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政変後始末

 曹爽一派の処分が始まった。

 表向き、皇帝に対する不敬が理由である。

 「曹爽の罪を弾劾するように」と司馬師に言われ、保身を図った何晏から、これでもかと罪状が出された。


 これを裁き、判決を下す役割は高柔、王観が行っている。

 高柔は元々司徒(宰相)、それ以前には司空(司法官)である。

 王観も裁判を担当し、曹爽専横時代も何度か彼等の横暴を掣肘していた。

 この二人は、何晏の弾劾を概ね可とした。

 ホッとする何晏。

 しかし、二人からもっと恐ろしい宣告を受ける。


「何晏殿には先帝弑逆の疑いこれ有り」


 何晏は真っ青になった。

 アレが気づかれる筈が無い。

 僅かにひと月余りの事で、しかも十年以上も前の事ではないか。

 しかし、堂々と先帝の弑逆と言って来ている以上、奴らは何かを掴んでいるに相違ない。

 しかも彼等は

「五石散という仙薬について、既に調合を行った薬師や、材料を調達した商人を抑えておる」

 と言う。

 こうなっては開き直り、彼等が襤褸(ぼろ)を出すのを見つけ、逃げ延びるしかあるまい。

 全ての証拠、証人を抑える事は不可能だ。

 どこかに彼等の知らぬ事がある。


 だが議論にはならなかった。

 司馬懿が何晏の前に現れ

「罪人の中に何晏の名も書き加えるよう」

 それだけ言って立ち去った。

 議論は、させてすら貰えなかったのだ。


 かくして曹爽・曹羲兄弟の他、何晏、李勝、桓範が連座して三族皆殺しとなった。

 司馬懿は「皇帝に対する不敬」と言った表向きの理由はともかく、裏の「先帝弑逆の罪」または「敵国より財貨を得て、利便を図った罪」というものと、無関係の桓範は見逃してやろうと思っていた。

 しかし、桓範の方が

「司馬懿こそ魏に仇為す奸臣!

 曹爽の専横は皮膚病のようなものだが、司馬懿のそれは肺腑に達する病である」

 と誣告して回っていて、最早殺す他に致仕方が無かった。


 だが、この気骨の士に対し、司馬懿は一つ言っておかねばならぬ。

 密かに獄より呼び出すと、司馬師、司馬昭、司馬孚、司馬望のみで桓範と会う。

「これから殺す相手に、一体何を言う事があろうか?」

 桓範は堂々としている。

「何故吾等が兵を挙げたか、その真意を聞かせようと思うてな」

「今更聞く事等有ろうや?

 全ては司馬一族の天下を私する野心より出るものだ」

「最後まで聞け、頑迷なだけの愚蠢(おろかもの)が!」

 司馬懿の声が殺気を帯びる。

 桓範は畏れた訳ではないが、この政敵が何かを伝えようとしていると察し、聞く姿勢に居住まいを改めた。


「先帝は毒殺された。

 一月余り少量ずつ、毒薬を飲まされていた。

 一度で効くようなものではなく、僅かずつ生命を奪う毒であり、気付かれなかった。

 もし儂が遼東に遠征していなかったとしても、その時は気づかなかったかもしれぬ」

「では、何故気付いたのか?」

「曹爽大将軍の側近たちが、皆、先帝陛下に恨みを抱く者たちばかりであった。

 だがこれは疑いの一つに過ぎぬ。

 もう一つ、銭の異常な流入が有った」

「銭だと?」

「うむ。

 蜀の地で作られた、質の良い五銖銭。

 その方も知っての通り、蜀に籠る者どもと我等は戦って久しい。

 商人が銭をもたらしてはおるが、それにしても量が尋常ではない」


 ここで司馬孚が口を挟む。

「自分は度支(たくし)尚書をしていました。

 兄が諸葛亮と戦っていた時は、後方より物資を補充しておりました。

 曹爽殿が蜀と戦った駱谷の戦い、あの記録を見ましたが、不自然です。

 戦いに銭が随分と使われていた他、帰国後に曹爽殿や夏侯玄殿の財貨は更に増えておりました。

 あの戦いで何かを得た訳でも無いのに」

「ふむ、確かにあの者たちは贅沢をしておった。

 じゃが、それは諸葛亮死後に我が国が豊かになったからでは無いのか?」

「国が豊かになるとは、国に銭が有る事ですか?

 それとも廷臣に銭が有る事ですか?

 はたまた農民や商人に銭が有る事ですか?」

「…………」

「先帝は商人や廷臣が持っていた銭を奪った。

 そして宮殿建設に人民を動員したが、この時に銭で民に支払いをしている。

 先帝は暴虐なように見えて、銭を民に渡そうとしていた」

「それで?」

「しかし今、民に銭が行き渡っている訳ではなく、曹爽側近の貴公子たちが遣っている。

 先帝はそういった不当に銭を得ていた者を処刑し、得た銭をばら撒いていた。

 それで都合が悪い者が、先帝を密かに弑逆する挙に出たものと、吾等は考えたのじゃ」


 桓範は沈思する。

 成る程、言い分は通っている。

 彼から見ても、何晏や夏侯玄、李勝ら多くの者たちの財力は異常だった。

 先帝によって免官されていた者たちが、この十年程で国を動かすまでの財力を持った。

 その銭は蜀から……。


「曹爽や何晏、更には夏侯玄らが隴西を攻めた時、或いは駐屯している時に、蜀から銭を得ていた。

 それ以前から蜀より不自然な銭の流れがあり、その銭を奪おうとした先帝が弑逆された。

 お主はそれ故立ったと言いたいのだろうが、確たる証拠は有ったのか?」

「無い」

「では、いくらでも話を作れようぞ。

 大体、確かに弑逆したと分かったなら死罪は当然じゃ。

 だが、贅沢をしていただけなら、曹爽殿を廃する理由にならぬ。

 蜀の銭を得ているという事は、蜀の富を奪っている事。

 蜀は曹爽を買っているように見えて、己の国富を吐いておるのだ。

 おかしいではないか?」

「ふむ、それが判るだけ、そなたは殺すのが惜しいの」

「ふざけるな!」

「そこから先が儂にも判らぬ。

 だが、このままでは危ういという事は気づいた。

 正しいか間違っているか分からぬ。

 蜀が何を考えておるのか、知る為には吾等は再度この国の政治に返り咲かねばならぬ。

 吾等が牛耳らねば、見えぬものも在る」

「やはり司馬一族の野心ではないか!

 儂はそのようなものを許す気は無い!」

「だが、一言言って置きたかったのよ。

 お主は明日、曹爽の謀反に連座して死ぬ。

 お主は死後の国で、吾等の危惧が正しかったのか、誤っていたのか、確かめるが良い。

 言いたいのはそれだけよ」

「相分かった、この謀反人どもが。

 そなたたちの野心は許せぬが、蜀との目に見えぬ戦が真実とあらば、あの世から応援してやろう。

 今日はわざわざ招いて貰い、(かたじけな)い。

 良い土産を貰ったわ」


 こうして桓範ら曹爽一派は処刑された。

 司馬懿は丞相の位を与えられるが、、これを固辞する。

 そして二年後、司馬懿は死の床に就いた。


 王淩(おうりょう)という男がいる。

 かつて董卓を殺した王允の甥にあたり、現在は専ら呉と対峙している。

 その王淩が、幼帝を廃位し、文帝の弟の一人・曹彪の擁立を企てた。

 司馬懿はそれを察知し、王淩を処罰した。

 王淩は刑が決まる前に服毒自殺し、三族は皆殺しとなる。

 曹彪は自身を擁立する計画に乗ってしまい、勅命により死を命じられる。

 そして魏の王族を全て鄴に集めて軟禁し、互いに連絡を取れないようにした。

 これにて司馬一族は、皇族をも超える実権を握る事となった。

 そしてそれが司馬懿最後の仕事となる。

 王淩の乱の一切を片づけると、司馬懿は病床に伏した。


 司馬孚は、兄から彼のみへの特別な仕事を遺言される事になる。

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