32.看病、その二
額に心地よい冷たさを感じ、目を覚ました。
枕元には体育座りをした志賀の姿があったが、装いが制服ではなくなっていた。白のパーカーに灰色を基調としたラフなショートパンツ。どうやら部屋着のようだった。
「あ、先輩。具合はどうですか?」
俺が目を開けたことに気づいたらしく、志賀が気遣うような声で訊ねてくる。
「一応、あたしの部屋から冷えピタ持ってきて貼ってるんですけど、気持ちいいですか?」
「……まだ、いたのか」
本来なら感謝を述べるべきだったのだろう。
分かってはいたが、口からこぼれたのは率直な疑問が先だった。
「学校はどうした。早く行かないと……」
「大丈夫です。あたしも休みましたから」
「なんだと?」
「もう朝の十時です。先輩、あれからまた三時間くらい眠ってたんですよ」
三時間か……俺も休むとは決めていたが、随分派手な二度寝をかましたわけだ。
――なんて自虐はともかく。
「なんでお前まで。今日から集団宿泊だったんだろ」
「はい。でも、こんな状態の先輩を置いていくわけにはいきませんから」
「だからって、嘘ついてまで」
「嘘はついてないですよぉ。ちゃんと連絡フォームにも書きましたから――『具合悪いので欠席します』って」
してやったり、と言わんばかりのいたずらっぽい笑顔だった。
『誰の』具合が悪いかまでは明言していないから嘘ではない、というロジックなのだろう。小賢しいという感想以外浮かばない。
「修学旅行ならともかく、集団宿泊なんて面倒なことしかないって知ってますから。あ、でも安心してください。たとえ修学旅行だったとしても、先輩を見放して旅立つつもりはありませんでしたから」
「バカ言うな……俺のことはいいから、今からでも」
「もうっ、素直じゃないですね。バスはとっくの昔に出ちゃいましたし、今から行くなんて絶対無理ですから。そんなことよりも先輩の看病の方が大事です」
はっきり言い切ると、志賀は立ち上がって台所へ向かい、ほどなく茶碗とスプーンを手に戻ってきた。
「看病その二はご飯です。お粥を作ったので、あたしが食べさせてあげます」
「……どうでもいいが、その一はなんだったんだ」
「顔の汗を拭いて、冷えピタを貼ってあげたことです。安心してください、添い寝してねんねんころりんの工程はまだこれからなので」
「まったく期待していない工程だ……普通に一人でゆっくり寝かせてくれ」
「相変わらず天邪鬼さんですね先輩って。じゃあ寝たままで結構ですので、ちゃんとお口開けてくださいね」
つまり、あーんを受け入れろというわけか。
普通なら絶対に断るだろうが、確かに今は上体を起こすのも辛い状態だ。無理ではないが、気持ち悪くなって吐き気を催しかねない気配はある。
ここは有難く従っておこうと口を開けた――が、口元まで来たはずのスプーンはなぜかUターンし、
「ふーふーするの忘れてました。やっぱり看病といえばこれが定番ですねぇ」
……少しでも有難く感じた俺がバカだった。平手打ちしたい、俺自身を。
しかしまあ、志賀お手製のお粥はほどよい温度で食べやすく、塩味も効いていて非の打ちどころがない出来栄えだった。多少悔しく感じるほどに。




