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王子様は一級死亡フラグ建築士 ~城からパクってきた銀のスプーンが黒く変色した件~  作者: 藤原ゴンザレス
鳥籠の中の二人

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第零軍

 第零軍がやってきた。

 道化師の服を着て。

 何を言っているかわからないだろうが、一番混乱しているのは俺だ。

 道化師に扮した第零軍は笛と太鼓を鳴らしながら行進し勝手に広場にキャンプを設営。

 楽団が陽気でユーモラスな曲を演奏し、樽に乗りながらのジャグリング、クラウンの話芸に動物のショーが繰り広げられる。

 さも当然のように、おのおの大道芸を披露していたのだ。


「事故で気分が沈んでいる皆さんを元気づけようと陛下が私どもをお呼びになりました!!!」


 と、第零軍将軍兼王宮道化師兼先王の寵姫の愛人で、しかも俺の実の父親という酷い肩書きを持つゲイルが言い放った。

 なにも聞いてねえぞ。

 俺はこめかみに青筋を立てながらニコニコ笑いながらゲイルの横についた。


「みなさん偉大なる陛下に感謝をー!」


 俺はニコニコと笑顔で手を振った。

 広場のあちこちから大きな拍手が鳴り口笛が鳴った。

 もちろん腹の中ではガッデムファッキンサノバビッチと汚い言葉を連呼していた。

 いい加減にしないと殴るよ。家庭内暴力に走っちゃうよ。わりと本気で。


「すまん。ギュンターの発案だ」


 小声で父さんがささやいた。


「なんでよ?」


「いきなり軍隊が入ったらみんな怖がるだろ? みんながレオンみたいに鋼のような精神をしてるわけじゃないんだからさ。それにギュンターの所の兵隊は顔が怖い」


 俺への評価が酷すぎるが、なるほど名案だ。

 ギュンターの所の連中はおもわずチビリそうになるほど顔が怖い。

 第二軍の警備を第零軍の道化師で緩和する作戦か。


「それにみんな大きな舞台で芸を披露する日を夢見てたんだ」


 父さんは目を輝かせていった。

 オイコラ。

 第零軍は軍と言うよりは諜報組織に近く、軍の指揮系統の外にある。

 なので兵に給料を払うために名目上芸人やメイドとして登録している。

 もちろんうるさい貴族に突かれないようにちゃんと芸人やメイドの訓練もしているのだ。

 こういった一般向けのスキルを磨くのも潜入任務とかに役に立つので無駄にはならないのだ。

 でも今の発言だと芸人が主で副業がスパイだよな。お前ら。

 俺はジト目で父さんを見る。


「ささ。陛下もいつものアレを見せてください!!!」


 父さんが人に聞こえるようにわざと大きな声を出した。

 ごまかしやがったな!

 すると陽気でユーモラスな音楽を演奏をしてた第零軍の楽団がアップテンポの曲を演奏する。

 俺が某キングオブポップスの曲をうろ覚え、しかもこの世界の音源で再現した曲だ。

 もう、しかたないなあ!

 俺はその場でダンスを始める。かなりノリノリで。

 普段から半端ない量の訓練をこなしているせいかその動きはキレッキレだ。

 観客の手拍子が聞こえてくる。ウケてるウケてる!

 ヴァイオリンとリュートの音がする中、完全に調子の乗った俺がムーンウォークを見せる。

 まだこの世界にはないテクニックだ。

 ふははははははは!!!

 こうして俺は曲が終わるまで踊り狂った。

 音楽が止むと歓声が響いた。


「陛下! 陛下! 陛下! 陛下! 陛下! 陛下! 陛下!」


 調子に乗った騎士学科の連中が陛下コールをする。

 がははははははははは!!!

 もっと褒めよ! 讃えよ!!! がははははは……



 ……踊り終わると俺は第零軍の芸人どものテントの裏で頭を抱えて座っていた。

 軽く死にたくなったのだ。

 ぽくぽくぽくちーん。

 やらかした後の賢者タイムって凄く辛いよね。

 ゲロ吐くまで酒飲んだ後の二日酔いって言うか……

 もう二度としねえって思うんだけど気づくと繰り返してるのな。

 人間ってどうしようもない生き物だよね。滅びればいいのに。


「レオンどうした」


 生気を失って壊れている俺を心配した父さんが声をかけてきた。


「……おいどん死にたいです」


「あー……芸人って言うのはステージの後にみんなそうなるもんさ。まったく国王(げいにん)ってやつは因果な商売だな……」


 今さりげなく国王って書いて芸人って読みやがったぞ。この人。


「ただでさえ私は調子に乗ると失敗するのに……煽るのはやめてください。全力で調子に乗りますから」


「たまにはいいじゃないか。人間は失敗を繰り返して成長するもんさ」


「そういうもんですかね……」


「俺の10代のころよりは大分マシだって」


 そう言って父さんが背中をバンバンと叩く。


「なあに俺だって、ひげ面に女装して貴族達の前で歌って踊ったあとは死にたくなったものさ……」


 父さんは遠い目をして言った。

 俺の鼻から鼻水が垂れた。

 俺の芸人気質は完全に遺伝だ……回避不可能なのだ。

 俺はバカと言う名の十字架を背負って生きていくのだ。

 だが落ち込んだのは俺だけじゃない。

 父さんも俺の横で頭を抱えて座り込んだ。

 どうやら言葉のドッジボールは相討ちに終わったようだ。

 俺たちに言葉は必要なかった。

 生きるのって辛いよね。ホント。

 だけど落ち込んでばかりはいられない。


「そういや任務ですが……」


 俺は量産体制に入った親子二代にわたる黒歴史から目を背けて事件の話をする。


「おう。どうする?」


「不審者を見つけました」


「どこで?」


「夜中フラフラしてたら廊下で」


「……レオン、殴っていいか? 主に教育的制裁として」


 酷い。

 いたいけな息子に暴力を振るうダメ親がいるー!

 と、ふざけている場合じゃない。

 一応ちゃんと言い訳しとかなければ。


「危険性はありませんよ。鎧を着てましたが中身の予想はついてます」


 たぶん、ありゃ知り合いだ。

 それも予想はついている。


「そうなの?」


「ええ。だから不審者がくれた情報を調べて欲しいんです」


「情報?」


「ええ。被害者の父親が担当した裁判の記録を調べろって言ってました」


「情報の分析はどうする? 零軍に法律家はいないぞ」


 裁判記録や判決文などはどこの世界でも読めるのに理解できないものと相場が決まっている。

 あれは法律用語という外国語なのだ。

 だからちゃんと調べるのには専門家の手が必要になる。


「ギュンターの所に任せます。ギュンターはもともと学者ですし、第二軍にはちゃんと軍属の事務弁護士(ソリシター)がいるはずです」


 事務弁護士って言うのは法廷以外の法律事務をこなす弁護士のことだ。

 高度に専門化された役所ってのは手続きと書類の山なのだ。

 それは軍隊も同じなので専門職が必要になる。

 自前で育てるのは費用がかかるため、資格を持っている人間を雇うのだ。

 特にギュンターは事務の大切さを知っているようで、かなりの予算を事務員や弁護士に裂いているのだ。

 そのせいか第二軍は逆にありとあらゆる費用を圧縮することに成功している。

 ちなみに事務弁護士を雇う予算は第零軍にはないので第二軍に事務をぶん投げている。

 それでも怒られないのは、第零軍にはほとんど書類がないのと今回のように事件の調査という楽しい仕事だからだ。

 適度なスリルは生活に潤いを与えるからな。


「それともう一つ」


「なんだ?」


「ちょっと公式ルートで会うと俺も向こうも困る相手がいるんです。繋ぎをつけてもらいませんか?」


 俺は悪い顔をして言った。

 あー。貴人ってめんどくせえ。

 まったく「おいーっす!」とアポなし直撃できたら楽なのに。

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