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ウザいけどカワイイ後輩と四六時中ダベる日々。  作者: かるたっくす
2年・春――後輩、ときどき押しかけ新妻的な日々
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39.つかの間の忘却



「はぁ~、ページ少ない割には結構時間かかるもんですね。ちょっと疲れちゃいました」


 志賀はぐっと伸びをしながら立ち上がり、台所からペットボトルに入った麦茶を持ってくる。

 あんなもの、冷蔵庫に入れた覚えはない。あらかじめ自分の部屋から調達しておいたのだろう。


「読み終わった感想がそれか。もう少し余韻を楽しむとかないのか」

「んっ、んっ、んっ……ぷはっ。え、先輩も飲みたいですか?」

「違う。というか、なに当然のように冷蔵庫使ってるんだ」

「そんなの今更じゃないですかぁ。食材とかもいちいち隣から取ってくるのも面倒ですし。いっそ冷蔵庫ごと持ってきたいくらいです。先輩の小さいですし」


 冗談じゃない。俺が払う電気代が増えるだけじゃないか。

 まあ、正確には俺の親なわけだが。


「あ、なんか嫌そうな目してる」

「当たり前だ。百害あって一利なしだろ」

「そんなことないと思いますけど。どうせご飯はこの部屋で一緒に食べてるわけですし、効率的です」

「そもそも、この部屋で一緒に食べてることがイレギュラーなんだろ」

「そっか、あたしの部屋で一緒に食べればいいですもんね。通い妻ならぬ通い夫みたいな」


 なぜそこまでして一緒に食べたがるのか。

 いや、ここでそれを追及することこそ今更。こいつの思うつぼだ。

「そんなことより、せっかく小説を一つ読み終わったのに、感想が一つも出てこないのはどういうことだ」

「一休みしたかったんですよぉ。こんなにたくさん声に出して読んだの、生まれて初めてだったので」


 まあ、掌編とはいえ文字数は結構あるしな。

 そもそも小説を読むことに慣れていなそうな志賀なら、だれずに読み切っただけでも奇跡と思うべきか。


「そうだな。正直、最後までちゃんと読んでくれるとは思わなかった」

「あれ、珍しく誉め言葉っぽく聞こえるんですけど」

「ああ、褒めてるよ。見直した……少しだけな」


 ちょっとストレート過ぎたかなと思い、あえての蛇足。

 けれど志賀は、少しも嬉しさを隠そうとしなかった。


「ふふっ、先輩は小説のこととなると、素直にあたしを褒めてくれるんですね」

「褒めるかどうかはともかく、俺はいつも素直だ」

「またまたぁ、いつも照れて本音を隠してるくせに。ほんとはもっとあたしといちゃいちゃしたいくせに」

「熱に浮かされても、そんなことはありえん」

「ふぅん? でも、あたしは結構楽しかったですよ、読み聞かせ。これはあたしの本音です」


 ペットボトルをテーブルに置くと、志賀はまた文庫本を手に取る。

 先ほどよりも、どこか大事そうな手つきで。


「言葉はところどころ難しかったですけど、読んでると景色がぱーっと浮かんでくる感じで……特に、女の子が窓からみかんを放るとこ! あそこの文章、凄く好きです。それまでずっと暗い感じだったのが、一気にぱあっと開けた感じで」

「ああ……あそこがこの話の肝だったからな。絵的にも、暗いトンネルを抜けたあとの景色だから、いっそう明るく感じられただろう」

「トンネルですか?」

「主人公の『私』は、理由は分からないが気分がふさぎ込んでいて、それが文章の端々から伝わってくる。二等客席に乗れるくらいだから、社会的にもそこそこの地位にある人物のはずなのに、自分の人生を下等だとか言っている。けれどそういう憂いを、偶然乗り合わせた娘の清々しい行いを見たことで晴れやかになったことが、暗いトンネルを抜けた時の気分とも重ね合わせているんじゃないかって――」


 思いがけず饒舌になりかけ、自制する。

 好きな小説のこととなるといつもこれだ。冴姫さんにも同じことをやって、あまりの変わりように笑われたことがある。


「なるほど……読書好きの人はそんな見方をするんですね。なんか、すっごく国語って感じがしました」


 志賀は、笑わなかった。

 意外にも――という言葉を、今日だけで何度も使っている気がするが――志賀は感心を示してくれた。やや独特な感心の仕方ではあったが。


「先輩は、このお話が好きなんですか?」

「まあ、何度か読むくらいには」

「へえ。どういうところが好きとかあるんですか?」

「どういうところ……さあ、なんだろうな」


 俺は悩んだ、ふりをした。

 本当のところ理由は明白だった。世間や他人、あるいは自分自身に対して漠然とした嫌悪感を抱いている主人公の『私』に、自分を重ねてしまうところがあったから。

 だからこそ、主人公のことが羨ましいと思っていた。

 たとえつかの間でも、偶然乗り合わせた少女のおかげで、あらゆる憂いを忘れることができたという主人公のことが。


「好きに理由はなんかない、とか言っておいてみるか」

「うわ、心にもなさそうな言葉です」

「それほどでもないが……」

「いいえ、絶対おかしいです。先輩、またなにか本音を隠してますね?」


 ぐいっと顔を近づけてくる志賀。

 俺は鼻を鳴らしながら、なんでもないように目を逸らす。


 こういう時に限ってどうしてこうも鋭いのだろう。

 本音はそう――俺自身も、忘れることができていたからかもしれない。


 志賀に読み聞かせをしてもらっている時、そのつかの間。

 物語の中の『私』のように、自分自身に対する嫌悪感を。



明日は更新お休みするかもです。。。

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