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王子様は一級死亡フラグ建築士 ~城からパクってきた銀のスプーンが黒く変色した件~  作者: 藤原ゴンザレス
城からパクってきた銀のスプーンが黒く変色した件

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ハッピーエンドに向かって

 一ヶ月後。

 骨折が治ったおかげでコルセットから解放されると俺は諸侯と会談する機会を作った。

 とは言っても第一王子といえどもまだ権力はない。諸侯を呼び出す権限はない。

 だから地味に夜会などに出席して顔つなぎをする。

 幸いにも狂犬の名前は話の内容はともかく注目の的だったからどの貴族も会ってくれた。

 特に現役の騎士やら軍関係者などの肉体派の面々は『あの狂犬王子!』と喜んで会ってくれた。

 もはや俺の存在にツッコミを入れる者は誰もいない。

 王が死に至る病に罹患したという噂は貴族たちの間でもう広まっていた。

 俺が王になるために貴族たちに顔つなぎしているというのは誰の目にも明らかだった。

 誰もが俺に会いたがったし話を聞いてくれた。

 ここまでは親父の計算に入っているに違いない。

 今日も新たな筋肉に会うために俺は夜会に現れた。

 前世の俺だったらこういう場では壁の花だった。

 人脈作りとか意識高い系みたいで苦手だったのだ。

 でもわがままは言ってられない。

 親父に勝つには人脈を築くしかないのだ。


 そんな俺の目の前にいる筋肉は海賊の親分エドワード提督だ。

 お仕事は密輸や強奪。簡単に言うと国家公認のヤクザだ。


「殿下、今日は夜会にご招待いただきありがとうございます」


 片目に眼帯を付けたいかにも船長という顔のいかつい男が頭を下げた。

 だがその顔は「この子犬が」と言わんばかりの舐めきった顔だった。

 以前だったら舐められないように威嚇の一つもしただろうが、今はそんなことをする気はなかった。

 ギュンターと戦ったせいか相手が怖い顔だろうがなんだろうが、強いとか弱いとかどうでもよくなっていたのだ。

 確かに俺は弱い。だけど戦闘は俺の仕事ではない。

 そもそもローズ伯爵みたいになる自信もない。

 それに腕っ節を自慢して偉そうにする必要もない。

 なぜなら最強レベルの腕っ節を持つギュンターですら親父の手の平でもがく羽虫に過ぎないのだ。

 提督も夜会に来ている貴族も同じだ。

 親父の悪意の前では全員がゴミと同じだ。

 同じゴミに強いも弱いも、舐める舐められるもない。

 だから俺はごく普通に笑顔で挨拶をする。


「提督。今日は楽しんでいってください」


 平常心を保つ俺の態度のせいか提督から貼り付けたような笑顔が消えた。


「ほう……粋がらないとは……こりゃは狂犬と呼ばれるだけはある」


「わんわん」


 俺もいいかげん狂犬呼ばわりはにうんざりしてたので犬の真似をした。

 もうめんどくせえな。


「……ぐははははは! こりゃいいや」


 どうやらウケたようで提督は豪快に笑った。

 そう言いながら提督は俺の肩を叩く。

 どうやら俺は提督に試されていたらしい。

 結果は合格らしい。

 生意気なチンピラと思われたか、操りやすそうな子犬と思われたかは別として。


「殿下。ギュンターと喧嘩して勝ったって本当ですか?」


 今度は背中をバンバン叩く。

 完全に体育会系のノリだ。


「偽ギュンターに挑んでアバラを折られてボコボコにされましたよ」


 俺はまぶたの上の縫い跡を見せる。

 あれから血を抜くために切開して、そこを縫ったのだ。

 ああ……消炎剤がある世界が懐かしい。

 提督は俺の傷をじろじろ見る。


「あんな怖いヤツに本当に挑んだんですなあ……ローズのオッサンが褒めてるから面白いとは思ったんですよう……ん決めた。殿下に俺の命を預けます! がはははははは!」


 ギュンターじゃないと言っているにもかかわらず、提督は人の話をまるで聞いていなかった。


「ありがとうございます。内容は聞かなくていいんですか?」


 できれば内容に共感して欲しい。

 そしてありとあらゆる場所に言いふらしてもらいたいのだが、そうそううまくは行かないらしい。


「ええ。殿下のことは信じてますぜ」


 そう言いながら提督は俺の背中をバンバン叩く。


「それに余計なことは知らない方がいい。違いますか?」


「まあ間違ってはいません」


 どうやら気に入られたらしい。筋肉は話が早くて助かるぜ。

 それに提督は案外立ち回りが上手なタイプのようだ。

 つまり「積極的には関わらねえけど、被害が出ない程度で手を貸してやってもいいぜ」という意味だ。

 だとしたらもう話すことはない。

 提督はこれ以上のリスクは取らないだろうからな。


「では私は他のテーブルを回ってきます」


「殿下、行くならそこのテーブルが良いですぜ」


 提督が指をさす。


「なぜですか?」


「あそこの二人は俺から金を借りてます。提督から紹介されたと言えば悪い返事はしないでしょう」


 この化け狸!

 提督は何一つリスクを取ることなく俺に貸しを作りやがった。

 もちろんこの借りをスルーするという手もあるが、貴族社会というのは金と義理人情で回っている世界なのだ。

 この場合、不義理はマイナスにしかならないし、借りを返すそぶりを見せなければ、提督は次から手を貸してはくれないだろう。

 今回は人脈の紹介だから誰かを紹介しろという意味だろう。ギュンターだろうか? それともローズ伯爵か。それともグレイじいちゃんだろうか?


「がははははは! 応援してますぞ。おっとローズ伯によろしくお伝えください」


 パパりん目当てだったか。あとで言っておこう。

 提督と別れると新たな獲物を見つけたサメのように俺は突き進んでいく。


「ごきげんよう」


 俺はにこやかに話しかける。


「で、殿下!」


「提督のご紹介でうかがいました」


「は、はあ……提督の……」


「実は聞いて欲しい話がありまして……」


 こうして俺は人脈を増やして行ったのだ。

 さて、そろそろ俺がなんでこんな涙ぐましい努力をしているのかについて語らねばならないだろう。

 それは親父の目的である俺の王位継承を阻むためではない。

 そんなことをしたらランスロットや俺の母親たち、それに父さんの命まで取りに来るに違いない。

 もっと別の方法でアプローチすることが必要だったのだ。

 だから俺は足りない頭で考えた。

 全員が幸せになるプランをだ。

 それには話を聞いてもらうことが必要だった。

 俺はローズ伯爵の派閥、グレイ公爵の派閥、ギュンターとエリック叔父貴たちの属する軍閥にまで話を聞かせて回ったのだ。

 俺は完全に開き直っていた。

 全員巻き込んでハッピーエンディングにしてやる!

 王にはできない手で俺は事件を解決してやるのだ!

 俺は拳を握りしめる。

 夜会には道化師としてゲイル、父さんも参加していた。

 ゲイルは俺の姿を見るとひざまずいた。

 そして俺の耳元に顔を寄せると小魚が泳ぐくらいの音でささやいた。


「王の剣が見つかりました」


 俺は満面の笑みでガッツポーズをした。

 よし、これで勝てる!

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