46.弟は完全敗北し、土下座する
ヴィル・クラフトの弟セッチンは、王都で異形となり、暴走した。
それを邪魔しに来たのは、兄とその仲間達。
仲間に時間を稼いでもらっている間に、兄は伝説の武器を作った。
『ば……ばかな……そんな……そんなばかなぁあああああああああ!』
体中から腕を生やした、化け物となったセッチン。
彼は兄のしたことを目の当たりにし、驚愕するほかなかった。
『聖剣は! 天から授かったものだって本に書いてあった! 人間が作れるもんじゃあないんだ! なのに……なのにぃいい!!!!!』
兄は聖剣を、ゼロから作った。
……今までセッチンは、兄のことを馬鹿にしてきた。
兄の真の実力を、今まで一度も見たことがなかった。
周りが皆、ヴィル、ヴィル、ヴィル……といっているだけ。
ヴィルがなんか気に入られてるだけだと、そう思っていた。
兄の作業するところは、一度も見たことがなかった。
修行をサボってきたからだ。
しかし……。
今、セッチンは初めて、職人としての兄を目の当たりにした。
見たことない力を使い、そして……前人未踏の、聖剣の作成を、やってのけた……。
……すごい。
純粋に、そう言いかけるも、セッチンは首を振る。
『う、うそだ! うそだうそだうそだ! こんなのうそだ! ヴィル兄が凄いわけがない!!!!』
兄は静かに、空中に浮かぶ剣を手に取る。
聖なる剣(仮)は、光そのもののようにずっと輝きを放っている。
刃は、ガラス細工のように透き通っている。
あんなので人を切れるのだろうか。
武器というより……そう、芸術品。
そうだ!
『は、は、はったりだ!!! ど、どうせ……どうせそれはただの剣だろう!? 聖剣であるとしょ、証明してみせろよぉおおお!』
ヴィルはゆっくりと、剣を横に振る。
……その瞬間、彼の周囲にあるものが、すべて、【修復】した。
壊れた街も、がれきの下に押しつぶされていた怪我人達も。
彼が視界に入れて、剣を振ることで……。
彼らの傷が、すべて……元通りになったのだ。
『なんだってぇえええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!?』
全修復。
兄の力を使えば、たしかに壊れた物は元通りになる。
しかしあり得ない。
兄は今、スキルを奪われているはずだ。
「そうか……わかったぞ。この聖剣の力が」
『聖剣の力だとぉ!?』
「ああ。それは……【破壊の否定】。あらゆる破壊行為を、無かったことにする」
兄の言っていることがわからない。
ヴィルは弟を無視して、倒れ伏す、Sランク冒険者のエリアルに近づく。
彼女の頭上で、聖剣を一振りする。
その瞬間……。
「! う、腕が元通りに……」
そして、離れた場所で息絶えている、街の人のもとへいく。
同じように、剣を振る。
「かはっ! はぁ……はぁ……わたしは……一体……?」
「お母さん! おかあさあああああああああああああああん!」
死体だった母親に、すがりついていた子供。
その子供は母親が生き返って、涙を流しながら喜ぶ。
「この剣を握って振るえば、誰かによって【破壊】された行為自体が、無かったことになる」
破壊された町は、元に戻り、殺された人は生き返る。
『治すなんて生やさしいもんじゃあらへん! あったことをなかったことにする……事象の改編能力や! すごすぎんで!!!!!!』
氷の聖剣、アイスバーグが驚愕する。
その言葉は、付喪神になっているからか、セッチンの耳にも届いた。
聖剣が驚くほどの存在……。
つまり……。
『ほ、ほんとうに……ほんとうに、聖剣……? 聖剣を……ヴィル兄が……つくったのかよぉお……』
セッチンは、わからされてしまった。
兄は、聖剣を作った。
聖剣が驚くほどの武器を作ってしまった。
今まで兄を否定してきた。
兄には力が無いと思っていた。父や祖父に気に入られていたのは、彼の人格をただ気に入られただけだと。
だが……しかし。
もう、認めざるを得なかった。
兄は……聖剣を作った。
人間では不可能なことをやってのけた。
神しか作れないはずの武器を、兄は驚くべき力を持って作って見せた。
……兄は。
兄は。
自分よりも……すごい……。
『う、うう、うがぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!』
セッチンがさらに暴走する。
体中から、無数の腕が伸びた。
それは今までの比じゃないレベルである。
頭上に吹き出た腕は、まるで大津波のようである。
『まずいで! ヴィルやん! あんなの落ちてきたら! 王都はぺしゃんこや!』
「問題ない」
ヴィルは冷静だった。
光の聖剣が、きぃいいいいいん……と彼の思いに呼応するように、強く美しく輝く。
ヴィルは光の聖剣を構える。
頭上には光の柱が、立ち上る。
それは天から降りてきた光の梯子のようであった。
一歩、ヴィルは踏み込む。
「セッチン……終わりだ」
『終わるのはてめぇだヴィルぅううううううううううううううううううううううううううううううう!!!!!』
大量の腕の津波が、ヴィルにむかって押し寄せる。
ヴィルは恐れることなく、光の大剣を振るった。
「陽光聖天衝」
光。
そう……凄まじい光の奔流が、王都を……否。
王国全体を優しく包み込む。
破壊された王都、傷付いた王都の人たちだけでなく、この国全ての負傷者を……癒やす。
国まるごとが聖なる光に包まれた。
もちろん、そこにはセッチンも含まれている。
彼を覆っていた異形の肉は、まるで氷のようにとけていく。
強い光を浴びてもしかし、不思議と痛みは感じなかった。
やがて……。
光は、途絶える。
そこには、傷一つ無い王都の町並みが広がっていた。
『陽光聖天衝やて……信じられへん……』
「……知ってるの、アイス?」
氷の勇者が尋ねる。
『ああ。あれは、かつて悪しき神から人間界を守った、超勇者ローレンスが使っていた奥義や』
「勇者様の技を再現したってこと?」
『せや。信じられへん。あの技は、あの超勇者にしか使えないはず。それを……あの剣は再現できるんや!』
「すごいです……! さすが、ヴィル様!」
『ああ、たいしたもんや。国にあるもの全て、治してしまうほどの癒やしの力なんて……人間に使えるレベルやあらへんわ!』
べた褒めする氷の勇者と聖剣をよそに、ヴィルは光の聖剣を見やる。
「そうか。まだ眠いんだな。わかった……お疲れさん」
光の聖剣は、文字通り光る粒子となって、消える……。
「壊れたのですか?」
ポロが尋ねるが、ヴィルは首を振る。
「いいや。眠っただけだ。こいつはまだ赤ん坊で、長く起きてることができないらしい」
使用時間に限りがあるということのようだ。
あんな規格外の力を、無制限に使えるなんて、それこそ神レベルの武器と言える。
……まあ。
神の武器を作った時点で、ヴィルはもう鍛冶の神なのだが……。
「っと、そうだ。セッチン」
ヴィルはセッチンの元へ行く。
異形化がとけて、暴走する前の姿に戻っていた。
「怪我、ないか?」
セッチンの胸には……圧倒的な敗北感を覚えた。
しかしどこか、清々しい表情をしていた。
「ヴィル兄……ごめん。ぼくが……間違ってたよ……」
あんだけ凄いことをしながら、敵にすら、情けをかける。
人格、能力、全てにおいて……。
「ヴィル兄のほうが、すごかったんだね」
やっと、セッチンは己が劣っていることを認め、そして、その場で……。
彼は、土下座した。
「ヴィル兄……ごめんなさい。あなたに酷いことをしたこと、あなたから全部を奪ってしまったこと、追放したこと……。本当に、すみませんでした!!!!」
セッチンは己の過ちを認め、そして、土下座して謝罪したのだ。
ヴィルは息を一つつくと……。
ごんっ! と弟の頭にげんこつを落とす。
「ぎゃっ!」
「これで勘弁してやるよ」
痛みはある、だが死ぬほどの痛みじゃ無い。
こんなげんこつ一つで許してくれるなんて……。
「うぐう……ぐす……うわぁああああああああああああああん! ごめんなさぃいいいいいいいいいいいいいいい!」
セッチンは兄の優しさを、踏みにじっていたことに……ようやく気づいて……。
彼は、申し訳ない気持ちでいっぱいとなり、涙を流しながら……謝ったのだった。
【★読者の皆様へ お願いがあります】
ブクマ、評価はモチベーション維持向上につながります!
現時点でも構いませんので、
ページ下部↓の【☆☆☆☆☆】から評価して頂けると嬉しいです!
お好きな★を入れてください!
よろしくお願いします!




