31.体感三十八度
翌朝――目が覚めてすぐ、異変に気がついた。
体が重い。頭痛がする。顔中が熱い。
「熱あるな、これ……」
額に手の甲を当てながら断言する。
体温計は手が届く範囲にはないが、測らずともなんとなく分かる。これは少なくとも三十八度以上はあるやつだ。
昨日の雨のせいか……帰った時からすでに寒気はしていたが、まさか今日いきなりとは。
枕元からスマホを手繰り寄せ、時刻を確認する。
まだ朝の七時前。こんな時間に起きること自体、普段ならありえない。
重たい体でなんとなか寝返りを打ち、スマホを操作する。
すぐにでも二度寝したいほど辛いが、次は何時に目を覚ませるか分かったものではない。意識があるうちに休むことを学校に伝えておきたい。
幸い、七山高校の学校ホームページには出欠連絡フォームが設置されている。当日の始業時間前までならここに入力しておけば担任にも伝わる仕組みだ。わざわざ電話をする必要もないから今回みたいな場合はとても助かる。
「……よし、とりあえずこれで……」
フォームを入力し終えてスマホを置くと、どっと眠気が襲ってきた。
これは本格的にやばいかもしれない。鼓動の音に合わせて頭の芯がズキズキと痛む。たぶん体を起こしたらもっと強い痛みに変わるだろう。
本当なら頭痛薬を飲んでから寝たいが、起き上がれない上に朝食を食べる気力も湧きそうにない。
諦めて眠りに就きかけた時、玄関の方から物音がした気がした。
それが幻聴でないと確信したのは、ほどなく、
「……おはようございます。現在時刻は、朝の七時くらいですかね。今日も、先輩のお宅に、こっそり入っちゃってます」
なにやらひそひそとした声で、なにやらいたずらっぽい調子の言葉が頭上から聞こえてきたからだ。さながら寝起きドッキリ前のリポーターのような。
朝っぱらからこんなことをするやつを、俺は一人しか知らない。
「……志賀」
「わっ! 先輩、起きてたんですか」
甲高い声が部屋の中と、俺の脳髄に響く。涙が出そうなほどに。
「……あんまり喚くな。近所迷惑だ」
「先輩が驚かせるのが悪いんじゃないですかぁ。これじゃ逆ドッキリです」
マジで寝起きドッキリでもするつもりだったのか。
普通の状態でもやめてほしいが、今日は特に最悪の気分だ。
「勘弁してくれ……今日は、ちょっと」
「先輩? なんか、苦しそう?」
「具合が悪いんだよ。ただの風邪だと思うが」
「風邪ですか……わっ、すっごい熱!」
俺の額を覆った志賀の手が、沸騰したばかりのヤカンにでも触れたように弾かれる。
「もしかして、昨日の雨のせいで」
「いや……季節の変わり目だからな。単なる巡り合わせだ」
俺としたことが、思わず気遣ってしまった。
見つめている志賀の目が、あまりに心配そうだったから。
「今日から集団宿泊なんだろ。俺のことはいいから、早く行け」
「でも、先輩は……」
「学校は休む。連絡もしてある。だから、心配ない――」
やばい。限界だ。
再び強い眠気に苛まれ、なけなしの意識が引きずり込まれていく。
先輩、先輩と呼びかけてくる声が、次第にフェードアウトするのを感じながら。




