43.玄関先の攻防
結論から言うと、志賀にこの場を切り抜ける考えなどなかったに違いない。端から考えていたかさえ怪しい。
「こんにちは、元部長さん」
ドアを開けると、志賀はにこやかな声でまず挨拶。
クールな冴姫さんも、この出迎えには少しだけ目を丸くさせていた。
「……これはこれは。一瞬、部屋を間違えたのかと思ったけれど」
志賀の背後にいる俺と目が合うと、冴姫さんは興味深そうに微笑む。
……気まずい。なにからどう説明すればいいものか。まったく頭が働かない。
たじろぐ俺に対し、志賀は普段通りの調子だった。
「いいえ、合っていますよ。ここは間違いなく、秋月空太先輩のお部屋です」
「そうみたいね。ネームプレートも『秋月』のままだし……だとすれば、どうしてこの下級生がいるのか、疑問ではあるけれど」
「疑問? どうしてですか」
絶対分かり切ったことだろうに。まるで冴姫さんを煽るような態度で訊ね返している。
「部活の後輩が、先輩の部屋にいるのがそんなに疑問ですか?」
「そうね、それも秋月君の大手門の如き堅い性格を考えると疑問ではあるけれど。その辺りはまあ、志賀さんの押しが破城槌の如き突破力だったとすれば納得がいかないこともないわね」
大体合ってはいるが、冴姫さんの表現はたまに独特だ。
というか、俺はそんなに堅物な性格だと思われていたのか。積極的な否定はできないのが辛いところだ。
「でもね志賀さん、私が小鳥遊先生に聞いた話だと、あなたはこの二日間、病気でお休みしていることになっているの。そんなあなたが、同じく二日お休みの秋月君の部屋にいる。それも部屋着姿で、これといって具合が悪そうな様子もなく……私が疑問に思うのは当然ではないかしら」
「なるほど、そういう疑問なわけですね。ところで、元部長さんはここへなにをしに? この時間は予備校があるんじゃないんですか」
「私はただのお見舞い。二日も病欠なんて珍しいと思ったから。予備校は行く時間が決まっているわけではないから大丈夫よ。毎日必ず行かないといけない、というわけでもないから」
「へえ、予備校って結構自由なんですね。でも、わざわざお休みしてお見舞いなんて、元部長さんはとても後輩想いな方ですね――あ、もしかして実はお付き合いされていたりとか?」
心にも思ってもいないであろうことをなぜか吹っかける志賀。
新手の嫌がらせなのか、はたまた本当になにか考えがあってのことなのか。
「まさか。私はむしろ、志賀さんの方がすでにお付き合いしていると思ったのだけど」
冴姫さんの態度は相変わらず冷静かつ不敵なものだった。恐らく慮外であっただろう志賀の言葉にもまったく動じる様子はない。
……なんだろう、それはそれで悲しい気もするが。分かっていたことだが、俺はまったくといっていいほどそういう対象として意識されていないのだなと。
「そういう質問を私にしてくるということは、志賀さんも秋月君とはまだ特別な関係には至っていないわけね」
「はい、今はまだ単なる後輩でしかありませんので。ただいま絶賛攻略中です」
「あら、随分とオープンな好意なのね……とすると、もしかしてこの二日間は、一人暮らしで寄る辺のない秋月君を看病するために休んでいた、ということなのかしら」
顎に手を当て、まるで名探偵のような雰囲気を醸す冴姫さん。
鋭いのはさすがだと思うが、今の問答でなぜそこまで的確に分かるのかは謎だ。男には理解できない感覚的な部分なのかもしれない。
この先の展開はどうしようか少し悩んでいたのですが、自分の中ではなんとなく見えてきたなぁと。
お楽しみに~




