53.獣人剣士、誰がために剣を振るう
ヴィルと行動を共にする、獣人のポロ。
獣人国ネログーマへと到着したヴィルは、暴走する聖剣をメンテするため王都エヴァシマを目指す。
「…………」
ヴィルの後ろをついて行くポロ。
彼女の腰には光と闇の聖剣がつけられている。
立派な剣。
しかし……自分は使いこなせていない。
『どうした、ポロ?』
「あ、いえ……なんでもありません、夜空様……」
『ふぅむ……良いのだぞ? 遠慮せずとも。悩みがあるのなら聞くぞ』
気さくに語りかけてくる、闇の聖剣。
だが彼女はまだ、本音で語れないでいる。
「大丈夫です……」
それは心の傷に触れること、自分の一番デリケートな部分の話だから。
ヴィルにすら言ったことない、彼女の過去を、明かすことは躊躇われた……。
「! ヴィル様」
そのとき、ポロの耳に、敵の声が聞こえた。
獣人の耳は人間よりも鋭敏な聴覚を備えている。
(今日はまだ何もしていない……! ヴィル様のお役に立つんだ……!)
彼女は夜空を抜いて走り出す。
「ポロ?」
「敵です! モンスター!」
ヴィルの進行方向には、1匹の巨大な食虫植物がいた。
ウツボカズラにもにた、大きな、しかし異形のモンスターである。
『死喰い花じゃな』
ポロは飛び上がって、死喰い花めがけて闇の聖剣を振るう。
「はぁ……!」
剣が振るわれると、三日月型の軌跡ができる。
闇を纏った刃が、死喰い花を一刀両断して見せた。
触れたところを無に返す、闇の刃……。しかし……。
「くっ……!」
ポロは納得がいかなかった。
以前、ヴィルがこの聖剣を使って、敵をまるごと飲み込んだシーンを目撃している。
それと比べてると、本来の力の10%程度の力しか出せていない。
「おー、やるなポロ」
ヴィルが追いついてくる。
ポロはもうしわけなくなって、ぺちょんと耳と尻尾を垂らす。
「……申し訳ないです」
「え? どうしたよ」
「だって……ヴィル様に最強の剣を持たせてもらっているのに、このていたらくじゃ……」
獣人の姫ラグドールは「あ、いや……」と困惑してる。
それも無理からぬ話だ。
死喰い花は、Aランクモンスター。
ベテラン冒険者が、パーティを組んで挑んでも、全滅する危険性がある。
そんなモンスターを一刀両断して見せたのだ。
十分に強いと言えた。
現にラグドールが、
「凄いお強いですよ」
というも、ポロの表情は晴れない。
「強くて当たり前です。天才であるヴィル様が作った剣を装備してるのですから……」
逆に言えば、装備してこの程度の強さと言うこと。
「強くなりたい……」
「どうしてですの?」
ポロは、ラグドールを見やる。
どうして……?
確かに、改めて聞かれると……。
わからない。
今はただ、この貸し与えられた闇の聖剣に、ふさわしい技量を身につけることが、短期的な目標と言える。
けれどじゃあどうして強くなりたいのかと言われても……。
特にこれと言った、目標は……。
「……いいや」
ある、脳裏に浮かぶのは……。
母を助けてくれなかった、あの人間……。
「ドエム・オシオキスキ……」
そうだ。
あの男が助けてくれなかったせいで、母は死んだのだ(確定ではないけれども)
……あの男に、一泡吹かせてやる。
「ありがとうございます、王女さま。目標が定まりました。これで、強くなれる気がします」
今まで聖剣を使いこなせなかったのは、目指すべき地点を設定していなかったからだ。
ドエム・オシオキスキ。やつに一泡吹かせ、死んでいった人たちに謝罪させる。
ポロの心に、小さな闇が生まれた瞬間だった。
一方で、ラグドールは痛ましいものを見る目で、ポロを見るのだった。
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