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三国志銭記 ~魏蜀通貨戦争~  作者: ほうこうおんち
最後の三国大戦の章
36/52

中盤戦

 文欽・文鴦・文虎父子が一万の兵を率いて寿春に入城した時、犬猿の仲であった諸葛誕と文欽は手を取り合って再会を天に感謝した。

「嗚呼、文将軍よ、貴兄を逐った我が身の不徳が堪らなく情け無い。

 あの時数年後を知っていれば、儂は将軍と手を組んで、簒奪者と戦っていただろう」

「諸葛将軍、過ぎた事はもう良い。

 これから司馬の児をこの寿春にて討ち取り、富貴を共に得ようぞ」

「文将軍は魏に帰参為さるか?」

「無論の事。

 じゃが、もう呉とは戦えぬのお。

 天下は三分、三国は共に栄えるのが今の世に最も合っておるやも知れぬ」

「うむ、謀反人を討った後には、協力してくれた呉と蜀には州を割いて礼をせねばなるまい。

 ところで、呉は確かに大軍を発したな?」

「儂がこの目で見た。

 先遣隊三万、遊撃隊三万、孫丞相(孫綝)の本隊が三万じゃ。

 これに荊州より二万が動くと言う」

「十一万か。

 我が十三万と合わせれば十分じゃな」

「おう、それに我が倅の武勇があれば、司馬一族の軍等一溜りもあるまい」

 やがて文欽が言った通り、呉皇帝外戚の全氏一族、及び魏降将の唐咨の軍も入城し、寿春の兵力は十六万となった。

 将たちは勝利を確信し、酒宴を開く。

 呉には寿春含む揚州北部と豫州と徐州を割譲、蜀は成果次第だが涼州を渡そうか、等と話していた。


 ……二頭の虎が、まだ狩らぬ餌を思い浮かべて笑い合っていた時から一ヶ月が過ぎようとしていた。




 七月、安豊城に入った呉の朱異軍は、王基・陳騫率いる寿春包囲陣に攻め寄せた。

 王基は、寿春の十四万の兵を避けて北に陣をうつすよう指示した司馬昭に対し、このまま包囲陣を作った方が良いと説得してこの地に留まっていた。

 朱異軍は荊州に一度味方の孫壱を謀殺すべく進行した後、果たせないまま長駆して寿春の戦場に駆けつけた。

 安豊城で休息を取ったにしても、疲労は抜けていない。

 そのまま陣地に篭って戦う同数の王基・陳騫率いる魏軍を攻め切れない。

 そこに遊撃隊から州泰、胡質の部隊二万が背後から襲い掛かる。

 挟撃された朱異だったが、何とか二千の被害を出しただけで脱出に成功、建業まで逃げ帰った。


 敗報を聞いた呉の皇帝孫亮は、大将軍孫綝に出陣を命じ、自らも建業を発した。

 魏も皇帝親征の形とし、大本営は洛陽から許昌を経て頂城に移っている。

 奇しくも魏・呉双方とも皇帝が都を出て軍を指揮する形となった。

 そして魏の大将軍司馬昭は礁、呉の大将軍孫綝に自身の本営を置く。


 動いたのは呉の大将軍孫綝である。

 朱異に丁奉・黎斐・任度・張震の兵五万を率いさせて寿春包囲陣攻撃を命じる。

 汚名返上を図る朱異は、都陸の地に輜重部隊を置いて、電撃的に寿春に進行した。

 そして任度と張震に命じ、外部包囲陣地を攻撃すべく敵前に砦を築かせた。

 遊撃隊の石苞と州泰は、砦が完成する前に呉軍を攻撃、呉軍六千は砦を放棄し、小高い丘に陣地を移した。

 同じ頃、朱異は車箱(装甲車)を作り、包囲陣の一角・五木砦を攻める。

 この攻城兵器出現に魏の守将は救援要請を出す。

 報せを聞いた石苞と州泰は五木砦に急行し、攻城中の朱異軍を側面から攻撃する。

 これを呉の丁奉が迎え撃つが、両将の猛攻を防ぎ切れず、朱異本隊は一度兵を引く。


「少し脆いと思わないか?」

 石苞が疑問に思う。

 朱異軍は別働隊を出しているとは言え、四万の兵力であり、二万の石苞・州泰より多いのだ。

「敵があっさり引く時は、罠が有る時と、引かざるを得ない事情が有る時だろう」

「貴殿はそのどちらだと思う?」

「罠に嵌めようという動きは無かった。

 ならば後者であろう」

「では間者を出し、そこら辺を探ってみるか」


 数日後、再び朱異は車箱を前面に立てて攻撃して来た。

 魏軍はそれに対し

「発石車、放て!!」

 武帝(曹操)が官渡の戦いで発明した投射兵器を使って防衛する。

 弓矢を弾き、火矢も防ぐ鉄板を貼った車箱だが、上から巨石をぶつけられてはたまらない。

 夕刻には朱異軍は再度撤退した。


 そして間者が決定的な情報をもたらす。

「敵陣には最低限の兵糧、物資しか有りません。

 何処からか運び込んでいます」


「腹が減っては戦えんという訳か」

「輜重を切り離し、精鋭だけで駆け付けたという事だな。

 無駄に時を費やすよりは良いが……」

「胡烈将軍に輜重基地を襲って貰いましょう」


 伝令を受けた胡烈は騎兵五千を率いて呉軍の背後に進出する。

「居たぞ、呉の輜重部隊だ。

 基地に戻るところだろう。

 後をつけるぞ」


 こうして都陸の物資集積基地を見つけた胡烈は、夜を待って焼き討ちを掛けた。

 朱異軍の継戦能力は失われた。


「そうか、胡烈将軍はやってくれたか!」

「なれば、次は我々の番だ」

 石苞と州泰は、補給を取りながら交互に朱異軍を攻め続ける。

 波状攻撃を何度も撃退した朱異であったが、ついに限界を迎えた。

 食糧の尽きた朱異軍は、兵士から崩れ始めた。

 それは次第に総崩れへと移行する。

 朱異と丁奉は何とか、残兵を纏めて戦場を離脱する。


 補給の尽きた朱異軍は、道端の葛の葉を食べながら、ひたすら南に向かって退く。

 石苞と州泰は執拗に追撃を行う。

 殿しんがりの丁奉は、追撃部隊を何度も撃退し、功を立てた。


 だがそこに新手の魏軍が現れる。

 朱異軍の攻撃を知らされた司馬昭が派遣した、司馬亮率いる援軍であった。

 一万の司馬亮軍が、疲弊し切って二万を切る迄に減らされた朱異軍を壊滅するのは時間の問題


 ……と思われた。


 そこに呉軍にとっての奇跡が起こる。


 司馬亮軍の後方と側面を、別の呉軍が襲撃する。

 旗印から陸抗軍と、同じ陸一族の陸凱軍である。

 これに丁奉が、まだ戦える兵を糾合して司馬亮軍に攻め掛かる。

 三方から攻められた司馬亮はたまらず、北に向かって遁走した。


「陸将軍、助けて頂き感謝致します。

 しかし、何故此処に?」

「朱将軍の五万だけでは足りぬと思い、大将軍に進言して援軍に駆け付けたのです。

 されど寿春に近づくと、朱将軍が敗れたと聞きました。

 それで魏軍の後をつけて来たら、上手く朱将軍の軍を見つけられたのです」

「忝い、忝い」

「さあ、兵糧も有ります故、食べて気を取り直して、帰陣しましょうぞ」




 八月下旬、こうして鑊里かくりに戻った朱異を待っていたのは、懲罰ではなく、再度三万の兵を率いての寿春包囲陣攻撃命令であった。

「無理だ!

 あの陣は三万では攻略不能だ!」

 朱異は出撃を拒否し、病気と称して自陣に引き籠る。

 呉の独裁者・孫綝は、臆したとか、負けを口にした事より、自分の命令に逆らった事に激怒する。

 九月一日、孫綝は朱異を呼び出した。

 命令に従えないなら、どうしたら良いか献策せよと言うのである。

 守りの堅い寿春ではなく、比較的手薄な荊州から洛陽を狙えば、魏軍は兵力の再配置を行わざるを得ず、それで寿春は解囲される、というのが引き籠っていた時に朱異が考えた作戦である。

 古典的な「囲魏救趙」の計である。

 これを携えて孫綝の本陣に向かおうとした朱異の元を陸抗が訪ねて来て、行かないよう説いた。

「大将軍は器が小さい。

 自分の命令に従わなかった事で、きっと貴兄を殺すだろう。

 このまま陣を払って建業に帰還し、陛下の赦しを乞うのです」

「陸将軍は心配性だな。

 儂は仮にも陛下に任じられた将軍である。

 将軍職にある者を、大将軍と言えど勝手に処罰は出来ないだろう」

「重ねて申し上げます。

 大将軍は危険です。

 ことわりでなく感情で行動します。

 どうかお逃げ下さい」

「陸将軍はこのまま我が陣に留まりあれ。

 夜戻って来たら、無事を祝って酒宴を開くゆえ」

 笑いながら陸抗の進言を聞かなかった朱異は、そのまま孫綝に捕らえられ、彼の一存で処刑された。


 同時期、建業において全公主(孫魯班)は、弟である皇帝から、朱公主(孫魯育)の死について詰問されていた。

 孫魯班の妹の孫魯育は、姉の讒言により殺された。

 末弟である皇帝が再調査したところ、孫魯育の罪は冤罪と分かった。

「姉上、これは如何に?」


 孫魯班はまたも讒言をする。

「私は本当のことは良く知りませんが、孫魯育の息子の朱熊と朱損が言っていたのです」

 朱熊と朱損は、孫魯育が最初に嫁いだ朱拠との子である。

 皇帝孫亮は何かしばらく考えた後、朱熊と朱損を捕らえるよう命じる。

 ホッとした姉に向かい、皇帝は言った

「貸しましたぞ、姉上」


 何らかの皇帝の思惑もあり、朱熊と朱損は誅殺される。

 朱異と朱拠父子は、呉郡呉県から出て呉帝国を支えた「呉の四姓」朱氏一族である。

 遠征軍司令部と首都で、朱家の主要な人物は殺され、この一族は壊滅状態となる。


 それは自分の足を斬り捨てるような愚行であった。

 孫綝は、朱異に代わって自身の弟・孫恩を将軍にしようとしたが、人望が有った朱異を殺した事で呉軍の士気は底となる。

 にも関わらず、呉の自滅はこの先も続くのだった。

司馬亮対陸抗・陸凱の件、想像です。

司馬亮、この戦役で失態を演じ免官処分されている。

陸抗、朱異の撤退戦で功を立てる。

陸凱、この戦役に参加して功を立てる。

陸抗の駐屯地は荊州江夏郡柴桑県、陸凱の駐屯地は荊州江夏郡武昌県とすぐ近く。

なので陸抗と陸凱が揃って朱異の援軍に行き、司馬亮を撃破した事にしました。


他の戦場は、

寿春:王基、陳騫、石苞、州泰、胡烈、胡質

芒水:鄧艾、司馬望

とガチガチに守っていて、司馬亮が免官される程の場面は無さそうでした。

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