41.平穏、からの……?
結局、この日も学校は休むことにした。
行くべきかどうか割とぎりぎりまで悩んでいた時、志賀がある賭けを持ち出してきたのだ。
「熱を測ってみて、三十七度以上あったら休むということにしましょう」
賭けというよりは判断基準だが、測ってみたところちょうど三十七度だった。
しがみついてきた志賀を引きはがすのに何分か熱が上がったのではと思うが、確かにまだ万全ではない。微かな頭痛と気だるさはある。今日休めば連休という状況も最終判断を下す有力な材料にもなった。
「じゃあ俺は休むが、もう看病の必要はないからな。志賀は学校に行ってもいいんだぞ」
「やだなぁ先輩。今の先輩がどうやって三食用意する気ですか。まさか外出して総菜買いに行くとか言わないですよね?」
「最悪はそのつもりだったが、カップ麵の在庫もまだあったはずだ」
「ダ・メ・で・す。食欲あるなら今日はできるだけ栄養のあるもの食べないと。特にカップ麺なんてありえない寄りのありえないです。もし食べてたら永久に没収です」
明らかに過剰な権限を振りかざされ、大勢が決した。どうやら俺は今日も志賀の世話になるらしい。
とはいえ、昨日に比べれば幾分穏やかな一日だった。気分的には。
志賀は身支度や朝食の準備、軽く部屋の掃除を済ませると一旦自分の部屋に戻り、その後は買いものに出かけていた。
その間、俺は久しぶりに部屋で一人になったが、もう上体を起こしていても辛くはないため、いつも通り読書に耽った。昨日がほとんど眠りっ放しだったため頭がぼんやりしており、普段ほど集中できなかったがまったく本が読めないよりはマシだ。
ただし、帰ってきた志賀からは注意を受けた。
「細かい文字は疲れるからまだやめておいた方がいいと思いますけど。なんならまたあたしが読み聞かせしてあげてもいいわけですし」
時々母親みたいなことを言うのはなんだろう。女性特有の母性本能とかが関係しているのだろうか。
野菜中心の昼食を済ませたあと、午後は互いにゆったりとした時間を過ごした。
相変わらず俺は黙々と本を読み、志賀はスマホをいじりながら時々俺にたわいない話を振ってくる。
二人で部室にいる時と似たような雰囲気だが、今までほどウザったい感じがしないのはどうしてだろう。志賀がいる空間にすっかり慣れてしまったからかもしれない。それもそれで複雑な気分だった。
ともあれ、今日さえ何事もなく安静に過ごせば、明日からはまた日常に戻れるだろう――と思っていた矢先。
校時でいえばちょうど放課後になった頃、一つのメッセージが平穏を崩す。
【SAKI:体調はどう?】
スマホに表示されたのは、冴姫さんからのライン。
最近では珍しい、というか今年度に入ってからは初めてだった。今までは大体部室で会っていたし、そもそも冴姫さん自身、普段からあまりスマホを触らない人なのだ。
文面からして、俺が体調不良で休んでいることを知っているのだろうか。
【KU-TA:お疲れ様です。誰かから聞いたんですか】
【SAKI:小鳥遊先生からね。二日も休んでいると聞いたからどんな重症かなと思ったのだけど】
【KU-TA:ご心配をおかけしてすみません。ただの風邪です。今日も行けそうではあったんですが、念のためというか】
【SAKI:大丈夫そうなら安心したわ。そういえば、同じく小鳥遊先生から聞いたのだけど、あの子も風邪でお休みしているそうね】
あの子――それが誰なのか瞬時に理解し、喉の奥が少し詰まる。
【KU-TA:あの子?】
【SAKI:デブ研の新入部員、志賀愛羽さん。秋月君は知らなかったの?】
なんと答えたものか。
知らないと返せば嘘をつくことになる。別にそれでもいい気はするが、なんとなく嫌な予感がしないでもない。
俺が返事に悩んでいると、冴姫から続けざまにメッセージ。
【SAKI:まあいいけど。とりあえず、今からお見舞いに伺うから。秋月君、アパートにいるわよね?】
額に冷や汗が生じる。
嫌な予感が、現実に変わりそうなことを実感して。




