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王子様は一級死亡フラグ建築士 ~城からパクってきた銀のスプーンが黒く変色した件~  作者: 藤原ゴンザレス
鳥籠の中の二人

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逃走

 エドワードは目覚めなかった。

 焦ってもしかたがない。

 俺たちは寝ることにした。

 俺は床に敷いた虎皮の敷物に寝転がった。


 頭の片隅では胸に去来したあの違和感を考えていた。

 エドワードは捕縛。

 妹のキャロルも事情聴取のために城にいてもらっている。

 兄と恋仲なのは知っている。

 でも引き離すしかない。

 そうだ。それが一番いい。

 俺個人は面倒くさいし自由にしてもらってもいいのだが、まだこの世界はそれを許さないだろう。

 それにエドワードは罪人だ。

 どう思案してもそこに幸せはない。

 だとしたら引き離して良い思い出にしてもらうしかない。

 それでも貫き通すのなら俺にはなにもできない。

 でもそれでいいのだ。

 俺は王だが神じゃない。

 どうやったって手の平から漏れてしまう民はいるのだ。


 俺は寝ることにした。

 20キロ近い装備で全力疾走したのだ。

 明日は確実に筋肉痛だろう。

 今は体を休めるのが仕事だ。

 フィーナは最近怒りっぽい。

 だけど、フィーナが怒るのは俺が無鉄砲な行動に出たときだ。

 フィーナは俺を心配をしてくれているのだ。

 それはそれでなんだかうれしかった。


 俺は床に引いた毛皮のマットに寝転がる。

 ベッドはソフィアとフィーナ。

 ソファーはマーガレットに取られてしまったのだ。

 俺とフィーナとソフィアだけなら堂々とフィーナのベッドに潜り込むところだが、マーガレットがいるからフィーナに恥をかかせるわけにはいかない。

 それに女の子を床に寝かすわけにいかない。

 結局のところ俺は床で寝ることにしたのだ。


 夜が明けたころ事態が急転した。


「失礼します!」


 兵士がノックをすると慌ただしく部屋に入ってきた。

 俺はそのとき床に敷いた毛皮の上で寝ていた。

 だが足音を聞いて飛び起きることができないほど俺はポンコツじゃない。

 すぐに飛び起きた。


「なんだ!?」


 気の早い筋肉痛でひぐっって言いそうになったが、すんでのところで俺は悲鳴を飲み込んだ。


「御就寝のところ失礼いたします。エドワードですが、逃走いたしました!」


「はい?」


 ごめん、なに言ってるかわからない。

 なんで逃げられてるの?


「……なにがあったんですか?」


「弓使いは二人でした。もう一人の弓使いが牢を襲撃しました。騎士が数名負傷。傷は浅いです」


「あのバカども!」


 俺は鬼の表情になった。

 もう俺はだいたいの真相はわかっていた。

 汚職の犠牲者は汚名を被せられ殺害された二人の判事だ。

 二人には子どもがいた。

 片方は男。

 片方は女だ。

 男がエドワード。

 女がキャロルだ。

 ここは推測だが二人は復讐のため兄妹と名乗ることにした。

 貴族株は二人が両親から相続した財産で買ったのだろう。

 最初は復讐の共犯者というだけで、お互いにそれほど興味はなかっただろう。

 でもお互い惹かれ合ってしまった。

 おそらく復讐をやめようという話になったに違いない。

 マーガレットと同じで二年時からの公文書の閲覧許可にすべてを託してたのだろう。

 そこでなにも出なければもうやめようと。

 でも運命とは皮肉なものだ。

 キャロルは出会ってしまったのだ。

 仇の息子に。

 そして仇の息子はキャロルに求婚した。

 それに激怒したのだ。

 第一の事件はエドワード……いや違う。

 エドワードはハイランダーの気質の解釈が間違っていた。

 俺たちはそんなに好戦的ではない。

 ただ無鉄砲なのだ。

 それにエドワードの弓は重かった。

 あの弓で貫かれたら死ぬ。

 エドワードは犯人ではない。


 ……そうだ。


 犯人は……

 モーリスに求愛されて激怒したのは……


 キャロルだ。


 だから俺は一晩おいて落ち着いたらキャロラインを尋問しようと思ってたのだ。

 キャロラインはモーリスの求愛を受けて激怒した。

 そしてモーリスを弓で射った。

 モーリスはテラスから落下した。

 これが第一の事件だ。

 一人に手をかけ、心理的にキャロルは自分を犯罪者だと思い込むようになった。

 どうせ自分はダメなやつだと。

 少年犯罪におけるラベリング理論だ。

 それは彼女の精神を不安定にした。

 だから人によって印象が変わったのだ。

 次に二人は俺に近親相愛者で悩んでいるという印象を植え付けた。

 俺ならそういうのを見たら悩んでどうするか考えると思ったのだろう。

 つまり時間稼ぎだ。

 そして時間稼ぎで得た時間を使ってキャロルは最高法院長への復讐に着手した。

 殺さなかったのは見せしめのためだろうか。

 それはわからない。

 エドワードは俺の手が間近まで近づいていると思っていた。

 だからあんな小芝居を打ってまで俺に挑み、自分が犯人であると訴えた。

 これはすべてキャロルのためだ。

 それを理解しているのかしてないのかはわからないが、キャロルはエドワードを救出した。

 本当だったら「逃げちゃいました」で終わらせてやってもいい。

 だけど今はダメだ。

 最高法院がこのまま大人しく指をくわえているはずがないのだ。

 キャロルとエドワードが危ない。

 たとえ罪人であっても私刑は許されない。


 俺は一瞬で頭を切り換えた。


「捜索の用意を」


「は!」


 詳しい話は現場で聞けば言い。

 ミッションは最高法院の連中を出し抜いて二人を助けることだ。

 バカな連中だ。

 俺の手元にいれば安全だったのに。

 いや俺の現状認識が甘かった。

 逃げないはずがないのだ。

 だって二人は俺たちを信用していない。

 この学園ですら二人を縛る鳥籠のように思っていたのだ。

 俺はケルベロスの鎧を引っ張り出した。


「陛下」


 ソフィアは起きていた。

 俺は鎖かたびらを着ると胸鎧を鎖かたびらの上から着用した。

 ソフィアは俺の同鎧の金具をはめていく。

 レガースの金具をはめ爪をあしらった手甲をつける。

 真紅のマントは嫌いだ。

 でも嫌々着用する。


「兜を」


 ケルベロスの顔をあしらった兜を被る。

 これで用意はできた。

 最後にソフィアが俺に剣を差し出す。

 片手で扱える小ぶりのソードだ。

 これはあの王の剣だ。


「ありがとう」


 俺はソフィアから剣を受け取ると部屋から出た。

 俺の育ての親である先王は人の気持ちがわからない男だった。

 この件も真剣に取り上げなかったに違いない。

 親の不始末を子どもが解決する。

 それが俺の義務なのだ。

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