51.さすがにない、こともない?
愛羽が停学して三日が経つ。
変わったことは特にない。当然だ。今までいないことの方が自然であり、その期間の方が圧倒的に長く、当たり前だったのだから。
思えば、あのやかましくもウザったい後輩と過ごしたのは、入学からのほんの一週間ちょっとだ――朝も夕方も夜も一緒だったせいで時間の進みが随分遅いような気がしていたが、所詮はその程度の関係値。
いなくれば、三日もあっという間に過ぎる。
何事もなく、平穏に。
「……これで、よかったんだ」
自分に言い聞かせるように呟くも、なにか釈然としない自分がいるのも事実だった。
今日は水曜日のため部活がない。デブ研のような部活に決まった休みなど必要なのかという疑問はあるかもしれないが、学校から文化部は水曜を休みにするよう推奨されているのだから従っているまでだ。
小鳥遊先生曰く、水曜日は先生たちがいわゆるノー残業デーらしく、それが関係しているのではと話していた。つまり部活の顧問になっている先生が残業しないようにするため、ということだろう。
その理由は分からないでもないが、デブ研に関しては顧問の小鳥遊先生もほとんど顔を出さないため、別に水曜を休みにする必要はないことになる。どこまでもいい加減な部活だ。自分が卒業したらたぶん廃部になるだろう。
……いや、その前に愛羽が部活をやめることになれば、その時点で廃部かもしれないが。
マイナスな方向ばかりに考えを巡らせながら、駅前通りを歩く。
普通ならスーパーの特売か市立図書館に向かうついでに通るくらいの場所だが、今日はそのどちらでもなかった。
「……まあ、いるわけないよな」
ワックバーガーの店内をちらりと覗いたが、見知った顔は見当たらない。
当たり前だ。バイトが原因で停学になっているのだから。こんなところで引き続きバイトをしているわけはないだろう。
そもそもアパートにも帰っていないみたいだし、たぶん今頃は実家で大人しくしている……とは思うのだが、申請書類のねつ造までやったやつだ。もしかしたら今も、なんて考えていたが、さすがにないか。
そうなるともう駅前に用事はない――はずだったが。
「あれ、先輩?」
聞き覚えのある声に、ハッと振り返る。
立っていたのはまさしく愛羽だった。いつもの制服姿ではなく、ラフなTシャツにジーンズ、それにどこか忘れたがメジャーリーグの有名なチームのキャップを被った私服姿、ついでに黒い布マスクで口元を覆っていたが、キャップからこぼれる金髪と憎たらしい目元だけですぐに愛羽だと分かった。
「やっぱり先輩だ。こんなところでなにしてるんですか?」
「……どう考えても、それは俺のセリフだと思うんだが」
「あ、やっぱり知ってるんですね。あたしがどんな状況なのか」
なんともあっけらかんとした顔で言ってくる。停学処分のせいで落ち込んでいたり、深く反省したりしているような様子は毛ほども見受けられない。
それがなにか無性に腹立たしかった。
「知らないわけだろ。お前は今、停学で――」
「まあまあ、お店の前で立ち話もなんですし。中に入りましょ、先輩っ」
ぎゅっと腕にしがみつかれ、言葉を遮られる。
よく分からない怒りと、公然と抱き着かれたことへの恥ずかしさ、久しい温もりと胸元の柔らかさに感情をぐちゃぐちゃにされながら、引きずられるように店の中へ入った。




