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王子様は一級死亡フラグ建築士 ~城からパクってきた銀のスプーンが黒く変色した件~  作者: 藤原ゴンザレス
城からパクってきた銀のスプーンが黒く変色した件

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大憲章

 おいおい。お前のことを思ってやったっていう『いい話』を全否定かよ。

 そう思うかもしれない。

 それは半分当りで半分間違いだ。

 俺は親父のやったことを全否定するつもりはない。

 ただ親父の手の平から抜け出すためにサプライズを積み重ねていく必要があった。

 このあとの大きなサプライズのために。


 親父は何がしたかったか?

 そいつを一言で表すのは難しい。

 人間とは複雑でカオスな生き物だ。

 一定の合理性を有してはいるが、同時に感情でも動く生き物だ。

 例えば目の前の親父。

 こいつはサイコパスだ。

 一見すると合理的で冷酷で人への共感を持たない。

 高度な人工知能はサイコパスと同じ判断をするってのを前世のドキュメンタリーで見たことがある。

 敵兵に見つからないようにするために赤ちゃんを殺せるかってやつだ。

 サイコパスと人工知能は他の人間と自分を生き残らせるために赤ちゃんを殺すほうを選択した。

 彼らは人への共感性に欠け極端に合理的なのだ。

 だから親父は事件を仕掛けた。……と簡単に断言できれば脳や心の研究は存在しないだろう。

 人間はカオスな生き物だ。

 一見合理的に思えても裏でなにを考えているかなんてわからない。

 その証拠に犯罪に走るサイコパスの犯行動機は「人を殺してみたかった」とか不合理の極みだ。

 人間は常に合理的ではないし、サイコパスにだって感情はある。

 たとえサイコパス本人が自分に感情がないんじゃないかと思っていてもだ。

 だから親父の暴走もただ単に国を滅ぼしたかっただけとは言い切れない。

 俺に王位を継がせたかったのは真実だろうし、同時に滅ぼしたかったのも真実なのだろう。

 それをふまえながらも俺は親父の本性をさらけ出させる。


「次にエリック叔父のマーサ殺害についてです。マーサはあなた飼っていた間諜ですね」


「ふむ……間違ってはいないな」


 だろうな。

 証拠はないが推測はできる。

 マーサはハイランダーの長であるゲイルの指揮系統になかったことはゲイル、父さんの曖昧な返事からわかった。

 指揮系統にないのに王の手下として動いていた。

 ハイランダーから見れば裏切り者だ。

 だけど父さんはマーサに害を及ぼすことはなかった。

 俺やメリル母さんを人質に取られていたからだ。


「マーサを使って叔父貴を煽っていたところ、叔父貴がキレてしまったということですね」


 殺人は偶発的だ。

 叔父貴は親父にはめられたのだ。

 と言っても親父がマーサの命を少しでも思いやったかと言えばそんなことはないだろう。

 マーサは殺され損だ。

 答える代わりに王は小さくため息をついた。


「父上はマーサ殺害の濡れ衣を母上に押しつけてエリック叔父貴に俺を殺すしかないように追い込んだ」


「ふむ。そなたの王位の邪魔になるだろうからな」


「そして私はあなたの予想に反してエリック叔父を殺さずに捕まえてしまった」


「少々間違っている。エリックはすでに死んだようなものだ。生きてても死んでもかまわない。そなたに第三軍が手に入る」


 だろうね。ひでえ話だ。


「エリック叔父を殺して伝説を作るはずだった私に今度はギュンターを差し向けた。こちらは私が揉み消すという予想でね。私に名声とギュンターという手駒を与えた」


「ふむ間違ってない」


「そこでおかしなことがあります」


 俺はにやあっと笑う。

 今度こそ、今度こそ親父を超えてみせる。


「なぜ私へ焦って権力の承継を果たしたのか? もちろん父上が死に行く身だというのは承知しています。ですがなぜ今なんです? もっと穏便な方法がいくらでもあるんじゃないですか? 国をめちゃくちゃにしたい。もちろんそれはあります。ですが、国をめちゃくちゃにしなければならない理由があるんじゃないですか? それも軍を動かすようななにかが? さらに言えばハイランダーの血を継ぐ私を王位にすえる理由が?」


 まさか魔王ってことはねえよな。

 自分で言っておきながら俺は少し焦っていた。

 ないよね?


「余が死んだら周辺国とのバランスが崩れる。乱世こそ訪れぬだろうが、これだけは避けられぬ。そのとき、年若い世間知らずの王子よりは『叔父殺しの猛将』、『母親を守るために奮闘した生まれながらの騎士』の方がいいだろう?」


 やはり外国か。


「……つまり、父上は私への王位継承と、国の安寧と、個人的な国への復讐の全てを私を駒にして果たそうとしたわけですね?」


 親父は天井を見ていた。

 考えているのだろう。


「そうとも言えるかもしれない」


 ダメだ。

 やはりこの男の頭の中はカオスだ。

 おそらく親父の中では全てが合理的に繋がっているのだろう。

 そのせいで俺が何度死にかけたと思っているんだ!


「第三軍の再編成も頼むぞ。もはやそなたに刃向かうものなど居らぬだろう」


 余計な仕事を増やすなー!!!

 でもいいもんねー!

 親父のこのカオスをぶっ潰す兵器を持ってきたもんねー!!!


「はい。やりますよ。ただし父上の手の平からは抜け出させて頂きます」


「ほう、面白い。どのような手段でだ?」


 これは卒業試験なのだ。

 俺はもう王子ではいられない。

 シェリルやランスロット、ゲイルとメリル、彼らのために王になるしかない。


 でも王になっても親父の敷いたレールは走らねえ!


 だったら民主主義の世界を体験した俺が好き放題いじってやるよ!!!

 もう後悔してもおそいもんねー!

 俺は懐から羊皮紙を出す。


「これは契約書です」


 王は震える手で羊皮紙を開いた。


「……これは!」


「そうですね。大憲章とでも言いましょうか。王(予定)と諸侯との契約です」


 大憲章。

 もちろん俺のオリジナルではない。

 前世のマグナ・カルタが元ネタだ。中身はだいぶ違うけどな。

 ……え? もっと凄えチートかませ?

 あのな! 俺は全部の能力が人並みなの! 根性以外は全部普通なの! 無茶言うな!


 さてこの大憲章には契約と法の適正手続きについて記されている。

 なあに、今とそれほど変わらない。大きな転換ではない。

 ただ単に、「古来からの慣習はすげえ大事よ」ってのと「王は法に縛られるぜ」って書いてあるだけだ。

 まあ王は法に縛られることを明記するのが大事なんだけどな。

 後の民主主義革命は俺のこの宣言を根拠にするはずだ。

 俺の死んだずっと後のことだが。

 本物のマグナ・カルタも当初はマイナーすぎてシェークピアですらネタにしなかった文書だけど、数百年後に見直されたって経緯がある。

 ようするに些細な抵抗だ。

 でも俺には、歴史には大きな一歩のはずなのだ。

 俺はニヤニヤしながら言った。


「父上、数百年後を思い浮かべてください。王は政治から遠ざかり、権威の象徴となる未来を!」


 なに言ってるんだこの野郎。

 この時点ではそう言われても仕方がない。

 まだここは共和制なんてゴミじゃねえのって世界だ。

 でも俺は親父の頭脳に賭けた。

 あの人工知能並みに合理に偏った脳みそなら先の未来が見えるかもしれない。


「な、なるほど……そうか……」


 親父はどこか遠くを見ていた。

 もしかすると遠い未来を見ていたのかもしれない。

 革命によって王が力を失った未来を。

 民が力を持ち普通選挙が行われるはるか未来を。

 王は視線を俺に戻した。

 そしてにこりと笑った。


「そなたは……そうか……余は息子の成長を見ながら逝けるのだな……」


「そしてもう一つ。私の身分に関しても書いてあります。私が20歳になるまでに使い物にならなければランスロットに王位を譲るってね。20歳の時に騎士の過半数が王にふさわしくないと判断することで私は王ではなくなります」


 下克上上等。

 やるならやってみやがれ!

 ランスロットが王位くれって言ったら惜しみなくあげちゃうけどね。

 どうだ!

 これで俺の勝ちだ!!!

 なぜならこれでランスロットが暗殺でもされたら俺は信用を失う。

 俺は俺が20歳になるまでのランスロットの身の安全を確保したのだ。

 俺は胸を張った。


「くっくっくっく……あーっはっはっはっはっは!!! まさか……最後の最後で出し抜かれるとは!!!」


 親父は笑った。

 楽しそうに。心から愉快そうに。

 それが親父と二人だけで差し向かいで話した最後の夜となった。

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