48.彼女が部活を休むわけ②
つまり、愛羽は学校に無断でバイトをしていたわけか。
ただ、志賀の言葉には少し引っかかるところもある。
「正式な、とはどういう意味だ。書面ではなく口頭で許可を得ていたとか?」
「いやいや、そんなに深い意味があるわけじゃないけどね。一応、あの子も然るべき手順を踏んで申請書の提出をしたらしいんだ」
「で、却下されたと」
「だね。そこで諦めていればなんの問題のなかったんだけど、どうやら妹は、却下で戻された申請書を改ざんしたみたいでね」
「改ざん?」
「却下でも、学校が確認した印鑑は押されるだろ? あとは修正テープとか使って文面を書き換え、コピーしたものをバイト先に提出って手口だったらしい」
なるほど。学校印さえ押されていればそれっぽく見えると思ったわけか。
で、バイト先もまんまと騙されたと。よく確認しなかったのか、あるいは愛羽の手口がよっぽど巧妙だったのか。
いずれにせよ、重い処分が科せられそうなことは想像にかたくない。
「バイトがばれたのも、匿名の連絡ってところか」
「そうだね。同じ人かまでは分からないけど」
「駅前のワックなんて目立つところでバイトしていなければよかったものを」
「一応、メインは厨房だったらしいよ。ただ人手が足りない時は接客もすることがあったみたいで、それをたまたま見られたのかもしれない」
「運がいいんだか悪いんだか……そもそも、そんな危ない橋を渡ってまでバイトをする必要があったのか? 別にバイト代だけで家賃や生活費をまかなってるわけでもなかったんだろ」
「そうなんだけどね。バイトはなんていうか、妹なりに一人暮らしを許可してもらうための自発的な条件だったのさ」
自発的な条件とは、珍しい言い回しを聞いた気がする。
正しいかは分からないが、自分から提示した条件という感じか。
「元々、愛羽は七山高校に行くこと自体を反対されていたんだ。通うなら電車やバスを乗り継がないといけないくらい遠いしね。僕みたいに部活の特待で寮に入るならともかく、愛羽は特待の誘いも断っていたから」
「ということは、誘いがあったわけか」
「もちろん。愛羽は小学生の時から県内じゃ有名な選手だったし。七山以外にも誘いがあったくらいだけど、全部断ったんだ。高校じゃバスケをしないからって」
意外だった。というか、腑に落ちない。
実家を出て七山に通いたいのなら、特待の誘いを受けて寮に入っていればそれで済む。わざわざあんな古いアパートに一人暮らしをすることもなかったはずだ。
よっぽどバスケ部が嫌だったのか、それとも――。
「なのに、わざわざ七山に通いたいなんて言い出した時は、うちの両親も困惑していたよ。バスケをするでもないのにどうして七山なのかって。それも一人暮らしをするなんて言い出すもんだからさ……理由を訊いても、はっきり答えてくれないしさ」
「そんなので、よく許可が出たものだな」
「まあ、妹にとってラッキーだったのは、強力な後ろ盾があったことかな。賛同者と言ってもいい」
賛同者――深く考えるまでもなく、俺の脳裏にある人物の顔が浮かび上がる。
「もしかして、うちのばあさんか……?」
「惜しい。うちの祖母も、だね」




