45.伝説の鍛治師は伝説を作る
俺は、昔じーさんから言われたことを思い出していた。
『ヴィルよ、おぬしにはいつか、固有のスキルが宿ると思う』
じーさんの工房にて、幼い俺は首をかしげながら言う。
『スキルならあるじゃん。5つも』
『確かにな。じゃが、それはどれも、ほかの八宝斎たちのスキルなのだよ』
付与。
超錬成。
全修復。
万物破壊。
無限贋作複製。
どれも、俺以外の八宝斎が持っていた、生産スキルだ(超錬成がじーさんのスキル)。
『黄金の手には本来、固有の生産スキルが各々1つ、宿っている。おぬしの場合は、最初から5つ宿っていたが、それらはほかの八宝斎たちのスキルだった。おぬしだけしか使えない、固有スキルではない』
言われてみると、確かにそうだった。
俺だけのスキルは、ない。
『才能がないってこと?』
『そうじゃない。おぬしのスキルは、おそらく前代未聞の超スキルなのだ』
しかし、とじーさんは続ける。
『あまりに、すごすぎるスキルゆえ、使い手の技量が追い付いていないから、使えないだけ……というのがわしの見解じゃ』
『じゃあ、宿っていないんじゃなくて、俺がまだ職人として未熟だから、使えないだけってこと?』
つまり、俺には5つの生産スキルのほかに、俺固有の、すごいスキルを、持っているってことか。
『どんなスキルなのかな?』
『さぁのう。ただな』
にっ、と笑った後、じーさんは俺の右手を優しく包む。
『それがどんな才能だろうと、正しく、使うんじゃよ? おぬしの父が、掲げた理念を、大切にな』
★
俺は王都で、異形となったセッチンと戦っている。
やつの能力は、周囲にいる人間の才能を奪うというもの。
黄金の手が使えない絶体絶命のピンチに、ポロたち勇者が駆け付けてくれたのだ。
「すまん、おまえら。時間を稼いでくれ!」
勇者たちがうなずく。
「……今こそ、ヴィル様に恩を返す好機! 行きますよ、アイス!」
氷の勇者キャロラインが、聖剣を手に走る。
足元に氷の道が出現して、彼女はそこを華麗に滑りながら接近。
「はぁ!」
キャロラインが剣をふるうと、セッチンの体が一瞬で凍り付く。
「ナイスだキャロちゃん! いくぞ、獣人嬢ちゃん!」
「はい、ライカ様!」
雷の聖剣、サンダーソーンを持つ、勇者ライカ。
闇の聖剣、夜空を持つ、勇者見習の獣人ポロ。
ふたりが強力な武器を片手に、凍り付いた触手をばっさばっさと切っていく。
あの腕は再生持ちだった。
しかしキャロラインが凍らせてるおかげで、腕の再生ができていない。
ばきばき、と触手を砕いていく勇者たち。
「よし、ロウリィちゃん!」
三人を王都まで運んできた、竜の魔神ロウリィちゃんが、俺のもとへ降りてくる。
「君のうろこを少し分けてくれ」
『もちろんいいっすよ! けど……なにすんすか?』
俺は、じーさんのハンマーを手に言う。
「神器を、作る。ゼロから」
『! 神器……で、でも、どーすんすか? 今、ヴィルさんの生産スキルは、全部取られちゃってますよ?』
俺の右手、黄金の手に宿るスキルは、確かにセッチンに奪われて使えない。
だが。
「大丈夫だ。じーさんの、このハンマーには、じーさんの八宝斎としての力が付与されてる」
『た、たしかおじーさんもまた、八宝斎だったすね』
「ああ。じーさんは超錬成が使えた。このハンマーにもその力が宿ってる」
そう、ハンマーにはいくつか機能がついてる。
じーさんの超錬成スキルは、搭載されてる機能のひとつ。
ただ、普段は使わない。
だって俺の右手にそもそも宿っているからな。
「錬成スキルがあれば、武器が作れる。このピンチを一発で打破できる、神器が」
セッチンに奪われたスキルを取り戻す。壊れた町を戻す。傷ついた人たちを治す。
そして、セッチンも元に戻す。
そのすべてを、黄金の手なしで実現するためには、もう神の奇跡が起きないと無理だ。
すなわち、奇跡を再現する武器……神器を作る以外に、活路はない。
『……セッチンを殺せば、ヴィルさんの黄金の手は治るのでは? そうすれば、全部元通りじゃないんすか?』
「……かもしれん。だが、俺は家族を殺したくない」
それが困難な道だとしても。
俺は、人を活かす武器を作りたい。
「それに、今の俺なら、できる気がするんだ。確信が、あるんだ」
王都を追放されてから、いろんなことがあった。
たくさんの壊れたものを治してきた。
呪いのアイテムなんていう、絶対許せない存在にも出会った。
呪いを祝福に変えれば、神器を作れることがわかった。
『黄金の手がないのに、大丈夫なんすか?』
「ああ。たとえ黄金の手がなくても、この右手には、たくさんのものを作ってきた、経験が宿ってる」
ぎゅ、と俺は右手を握り締める。
王都にいたころと、今の俺は違う。
たくさんの人たちを、笑顔にしてきた。
この手には、その力があるんだ。
その瞬間、ゴォオオオオオ! と俺の右手が、黄金に輝きだしたのだ。
『ヴィルさんの手が光ってるっす!』
『なにぃい!? ば、ばかな! スキルは、全部うばってやったんだぞおぉお!』
セッチンと勇者が、互角の戦いを繰り広げている。
だがやや勇者のほうが劣勢だった。
武器が折れて、それでも戦っている。
「すまん、おまえら。すぐに作る。この状況を打破する神器……聖剣を!」
その瞬間、俺の頭の中に、ひとつのインスピレーションが浮かんだ。
いける、これなら!
『や、やめろおぉおおお!』
セッチンが腕を大量増殖させて、俺に向かって攻撃してきた。
だが勇者三人が折れた聖剣で、それを防ぐ。
右手から発せられる光が、赤く輝く1つの【炉】を作り出す。
「これが、俺の力……俺の、新しいスキル!」
じーさんが言っていた、6つめの力。
力が、覚醒したとたんに、使い方が頭に流れ込んでくる。
炉のなかに、ロウリィちゃんのうろこを入れる。
材料は、それだけだ。
それだけで、事足りる。
通常なら無理だろうけど、この、俺のスキルがあれば!
やがて炉の中から、インゴットが生成される。
インゴットの上には無数の魔法陣が展開されている。
あとは、ハンマーを思い切り、打ち付ける。
「天に奏上する、神器を創生せよ! 【天目一箇神】!」
祝詞とともに、ハンマーを打ち付ける。
天目一箇神。それが、俺が覚醒した、6つ目のスキルの名前。
その効果は、神器の創生。
俺が作ったものが、神器となる!
インゴットはまばゆい光を発しながら、1つの形をとる。
それは、光を凝縮したような、美しい1振りの剣だ。
『な、なんてことや! 信じられへん!!!!!』
「どうしたの、アイス?」
氷の聖剣、アイスバーグが驚愕の声を上げる。
『聖剣や! ヴィルやんは、まだ誰も成し遂げてない、大聖剣をゼロから作り上げた! あれは、八本目の、聖剣やーーーー!』
もともとこの世界には、勇者の使う大聖剣が6つしかなかった。
呪われた妖刀をベースに、作られたのが、7本目の闇の聖剣。
そしてこれは、俺がゼロから作った、俺オリジナルの、大聖剣。
「誕生おめでとう。おまえは、光の聖剣だ」
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