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ウザいけどカワイイ後輩と四六時中ダベる日々。  作者: かるたっくす
2年・春――後輩、ときどき押しかけ新妻的な日々
34/57

34.お昼ご飯は卵粥



 志賀は昼過ぎまでぐっすりだったが、俺は寝つけずぐったり横になっているだけだった。

 すぐ隣で異性が眠っている状況にドキドキして――なんて理由ならまるでラブコメだが、そもそも俺は十時頃まで眠りっ放しだったのだから。単純に睡眠量の限界に達しただけだろう。そう思うことにする。


「お昼は卵粥(たまごがゆ)にしてみました。味変しないと飽きるかなと思いまして」


 志賀は当然と言わんばかりに昼飯まで用意してくれた。

 卵なんて俺は買っていないから、恐らく自分の部屋から持ってきたのだろう。卵だけでは味変というほどの代わり映えはない気もしたが、単なるお粥より栄養価が高くなったことは間違いない。


「はい先輩、またあーんしてください」

「いや、さすがにもう自分で……」

「ダメです。せめて今日一日はあたしに甘えてください。無理は禁物です」


 なんだかとんでもない重病人のような扱いだが、どう考えてもただの風邪なのだから。別にここまで頼り切りになるほどの状態でもないはずなのだが。

 ちなみに体温計も志賀に借りて、現在の体温が三十七度八分だと判明している。平熱にはほど遠いが、思ったより高くはない。


「こうして床に臥す先輩に甲斐甲斐しくご飯を食べさせていると、まるで……」

今際(いまわ)(きわ)にこれが最期の食事かと噛み締める虚弱な文豪とその妻のようだな」

「たいそう的を射た喩えですね、先輩っ」


 こんなのが的を射ていて堪るか。そもそもなんだこのコントみたいなやり取りは。

 いや、乗った俺も大概どうかしているが。風邪のせいにしておこう。


「本当に、おかしなやつだな」

「はい?」

「恨みがあるとかなんとか言っていたくせに、どうしてここまで面倒を見ようとするんだ。ウザ絡みしてくるのはともかく、看病なんて恨みがある相手にすることじゃないだろ」

「あはは、普段もウザ絡みしてるわけじゃないんですけどね。あたしなりの愛情表現のつもりなんですけど」


 認識の乖離が(はなは)だしい……。

 まあ、そうだとしたらますますわけが分からないわけだが。


「実はあたし自身も、ちょっとびっくりしてるくらいなんですよね。去年の今頃なんて、まさか自分がこんなことしてるなんて想像もつかないと思います」

「ということは、去年の今頃はまだ接点がなかったということか?」

「おや、こんな状態で推理ですか? ダメですよ、頭使うようなことしたら。せっかく下がってきた熱がまたヒートしちゃいます」

「これくらいで熱暴走するほど俺の脳はやわじゃない。そもそも考えてほしくないなら真相を話せばいいだろ。俺がなにをしたって言うんだ」

「……そうですか。やっぱり気になっちゃいますか。あたしのこと」


 当たり前だ。ここまで引っ張られればたとえB級映画の結末だって多少は気になる。

 どうせまた誤魔化されるのだろう――そう高を括っていた俺だったが。

 今回の志賀は、いつになく思い詰めた表情でこちらを見下ろしている。

 まさか、本当に話す気になったのか……?


「あの、先輩。実は――」


 と、志賀がようやく口を開いたところで。

 俺のスマホから軽快なマリンバの音が響き、二人して総身を震わせた。

 見ると、祖母からの電話だった。


『あんた、今日学校を休んだって?』


 電話に出てすぐ、ばあさんの音圧強めな声が耳朶に突き刺さる。

 念のため、志賀には絶対喋らないようアイコンタクトをした。恐らく伝わったのか、志賀もこくこくと人形のように頷く。


「あ、ああ。なんで知ってるんだ」

『学校から電話があったんだよ。熱だって聞いたけど、大丈夫かい。飯は食えてるのかい』

「とりあえず、お粥を少し」

『お粥? あんたがかい?』


 なにやら訝しむ声だった。

 適当に聞き流してくれればいいものを、変に鋭いばあさんだ。


「とにかく、安静にしてるから。もう切るぞ」

『はいはい。無事ならいいんだよ。あんまり迷惑かけるんじゃないよ、学校にもね』


 ブツ、と電話が切られる。

 ……最後、『学校にも』って言ってたか?

 やっぱりなにか勘づかれたのか。妖怪か、あのばあさん。


「ちょっとびっくりしちゃいましたね、先輩」


 まるで、アトラクションを一つ終えたような声と笑顔だった。


「でも、正直に言ってもよかったんですよ? お隣の愛羽ちゃんに作ってもらったんですって」

「……言えるか、バカ」


 実にこぢんまりとした罵倒に、志賀はまたおかしそうに笑いながら、卵粥を掬ったスプーンを俺の口元まで運んでくる。

 今だけは拒みたい気分だったが、それはそれで負い目が透けているような気がして、結局食べざるをえなかった。



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