56.のろけ話じゃない、断じて
「……まさか、秋月君からのろけ話を聞かされる日が来るとは思わなかったよ」
日をまたいで、放課後のデブ研。
例によって予備校の前に部室を訪れた冴姫さんに、愛羽との一件について相談したところ返ってきたのがこのセリフである。とんでもない誤解だ。
「今の話のどこにのろけ要素が?」
「だって、同じ部活の可愛らしい後輩から正式に告白されたって話でしょう? 私はのろけ話だと思って受け取ったけど」
「どうやら誤配達みたいなので返品をお願いします」
「申し訳ないけど、もうすでにネットカジノにつぎ込んでしまったよ」
それは誤配達ではなく誤送金問題。
なんて茶番はともかく。
「告白なんて雰囲気じゃありませんでしたよ。どちらかというと、煽ってるみたいな」
「煽ってる?」
「いや、上手い表現が浮かばないんですけど……とにかく、あれは告白なんかじゃないと思います。照れてる感じとかもなかったですし」
「告白だからといって、照れていなければいけないこともないと思うけど」
「それは、そうかもしれませんが」
「あ、秋月君は照れるタイプなのかな。ふふっ、ちょっと意外」
テーブルに頬杖をつき、柔和に微笑む冴姫さん。
そんな風に見つめられると今まさに照れそうだったので、毅然を装って目を逸らしておく。
「からかうのはよしてください。俺は告白なんかしません」
「そう、あの子……志賀さんもそんなことを言っていたのよね。自分からは言わないって。でもそうだとしたら、秋月君はどうやって好意を伝えるの?」
「そもそも、好意がある前提がおかしいでしょう。それに、俺みたいな人間が好かれるはずないですし」
「はずないって、どうしてそんな風に思うの?」
「そりゃ……俺なんて、つまらない男ですから」
いつも本ばかり読んでいて、たまに話をすれば嫌味に感じることばかり。
特に、愛羽に対しては酷いものだ。クラスメイトは俺の人間性を知ると大抵話しかけてこなくなるからまだいいが、愛羽は直進しか知らない猪のように突き進んできて止まることを知らない。結果、俺の嫌味をとどまることを知らなくなる。
それでもなお、ウザ絡みをやめようとしないのだから不思議でたまらない。
「ふぅむ、本当に秋月君がつまらないとしたら、どうして志賀さんがそんなに惚れ込むのか分からないね」
「まあ、そもそもほとんど接点がないのに、旧知の後輩みたいな面して近づいてきたやつですから。なに考えてるのか、本当に分からないんですよ」
心の底からこぼした俺の疑問に、冴姫さんは「なるほど」と相槌を打ち、
「じゃあ、ちょっと推理をしてみようか」
「推理?」
「志賀さんがどうしてそれほど秋月君に固執するのか――もしかすると、答えにたどり着くための材料は、もう揃っているのかもしれないよ」




