもしれんな。
一度ぶっこわしたので、構造はわかったし。
よし、今度家を作ったらあれを、家のどっかに据えてみるぞ。
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