24.俺だけは入れる隠しダンジョンを見つける
ディ・ロウリィの領地にて。
俺は土地に住んでいる魔神、ロウリィちゃんの家を改造した。
「わぁ……! なかも素敵ですね! ヴィル様!」
俺たちはロウリィちゃんの家である城の中に入っている。
エントランスは吹き抜けの二階になっている。
天井にはシャンデリア。
「これ……元は岩っすよね……。どうやってシャンデリアとか作ったんすか?」
「え? 岩から」
「作れ無いっすよ岩石からシャンデリアが……!」
いやでも、地中から元々ある素材(鉱物)を抽出し、形を整えればできるんだが……。
「まあ俺にはできるんだよ」
「は、はあ……どうにも自分が関わる人間って、みんなどこか技術レベルがおかしいんすよね……」
みんな?
ほかにも俺みたいな職人がいたんだろうか。
その後、家の中の探索を続ける。
ベッドルーム、シャワールーム、娯楽室。
「いやちょっと待ってっす!」
「どうしたロウリィちゃん?」
頭痛をこらえるように、ロウリィちゃんが頭を押さえながら言う。
「え、全部岩っすよね、元は!」
「そうだぞ」
「なんでベッド!? どうやってシャワー!? 娯楽室なんて岩から作れるんすか!?」
「ああ、作れるよ」
「作れねーよ!!」
ロウリィちゃん疲れてるな。
風呂に入って休んだ方がいいかもしれん。
しかし作れない、か。
あ、そうか。この子は知らないのか。
「作れるよ。俺には、黄金の手があるからさ」
俺ははめてる手袋を取って、カノジョに右手の甲を見せる。
日輪の紋章が刻まれている。
これは、太陽の手の持ち主である、まあ証のようなもんだ。
くわ、とロウリィちゃんが目を剥く。
「お、黄金の手って……それ、超激レアな恩恵じゃないっすか……! 世界創世から、数えるほどしか所有者がいないと記録には残ってるっす!」
そういやロウリィちゃんはすごい図書館で司書をやっていたらしい。
また、滅びたいにしえの王国より前から生きてるので、とても物知りだ。
彼女が言うんだったら、まじで黄金の手の持ち主は数えるほどしかいないらしい。
でも八宝斎は昔から連綿と受け継がれてきてる称号(屋号)だしなぁ……。
八宝斎でも、黄金の手を持ってない人もいたんだろうか。
必ずしも黄金の手の持ち主=八宝斎ってわけじゃない、ってこと。
「ん? 待つっす。この紋章、どっかで見たような……」
ロウリィちゃんが俺の手をじっと見つめる。
そして、何かに気づく。
「そうだ! 自分が居座っていた地面に、たしかこれと同じ紋章が描かれてたっす!」
「まじか。ちょっと見せてくれないか?」
このお城は元々、ロウリィちゃんが使っていた洞窟を改造した物だ。
彼女がいたホールは今、大きな倉庫になっている。
倉庫の片隅に、なるほど、たしかに太陽の紋章が描かれた床があった。
「ん? 俺の紋章と……なんか呼応してるな」
右手の紋章と、床のそれが共鳴するように、輝きを放っている。
「もしかして……八宝斎の工房なのかもしれん」
「どういうことでしょうか、ヴィル様?」
俺は獣人ポロに説明をする。
「歴代の八宝斎たちは、それぞれ自分固有の工房……つまり作業場を持っていたんだ。そこは八宝斎にとっての神聖なる場所だから、不用意に誰も入れないようになってる……って、じーさんから聞いたことがある」
先代の八宝斎、ガンコジーさんがそう言っていた。
あの人も工房をどこかに持っているってよ。
王都にあった店はあくまで親父の店であって、じーさんの工房では無かったしな。
「でも……なんで自分のすみかに、工房があったんすかね?」
「うーん……もしかしてだけど、この工房に誰もいれたくなかったのかもな」
「ああ、自分を番人的な感じでおいときたかったんすかね」
「たぶんな」
ロウリィちゃんみたいな強い魔神がいれば、誰もここには立ち入れないだろう。
しかし……それだとしても疑問はある。
だって工房はそもそも、作った本人にしか入れないのだから、番人なんて置く必要、ないんじゃないかって。
「それで、ヴィル様。いかがいたしますか?」
「ちょっと気になるし、入ってみようかな。まあ、俺が入れるかはわからんが」
ロウリィちゃんが、工房の入り口に立つ。
だが何も起きない。
「やっぱ持ち主だけじゃないと入れないんじゃねーすかね?」
「どれどれ」
今度は俺が、工房の入り口に立つ。
すると……。
ぶん……! と視界がぶれた。
これの感覚は……転移の魔法だ。
俺の視界が一瞬ぶれて、気づくとそこには……。
「な、なんだこりゃ……!?」
そこは、ひとつの【街】が展開されていた。
美しい建物がいくつも並ぶ、街。
「どこか知らない土地に転移させられたのか……?」
いや、違う。
俺は違和感を覚える。
空を見上げて、違和感に気づいた。
「! 太陽がない……それなのに、中は朝だ」
俺は街の端っこへとやってきた。
美しい都市のはずれには森が広がっている。
しかし……こつん。
「こ、これは……壁だ! 森に見えるけど、壁だ!」
そのときだ。
『大丈夫っすかヴィルさん!』
「うぉ! ろ、ロウリィちゃん……!? 頭の中から声が聞こえるんだけど」
『念話っす。魔神のスキルっすよ。遠くのひとと脳内会話できるっす』
テレパシーか。
すげえな。
俺は無事を伝え、見たままを説明する。
『なんじゃそりゃ……! どうなってんすか!?』
「たぶんだけど、ここは地下の空間なんだ。まるで外にいるみたいに見えるけど」
見上げた先にあるのは、空じゃない。
空に見えるように壁に加工がされた、天井なのだ。
壁もそうだ。
この先に森が広がってるように見えて、しかしこれは壁に森があるように描かれてるだけ。
「この美しい都市全体が、この空間が、八宝斎の工房なんだよ」
『はえ~……こんなスケールの工房を作るなんて、すごいっすね八宝斎ってやつは』
ああ、すげえんだ。
何代目の八宝斎かは知らないけど、ここまでのものを作るなんて……。
「ん? 壁になんか扉があるな」
『え、どこっすか?』
「見えるの?」
『五感も共有できるんすよ』
すごすぎるなロウリィちゃん。
俺は壁の近くまでやってくる。
『なんもねーじゃないすか?』
「いや、このここ……空間の質が一部だけ違う」
『? ??? ????』
どうやらわかってないらしい。
俺はなにもない空間に手を置いて、ぐっ、と押してみる。
すると扉がぎぎぎ、と開いた……。
「おお、通路……?」
なんか地面が青白く発光してる、ふしぎな通路が展開されていた。
『す、す、すごいっすよ! ヴィルさん!』
これを、俺の目を通して見たロウリィちゃんが叫ぶ。
『ここ、七獄のなかっす!』
「せぶんす、ふぉーる……?」
聞いたこと無いな。
『世界に七つ存在するとされる、超超超レアなダンジョンっす。いわゆる、隠しダンジョンってやつす!』
「へー……」
聞いたこと無いな。
『七つあるとされるダンジョンなんすけど、今んとこ見つかってるのは1つだけなんす』
「じゃあその見つかってるダンジョンの1つの中?」
『いや……大気中に人間の発する魔力の残滓……残り香がないっす。つまり、ここのダンジョンには人が入ったことがない。……ヴィルさん以外』
ええと。
七獄ってという、超激レアなダンジョンがこの世界には存在して。
そのうちの1つが、ここってこと。
七つあるうちの、未発見のダンジョンのなかに、俺がいるってことか。
『す、すげえっすヴィルさん! 誰も見つけられなかった超すげえ隠しダンジョンを、見つけたんすから!』
「はー……」
しかし、ふと思った。
でも、じゃあこの工房は、どうやって作られたんだと。
だってその未発見ダンジョンのなかに、工房を作ったんだったら、その人もこのダンジョンを訪れてるはずだろ?
でも人の気配がないって……。
ううむ、謎だ。




