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【完結】追放された鍛冶師はチートスキルで伝説を作りまくる 〜婚約者に店を追い出されたけど、気ままにモノ作っていられる今の方が幸せです〜  作者: 茨木野
一章

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33/283

33.元婚約者は追い詰められる



 ヴィルが帝国で手柄を立てている、一方その頃。

 彼の元婚約者、シリカル・ハッサーンは……窮地に立たされていた。


「お願いします! うちに、どうかきてもらえないでしょうか!」


 シリカルは王都の、とある魔道具師のもと訪れている。

 彗星亭と呼ばれる、魔女が経営する有名なお店だ。


 この魔女は、Sランク冒険者ギルド、【天与てんよの原石】にもその魔道具をおろしているほどの、実力のある魔道具師である。

 そんな魔女をシリカルはスカウトにきていたのだ。


「今うちには、職人が足りてないんです。どうか、どうか!」

「ごめんなさい」


 店主である、眼鏡をかけた若い魔女が、困ったような表情で首を横に振った。


「わたし、今ちょっと忙しいから」

「そこをどうにか!」

「ごめんなさい」

「そんな……」


 現在、シリカルがトップのハッサーン商会は、未曾有の危機を迎えていた。

 そんな状況を打破するために、彼女は新しい人材をスカウトしようとしてるのである。

 しかし……。


「お、お願いします! もうあなたしか頼れるひとが、いないです!」

「……ほかの職人は?」

「全部……断られました」


 ……ハッサーン商会。

 かつて王国最大手の商業ギルドとして名をはせていた。


 だがそれは、ヴィルが作るものすごい魔道具、武器が手に入るからきていただけだった。

 ヴィルがいなくなった現在、ハッサーン商会に魅力は皆無。


 さらに、こないだクズ剣をAランク剣として売っていたことが発覚。

 そのせいで莫大な借金を抱え、さらに、商人、職人たちが、次々と商会をやめていったのだ。


「そう……大変だけど、まあしかたないわね。アイテムを偽装して売るなんて、ありえないことだから。その道具が生死を分けるってものが、クズだったら、それは怒ってしまうわよ」

「うぐ……し、しかし……それは、別にわたしが悪いわけじゃ……」


 はぁ……と魔女が大きくため息をつく。


「作ったのは職人だとしても、売ったのは商人であるあなた。商品にたいして責任を持つのは、当然でしょ?」

「そ、それは……それは……そう……ですけど……」


 そもそもヴィルの弟、セッチンの作ったクズをクズと見抜けていなかった時点で、自分に商品の善し悪しを見抜く目がないと、言ってるようなものだった。

 ふぅ、と魔女は息をついて言う。


「ごめんなさい。あなたの申し出は断らせてもらうわ」

「……でも、でも……もうほかに頼れるひとは、いないんです」


 王都中、王国中の職人に当たったのだ。


「だれも入ってくれないんです……うちに……。だれひとりとして、うちに商品を卸してはくれなくて……」

「まあ、仕方ないんじゃない? あなたのとこのやらかし、もうすごい噂になってるもの」


 魔女は近くに置いてあった新聞を手に取る。

 日刊 予知者ノストラ新聞。


 世界で最も有名な新聞社だ。

 そこには、【ハッサーン商会、破産寸前】と見出しとともに、彼女の商会がいかに追い詰められているかが記載されている。


「多額の賠償金に、辞めていく職員、職人多数……こうも落ち目であることが知られちゃ、誰もあなたのところに入ろうとはしないわね」

「うぐ……ううう! で、でも! 悪いのは私じゃ……ないのに……!」


 ヴィルがいないせい。

 セッチンが馬鹿やったせいなのだ。


 自分は、悪くない。

 しかし魔女は冷たいまなざしを向ける。


「他人に責任転嫁するのは、どうかと思うわ。組織にとって必要な人材を大事にしてこなかったこと、部下の不始末を見抜けなかったこと。それは、全部あなたの責任なのだから」

「うぐ……ふぐぅ……!」


 ……確かにそのとおりだった。

 高名な魔女は、息をついて言う。


「かえってちょうだい。私も、遊んでいる暇はないの。うちの子の面倒を見ないとだから」


 うちの子?

 おそらく魔女は子供でも居るのだろう。


 当然だ、こんなに美しいのだから、言い寄る男も多いに違いない。

 子供……そうだ子供だ!


「お、お願いします! わ、わたしにも子供が! このおなかに子供が居るんです! 今ここで、商会を潰してしまったら……子供の未来が閉ざされてしまいます!」


 シリカルが取った手段は、子供を出しにして、同情を引く作戦だった。

 魔女はそれを見て……心底あきれたような目を向ける。


「だからなに? わたしに関係ないわよね? 子供の未来が閉ざされる? それこそ他人に責任を押しつけないでちょうだい」


 魔女の目には失望の色がありありと浮かんでいた。


「有名な商会のギルマスって聞いてたわりに、他人に責任を押しつける……ひどいリーダーね。潰れてもしょうがないわ」

「だって……だって……! だってぇ……! もう……わたしでは……どうしようもないんだもん!」


 そう、もうどうにもならない。

 偽物を売りつけたことで、多額の賠償金が生じている。


 ギルメンもどんどん抜けていくし、物を売ろうにも職人からものを仕入れることができない。


「じゃあもう、そのヴィルって人を、呼び戻すしかないんじゃない?」

「ヴィル……」


 そうだ。

 彼がいれば万事解決するのだ。


 だが……。


「どこに居るのかわからない……」

「わかるわよ? ほらこれ、予知者ノストラ新聞に載ってるわ」

「!?」


 予知者新聞には、【帝国を救った英雄 ヴィル・クラフト】と書かれていた。

 なぜ!? ヴィルが帝国に……?


 いや、それはどうでもいい。


「ヴィルは帝国にいる……! そうだ、ヴィルに戻ってきてもらうんだ!」


 シリカルは魔女に頭を下げて、さっさと店を出て行く。

 旅支度を調えて、彼の元へ向かう。


 しかし……。


「ごめん、無理」


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― 新着の感想 ―
[一言] ツッコミの鬼、マーキュリーさんキター!
[一言] 最後の展開早いw
[一言] シリカル、交渉能力が皆無だな。 交渉相手へのメリットを示さずに頭下げるだけじゃ、相手は頷かない。 教育に失敗した親にも問題がある。
感想一覧
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