16.壊れた結界を一瞬で治す
俺、ヴィル・クラフトは王国で鍛冶師をしていた。
婚約者と弟に裏切られてキレた俺は、技術向上のための旅に出る。
道中、雷の聖剣を使う勇者ライカ・サンダーソーンと出会い、彼女の呪いを解いた。
そして現在、俺は馬車に乗って、帝国の主要都市、帝都カーターを目指していた。
「わるいな先生。ご足労いただいて」
「別にお金なんていいのに」
「そうはいかねーよ。あたいの目を治してくれたんだ。対価はきっちり払わないとな!」
ライカは帝国に所属する勇者。
国はライカに活動資金と、そして何かあったときの保障もしてるとのこと。
今回ライカは目を治してもらったので、その治療費を国に請求するんだとさ。
それで、帝都に向かってる次第。
「ライカ様。右目、神器になったのですよね?」
俺の真横には狼獣人の少女、ポロが座っている。
「どのような効果を持った、神器になったのですか?」
「ふふん。見てろ」
ライカは目が治ってもなお、眼帯をつけている。
ぴら、と眼帯をめくってみせた。
「!?」
ポロが急に体をこわばらせる。
前は、見たものを無差別に殺す邪眼だった。
しかし今は別の効果を示している。
「これがあたいの新しい目、神器《時王の眼》」
ライカが眼帯を戻すと、ポロが動けるようになる。
「か、体が完全に硬直してました」
「この目には時間を操作する能力があるんだ」
俺が説明すると、ポロが目を大きくむく。
「じ、時間の操作ですか?」
「そう。たとえば、見た対象の時間を止めて、動けなくするとか。修練をつめば、ほかにもいろいろできるようになるぞ」
「そ、そんなすごいアイテムを作ってしまうなんて……! すごいです、ヴィル様!」
なんで効果がわかるのか?
ううん、難しい。
作ったから、としか答えられない。
完成させた瞬間に、その構造、効果が頭の中に直接流れ込んできたんだよなぁ。
「職人として進化してるってことなのか?」
「ふっふっふ、先生。忘れてはいないかい?」
にんまり、とライカが俺に不敵な笑みを向ける。
「あたいが勝ったら、あたいの男になれと!」
「おー、そうだったな」
「つまり! この目を使えば、先生を今ここで、倒せるということ! くらえ!」
ライカが俺に時王の眼を向けてくる。
見た対象の時間を止めて、動けなくする。
「先生! 御覚悟を! とりゃー♡」
ライカが武器を持たずに、俺に向かってダイブしてくる。
むちゅ~っと唇を突き出しながら、俺にキスをしようとしてきた。
「おいしょ」
ひょい。
「ふぎゃあ!」
ライカの顔面が壁に激突する。
そう、普通に動けているのだ。
「な、なんでさ……!? 先生! どうしてあたいの神器が、効いてないの!?」
「まあ、作ったの俺だからな」
? とポロが狼しっぽをくねらせる。かわいい。
「どういうことでしょう?」
「神器を完成させて、わかったことがある。神器を完成させた人物を、その神器で攻撃ができない」
たとえば闇の聖剣の場合。
神器装備者(※ポロ)は、作成者(※俺)を攻撃できない。
ライカの神器【時王の眼】を作ったのは俺だ。
つまり彼女の時止めの力は、俺には通用しない。
「なんだいそのくそルール! ずるだよずる!」
「しかしなんでそんなルールがあるんでしょうか?」
俺は肩をすくめていう。
「神様は自分で作った神器で、人間に殺されたくないんだろ。ま、安全装置なんじゃない?」
たぶんね。
「すげえや先生。そんな誰も知らないルールを見つけちまうなんて! すごすぎるぜ!」
「そりゃあどうも。しかしまあ……神様ってのも存外臆病なんだなぁ」
安全装置なんてつけるなんてね。
そんなこんなありつつ、俺たちを乗せた馬車は、帝都カーターの近くまで来た。
「あれが帝国で一番栄えているとこ、帝都さ」
「ほー……。お?」
俺の目に、何か変なものが映った。
ごしごし、と目をこする。
しかし、ううむ、見える……。
「どうしたのですか、ヴィル様?」
「いや……なんか街を覆ってる、光のドームみたいなのが見えるんだが……」
帝都の上空に、うっすらと光のドームが張ってあるように見える。
しかしポロも、そしてライカも首をかしげる。
「そんなの見えないぜ?」
「私もです」
となると俺にしか見えていないってわけか。
『創造主よ』
ポロの腰につけられている、闇聖剣 夜空が言う。
「どうした夜空?」
『主が見えてるのが、街を守る結界じゃ』
「え、ええ!? そうなん?」
人の住んでいる町には、魔物をよける結界が張られてる。
その結界を発生させる装置は、街にひとつあって、そこから結界が作られてる。
「結界装置は見たことあったけど、結界を見たのは初めてだ」
『それは当然だろう。人間には結界が見えぬからの』
「え、俺見えてるんだけど?」
俺も、王都にある結界を目視したことはない。
でも、今は見える。どうなってんだ?
『おそらく、職人としてのレベルがあがったのだろう』
「なるほど……物をつくる腕があがったから、それを見極める目もレベルあがったと」
たしかにものを分解することで、ものに対する理解度もあがるもんな。
「すごいです、ヴィル様! 人間じゃ見えない結界を、見れるようになるなんて!」
「いやいや……って、あれ? やばいぞ、結界がちょっと壊れかけてる」
薄い光の膜の一部分に、ひびが入ってるのだ。
結界が壊れたら大変だ。
みんな困っちまう。
「直すか」
神槌を手にもってそう宣言する。
すると、街の結界に巨大な魔法陣が出現する。
「え、なんだこれ?」
俺の目の前にも同じ形の魔法陣が出現する。
……どっかで見たなこれ。
「あ、ライカの邪眼と同じだ」
神器に変えるときに、出現した魔法陣。
なるほど、この魔法陣が、結界に効果を付与しているのだ。
ならば、ライカの時と同じことをすればいい。
「分解して、再構成!」
俺は魔法陣をたたいて砕き、あたらしく魔法陣を作り替える。
するとひび割れていた部分が一瞬で元通りになった。
そして、かっ! と七色に強く輝いた。
「ヴィル様! 町の上空に神々しい光が!」
「す、すげえ! 先生がやったのかいあれ!?」
俺がうなずく。
たぶんあれで直っただろう。
「さすがだぜ先生! 結界を一瞬でなおしちまうなんて!」
「ううーん……普段だったら、結界装置のほうを直さなきゃいけなかったのに、直接直せるようになるなんて……」
やっぱり職人としてレベル上がったのな。
「これは皇帝陛下に報告しねーとだな!」
「いやぁ、別にいいだろ」
「よくないよ! ちゃんと褒めてもらわないと! これはすごいって!」
俺は別に人に褒めてほしくって、アイテムを造ったり直したりしてるわけじゃあないんだがなぁ。




