33.元婚約者は追い詰められる
ヴィルが帝国で手柄を立てている、一方その頃。
彼の元婚約者、シリカル・ハッサーンは……窮地に立たされていた。
「お願いします! うちに、どうかきてもらえないでしょうか!」
シリカルは王都の、とある魔道具師のもと訪れている。
彗星亭と呼ばれる、魔女が経営する有名なお店だ。
この魔女は、Sランク冒険者ギルド、【天与の原石】にもその魔道具をおろしているほどの、実力のある魔道具師である。
そんな魔女をシリカルはスカウトにきていたのだ。
「今うちには、職人が足りてないんです。どうか、どうか!」
「ごめんなさい」
店主である、眼鏡をかけた若い魔女が、困ったような表情で首を横に振った。
「わたし、今ちょっと忙しいから」
「そこをどうにか!」
「ごめんなさい」
「そんな……」
現在、シリカルがトップのハッサーン商会は、未曾有の危機を迎えていた。
そんな状況を打破するために、彼女は新しい人材をスカウトしようとしてるのである。
しかし……。
「お、お願いします! もうあなたしか頼れるひとが、いないです!」
「……ほかの職人は?」
「全部……断られました」
……ハッサーン商会。
かつて王国最大手の商業ギルドとして名をはせていた。
だがそれは、ヴィルが作るものすごい魔道具、武器が手に入るからきていただけだった。
ヴィルがいなくなった現在、ハッサーン商会に魅力は皆無。
さらに、こないだクズ剣をAランク剣として売っていたことが発覚。
そのせいで莫大な借金を抱え、さらに、商人、職人たちが、次々と商会をやめていったのだ。
「そう……大変だけど、まあしかたないわね。アイテムを偽装して売るなんて、ありえないことだから。その道具が生死を分けるってものが、クズだったら、それは怒ってしまうわよ」
「うぐ……し、しかし……それは、別にわたしが悪いわけじゃ……」
はぁ……と魔女が大きくため息をつく。
「作ったのは職人だとしても、売ったのは商人であるあなた。商品にたいして責任を持つのは、当然でしょ?」
「そ、それは……それは……そう……ですけど……」
そもそもヴィルの弟、セッチンの作ったクズをクズと見抜けていなかった時点で、自分に商品の善し悪しを見抜く目がないと、言ってるようなものだった。
ふぅ、と魔女は息をついて言う。
「ごめんなさい。あなたの申し出は断らせてもらうわ」
「……でも、でも……もうほかに頼れるひとは、いないんです」
王都中、王国中の職人に当たったのだ。
「だれも入ってくれないんです……うちに……。だれひとりとして、うちに商品を卸してはくれなくて……」
「まあ、仕方ないんじゃない? あなたのとこのやらかし、もうすごい噂になってるもの」
魔女は近くに置いてあった新聞を手に取る。
日刊 予知者新聞。
世界で最も有名な新聞社だ。
そこには、【ハッサーン商会、破産寸前】と見出しとともに、彼女の商会がいかに追い詰められているかが記載されている。
「多額の賠償金に、辞めていく職員、職人多数……こうも落ち目であることが知られちゃ、誰もあなたのところに入ろうとはしないわね」
「うぐ……ううう! で、でも! 悪いのは私じゃ……ないのに……!」
ヴィルがいないせい。
セッチンが馬鹿やったせいなのだ。
自分は、悪くない。
しかし魔女は冷たいまなざしを向ける。
「他人に責任転嫁するのは、どうかと思うわ。組織にとって必要な人材を大事にしてこなかったこと、部下の不始末を見抜けなかったこと。それは、全部あなたの責任なのだから」
「うぐ……ふぐぅ……!」
……確かにそのとおりだった。
高名な魔女は、息をついて言う。
「かえってちょうだい。私も、遊んでいる暇はないの。うちの子の面倒を見ないとだから」
うちの子?
おそらく魔女は子供でも居るのだろう。
当然だ、こんなに美しいのだから、言い寄る男も多いに違いない。
子供……そうだ子供だ!
「お、お願いします! わ、わたしにも子供が! このおなかに子供が居るんです! 今ここで、商会を潰してしまったら……子供の未来が閉ざされてしまいます!」
シリカルが取った手段は、子供を出しにして、同情を引く作戦だった。
魔女はそれを見て……心底あきれたような目を向ける。
「だからなに? わたしに関係ないわよね? 子供の未来が閉ざされる? それこそ他人に責任を押しつけないでちょうだい」
魔女の目には失望の色がありありと浮かんでいた。
「有名な商会のギルマスって聞いてたわりに、他人に責任を押しつける……ひどいリーダーね。潰れてもしょうがないわ」
「だって……だって……! だってぇ……! もう……わたしでは……どうしようもないんだもん!」
そう、もうどうにもならない。
偽物を売りつけたことで、多額の賠償金が生じている。
ギルメンもどんどん抜けていくし、物を売ろうにも職人からものを仕入れることができない。
「じゃあもう、そのヴィルって人を、呼び戻すしかないんじゃない?」
「ヴィル……」
そうだ。
彼がいれば万事解決するのだ。
だが……。
「どこに居るのかわからない……」
「わかるわよ? ほらこれ、予知者新聞に載ってるわ」
「!?」
予知者新聞には、【帝国を救った英雄 ヴィル・クラフト】と書かれていた。
なぜ!? ヴィルが帝国に……?
いや、それはどうでもいい。
「ヴィルは帝国にいる……! そうだ、ヴィルに戻ってきてもらうんだ!」
シリカルは魔女に頭を下げて、さっさと店を出て行く。
旅支度を調えて、彼の元へ向かう。
しかし……。
「ごめん、無理」
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